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アニメのお仕事・改  作者: 万卜人
#9 回想のアフレコ・ダビング
120/213

指きり

「えっ?」


 新庄の言葉が、絵里香には意外だったらしく、目を丸くしたままでいる。木戸も、新庄を見詰めた。


「祐介だったら、言うかもしれないな。名前を出さなくてもいい、と。どうだい、絵里香。祐介の性格、君ならよく知っているんじゃないのか?」


 新庄は最後のセンテンスに意味を込めるように強調し、ちらりと木戸を見た。

 木戸は新庄の言葉に、顔を真っ赤に染めている。顔を背けたまま横目で絵里香を盗み見しているが、視線には嫉妬がめらめらと燃え盛っていた。


 ふっと絵里香の勢いが萎む。

「そうね……。祐介だったら、言いそうな台詞ね。あの人、原作者の名前云々なんか、全く気にしない人だったから……」


 顔を挙げ、もう一度きつい眼差しになると、木戸に対し、言葉を浴びせかける。

「いいわ、もうゴチャゴチャ言うのは、やめるわ! だけど、約束なさい!」


 木戸は怯えた視線を、絵里香に向けた。

「や、約束?」

「そうよ! 祐介の『蒸汽帝国』を、絶対に完結させるって約束するのよ! あれは未完の大作なんだから……。途中で放り出すなんて、あたし、許さないっ!」



 暫し、三人の間を重苦しい静寂が支配した。



 新庄が木戸の脇腹をつついた。

「おい!」

 木戸は弾かれたように、頷く。

「わ、判った……。きっと、完結させる。約束だ!」

 木戸は大きく息を吸い込むと、一歩、絵里香に近づいた。


 指――小指を近づける。


「指きり、しよう……。約束の……」

 絵里香は不審そうな表情になるが、やがて晴れやかに頷いた。

「ええ! 指きり! 約束よ!」


 木戸と絵里香の指が絡み合う。指きりの動作が終わっても、木戸は絵里香の指から自分の指を離そうとはしなかった。


「ちょ、ちょっと!」


 絵里香が再び怒りの表情になり、木戸は慌てて指を離した。じっとりと、粘っこい視線で絵里香を見つめる。

 ぞくっと絵里香の顔は蒼白になった。くるりと背を向けると、言葉もなく走り去る。木戸は絵里香の後ろ姿を、じっと見送っていた。


 新庄は不安そうに、そんな木戸を見守っていた。

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