色彩
飛行船が着陸したのは、バートル国の首都から少し離れた草原だった。城や、城下町には、飛行船を着陸させられる空き地が存在しない。
飛行船が着地すると、すぐにバートル国の迎えの馬車が近づいてくる。ここではドーデン帝国のような、蒸気機関は使用されていないらしい。
馬車は六頭立てで、屋根つきの箱型タイプだ。大きさは、マイクロ・バスほどはあった。馬車は一台だけではなく、数台が連なって近づいてくる。当然、ドーデン側の、王子の随員、護衛の兵士のためである。
飛行船が着地した空き地には、すでに軍楽隊が勢ぞろいし、バートル国とドーデン帝国の国歌を、交互に演奏していた。日差しに、軍楽隊の金管楽器がきらっ、きらっと、眩しく反射している。
馬車が停止すると、煌びやかな衣装を身に纏った、迎えの人間が出てくる。
市川は飛行船の窓から眺めて、まるで人間信号機だと思った。何しろ、真っ赤な上着に、緑色のスカーフ、真っ青な腹帯、黄色のズボンという出で立ちである。
「すげえ色の取り合わせだなあ」
感想を述べると、洋子が噛み付いた。
「何よ! あたしのセンスが悪いって言いたいの?」
目の前の人物を色彩設計をしたのは、洋子だった。市川は思わず、洋子に見えないように舌を突き出した。
市川の知る限り、アニメでは色彩設計の仕事は、ほぼ女性が独占している。ついでに言うと、なぜか色彩設計をしている女性の普段の服装は、吃驚するほど趣味が悪い。市川がこれまで見知った色彩設計の女性の服の色のセンスは、信じられない取り合わせの例が多かったのは事実だ!
今まで目撃した中で、もっとも酷かったのは、紫色のカーディガンに、真っ赤なスエット、緑と黄色のチェックのスカートという取り合わせで、目にした瞬間、色彩の爆発といった感じだった。しかも恐ろしく肥満しているのに関わらず、好んで膨張色である赤を多用していた。しかし、実際の色彩設計はちゃんとこなしていたから不思議である。