呼び掛け
何事か、喚き声を上げ、あの騎馬隊長が駆け寄ると、三村の背後から抱きとめた。後ろに、ずるずると引っ張っていく。
恐ろしい迫力をもって、女は次々と三村に切りつけていた。市川はその前に立ち塞がり、手に持った剣で防いでいる。
女の動きは目にも止まらぬほど早く、市川は剣を打ち合わせるのがやっとである。が、互角に勝負しているのは、確かだ!
こんなに自分が剣の達人であるとは、全く知らなかった! まるで時代劇のチャンバラそのものじゃないか?
きいーん、かきーんと型通り二人の剣が交錯し、剣が打ち合うたびに、鉄が焼ける。金臭い臭いが、市川の鼻腔を打つ。
「その女を捕えよっ!」
騎馬隊長がやっと自分の本分を思い出したのか、顔を真っ赤に染め、喚いていた。
騎馬隊長の命令に、その場に立ち尽くしていた全員が、目が覚めたように動き出す。
わっ、と女を目掛けて飛び掛る。
女は素早く周囲を見回すと、ぐっと身を沈め、思い切り飛び上がった。
市川は呆然と女を見上げていた。
女は、完全に、全員の頭の上を飛び越えていた。まるでアニメの活劇場面だ! いや、今は自分はアニメの世界に入り込んでいるから、これは当たり前の描写か?
空中でひらりと、女は蜻蛉返りを打つと、すたっ! と音を立て、着地する。
女の目の前に、新庄が立っていた。
新庄は女の顔を見詰め、呟いた。
「君、絵里香だろ? 田中絵里香。違うかい?」
絵里香、と呼びかけられた女の動きが止まった。ぽかりと口を開け、まじまじと新庄の顔を見詰めている。
「あんた、平ちゃん?」