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存在
「失礼致します! 報告に参りました!」
ドアの向こうから、四角張った声が聞こえ、市川は三村を振り返った。
三村は、ぐっと背を伸ばし、王子らしい物腰を取り戻していた。
「入ってよろしい!」
凛とした、王子らしい命令口調である。市川は、三村の変貌ぶりに呆れた。
がちゃりと音を立て、ドアが開くと、全身を、ぴんと突っ張らかせた騎馬隊長が立っている。相変わらず、口髭はこってりとポマードで固め、両端をピンと撥ね上げていた。
「現在、飛行船はバートル国の領内に入りました! 護衛の者、総て到着に備えておりますので、是非とも殿下の謁見を賜りたく存じます!」
市川たちの視線が素早く交わされた。山田は市川の向かい側に立ち、頷く。無言で「設定画を完成させた途端だな!」と目が語っている。市川も頷き返した。
つまりは、隣国が存在を始めたのだ。
「分かった……。今、行く」
三村は鷹揚に頷いていた。三村の態度は、微塵も元々の気弱さを感じさせない。
かちゃん! と踵を打ち合わせ、騎馬隊長はきびきびとした敬礼をして退出した。