確認
「雨になるかなあ……」
山田の呑気な口調に、市川は顔を上げた。山田は窓ガラスに顔を押し付けるようにして立っている。夜景に、雲の間から稲光が数度、瞬いていた。ごろごろごろ……と、遠雷が聞こえている。
「やだ! あたし、傘を持っていないのよ」
洋子が顔を顰めた。
その時、ドアが開き、三村が気弱そうな顔を突き出した。手には盆を持っている。盆には、人数分の珈琲カップが載っていた。
かっと市川の頭に血が昇った。
「三村! そんな気を回す前に、監督に絵コンテができたかどうか、確かめてこいよ!」
がちゃーん! と三村は市川の声に驚愕して、手にした盆を引っくり返した。
「は、はいっ! 今すぐ……!」
おろおろ声を上げ、三村はパニック状態のまま引き下がった。すぐに、どたばた、じたばたと、三村が階段を登っていく音が続く。
「監督……監督……。三村です……。そのお、進行状況をお伺いしたいのですが……」
三村の声が、天井を伝わって、微かに聞こえてくる。と、沈黙が続いた。
市川は山田と、洋子に目顔で「どうなってるんだ?」と問い掛ける。
「さあ」と山田と洋子は同時に肩を竦めた。
「監督っ!」
出し抜けに、三村の悲鳴が降ってきた。声には切迫した調子が含まれている。
「監督っ! ドアを開けて下さいっ!」
更なる三村の大声に、市川は立ち上がった。
「行って見よう! 何だか、ヤバそうな雰囲気だぜ……」
山田と洋子も頷き、神輿を上げる。