オーバー・ラップ
再び王族専用の客室に戻ると、洋子は両目に力を入れて、新庄を睨み据えた。
「何か、話しがあるはずよね。平ちゃん!」
「うむ……」と、新庄は洋子の眼差しを受け、口篭った。逡巡している。
「言いなさいよ!」
「わ、判った……!」
軽く両手を上げ、新庄は観念したように、ソファにどっかりと腰を降ろした。
「おれの話は、ちょっと長い。座ってくれ」
新庄に言われ、市川たちも新庄を囲むように椅子を引いて、座り込む。
「あの女の名前は、田中絵里香。ご推察の通り、おれは大学生時代、出会っている」
市川は口を挟みこんだ。
「例の、漫研でか?」
新庄は頷いて、話を続けた。
「おれは三年生のとき、絵里香は一年で入ってきた……」
その時、部屋全体がもやもやとした陽炎のように揺れて、市川は驚きの声を上げた。
「な、何だっ?」
市川の大声に、吃驚して新庄は口を噤む。同時に、陽炎のようなもやもやは消えた。
少し待って、再び新庄は口を開いた。
「ええと、どこまで話したかな?」
「平ちゃんが三年で、あの女が一年生で漫研に入ってきた、ってとこよ!」
洋子が口を添える。新庄は頷いた。
「うん。おれが三年生だった頃……」
再び、もやもやが始まった。市川の頭上に、電球が灯った!
「判った! これは回想シーンに入るって合図だ!」
「木下恵介か……」
訳の判らない相槌を打って、新庄は話を続けた。
内容は、新庄と木戸監督が大学時代の話であった。もやもやが消え、オーバー・ラップで、市川の目の前に、若い二人の姿が映し出される。