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猫撫で声
信じられない思いに、木戸純一は絵コンテ用紙から顔を挙げ、たった今、自分が書き上げた絵コンテを、まじまじと眺めた。
ストーリーは中盤に差し掛かり、主要キャラクターのアラン王子が飛行船の謁見室において、エリカ・タナーと名乗る女兵士にあわや、命を狙われるという展開に至っていた。
こんなシークエンス、原作にはない!
最初は原作通りの展開であったが、いつの間にか、木戸の予想もしなかったストーリーに変更していた。
まるで自動書記のごとく、あるいは走らせている鉛筆が勝手に動いて、自分の知らない『蒸汽帝国』のストーリーを物語っているかのようだった。まるで自分は、誰か知らない相手の、筆先として存在しているのではないか、という疑念が常に湧き上がっている。
木戸は演出部屋を狂おしく見渡した。自分以外、誰もいないはずの空間に向け、「おい!」と怒鳴り声を上げる。
「聞いているんだろう? 返事をしろ!」