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アニメのお仕事・改  作者: 万卜人
#9 回想のアフレコ・ダビング
117/213

 絵里香は、きりっとした目付きで、木戸と新庄を睨んだ。

「平ちゃん、それに、純一! あんたら、平気なの? 祐介は無理している。あんたらに義理立てしてね! 帰って寝ろよ、と言うのが、本当の友達じゃないの?」


 絵里香の言葉に、新庄と木戸はもじもじとバツの悪そうな顔を見合わせた。新庄は祐介に対し、おずおずと声を掛ける。


「なあ、絵里香の言葉も、もっともだ。帰って寝ろよ。後は、おれたち何とかするから」


 祐介はうっすらと笑いを浮かべた。なぜかしら、透明な笑いであった。

「そんな強がり言ったって、おれにはちゃーんと判ってら! 純一は、おれがいねえと、コマ割り一つできねえ……。平ちゃんだって、漫研に所属はしてるが、へのへのもへじ一つ、満足に描けねえのは知ってるよ! いや、駄目だ! 編集部に持ち込むまで、おれはここを離れねえぞ!」


 その時、祐介は突き上げる咳の衝動に、身体を投げ出すように倒れこんだ。


 げほげほ! がほがほと恐ろしいほど、祐介は苦しそうな咳き込みを続けた。

 祐介は震える手で、吸引器を取り上げ、口に持っていく。新庄は、慌てて、祐介の手を押さえた。


「おいっ! 祐介っ! そいつは、一遍に何度も使っちゃ駄目だって、医者に言われているんじゃないのか?」

「いいんだ……」


 意固地になった祐介は、吸引器を口に咥える。すーっ、はーっと何度も吸い込んだ。

 ぜいぜい、ごろごろと祐介の喉が鳴る。

 絵里香は眉間に皴を寄せ、沈痛な面持ちで祐介を見守っていた。


 そんな絵里香を、木戸は熱い眼差しで見詰めていた。

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