誕生
ごたごたとした部室に、午後の日差しが差し込んでいる。机には、描きかけの漫画原稿が散乱し、壁際の本棚には、ぎっしりと漫画の単行本が背を並べていた。
ああ、実写だな……。と市川は思った。その場の光景は、アニメの表現ではなく、実写映像であった。これが新庄プロデューサーが、大学時代、所属していた漫画研究会の部室なのだろう。
木戸純一……髪の毛を肩まで伸ばし、ほっそりとした身体つきの若者だ……が、机に覆い被さるようにして、ペンを走らせていた。
隣では、同じくまだ若く、髪の毛をリーゼントにした新庄平助が、刷り上った同人誌の束を整理していた。
部屋には、もう一人、市川の知らない男がいた。年恰好からすると、新庄、木戸と同じ三年生だ。
ただし、顔色は蒼白を通り越し、不健康な青黒さを帯びている。見知らぬ男は、両目を光らせ、大学ノートに一心不乱に鉛筆で、何かを書いている。どうも、ネーム……漫画の簡単な下書きである……を書いているらしい。
何を書いているのだろう、と市川が関心を寄せた途端、視界がぐーっとズーム・アップし、手元の紙面が拡大する。
タイトルが見えた。『蒸汽帝国』。
市川の胸に、驚きが弾ける。
では、これが木戸監督の『蒸汽帝国』誕生のエピソードなのだ!




