年齢
回想が終わり、市川は再び飛行船の、王族専用客室に立ち戻っていた。飛行船は空中に静止して、窓の外の景色はぴくりとも動かない。
新庄は、淡々と後を続けた。
「卒業後、おれはアニメ制作会社に潜り込んだ。おれは知っての通り、絵も描けないし、物語も作れない。しかし、雑用をこなすのは、苦にならないから、ぴったりの職場だった。木戸は『蒸汽帝国』で漫画家としてやっていけなくなって、おれがアニメ業界に引っ張り込んだ。後は、皆が知るとおりだ」
市川は背筋を伸ばし、新庄に向かって尋ねかけた。
「それで、田中絵里香はどうなった?」
新庄は肩を竦めた。
「結婚したよ。子供もできて、木戸とは二度と顔を合わせなかった」
市川は首を捻った。
「それにしちゃ、妙だな」
新庄は目を見開いた。
「何が、妙だと言うんだ?」
市川は新庄をじっと見詰めた。
「あんたの話じゃ、絵里香は二才しか、歳が違わないんだろう? この世界で出会ったあの娘は、どう見ても二十歳前後にしか、見えない。順当なら、新庄さんか、木戸さんと、そう年齢は違わないはずだ。若すぎら!」
新庄は「うむ」と頷く。
「それについては、おれも不思議だと思っていたんだ。おれは現実の絵里香を知っているが、この世界で出会った絵里香とは、別人だ。あれは、本物の絵里香だろうか?」