原画
抽斗を開けた絵里香は、身を強張らせた。全身が嫌悪感に震える。
「これ、何?」
引き出しには、一杯に絵里香の似顔らしき原画が詰め込まれている。
絵里香の横顔、正面顔、笑顔、憂い顔。
挙げ句……。
絵里香は一枚の原画を手にした。
ヌードであった。絵里香の顔をした、女性のヌード画が描かれている。
「あんた、仕事をそっちのけで、こんな馬鹿な真似をしていたのっ?」
項垂れた木戸は返事もしない。
と、木戸の顔がゆっくりと持ち上がる。両目には、奇妙な熱情が浮かんでいた。
「絵里香……」
膝まづいた姿勢のまま、ずりずりと絵里香に近寄っていく。絵里香は総毛立った。
「近寄らないでっ!」
木戸は両手を差し伸べ、必死の勢いで絵里香に掻き口説く。
「絵里香、おれは、君が好きだ! そりゃ、君が祐介を好きだったのは知っている。でも、もう、祐介はこの世にいない。なあ、絵里香、おれと……」
「それ以上、言わないでっ! 聞きたくないっ!」
絵里香は両耳をきつく両手で押さえると、目を閉じて叫んでいた。
木戸は構わず続ける。
「なあ、おれ、君がいれば、漫画も描けるんじゃないかと思うんだ。おれ、一人ぼっちなんだ……。なあ、頼む……おれと……、おれと一緒になって……」
絵里香はぐわっ、と足先を蹴り上げた。爪先が、まともに木戸の顎に命中する。木戸は「わあ!」と悲鳴を上げ、引っくり返った。
床に仰向けになった木戸に、絵里香はきっと指先を突きつけた。
「もう、あんたなんか、顔も見たくないっ! あんたは、祐介の原作を汚したのよ! 絶対、許さないからねっ!」
一息に捲し立てると、絵里香は大股に木戸の側を通り抜け、出口に向かう。
「絵里香……待ってくれ……!」
背中に、木戸の泣き声のような叫びが追い縋る。だが、絵里香は一瞥もせず、駆け出していた。