啜り泣き
返事はない。部屋は、がらんとした静寂が支配している。
木戸は机から離れると、いきなり床に大の字に寝そべり、ジタバタと手足を駄々っ子のようにして暴れる。
「もう、やめだ! やめ! 絵コンテなんか、知るものか!」
──なんや……。また拗ねてるんかいな……。厄介なお人やな……。
うんざりしたような〝声〟が部屋に響き渡った。寝そべった木戸は、上半身をむくりと起こし、鋭く視線を辺りに配る。
「おれは本当に、自分で絵コンテを描いているのか? お前が、おれを操って、絵コンテを描かせているんじゃないのか?」
空中に苛立ったような「チョッチョッ!」という舌打ちが響く。
──なんで、そないな面倒臭い手間ぁ掛けますんや。わいが自分で絵コンテ描ければ、こんな苦労はせんでええやないか!
木戸は怒号した。
「おれには、物語を作る才能はない! 口惜しいが、事実だ! だけど、これを描いているおれは、次から次に場面が頭に浮かんで、勝手に鉛筆が動いて、絵コンテを完成させちまう……。おれには金輪際できねえ……! 他の誰かが、おれを使って描いているんじゃないのか? 違うのか……?」
最後は、啜り泣きに近かった。
──まあまあ……。そう自棄にならんでよろし。あんたらの『蒸汽帝国』の世界は、すでに一人立ちしておますのや。一つの、完全な世界になろうとしてる、真っ最中や! それもこれも、あんたというお人がいての奇跡と言ってよろしいな。
〝声〟は、猫撫で声になった。木戸の惑乱に、慌てて宥めようとしているらしい。