キャラ
市川は振り向き、ぼけっと突っ立っている三村に声を掛けた。
「おい、三村。これからお前さんのお嫁さんを設定するんだが、どんなお相手がいい?」
三村はキョトンと市川の顔を見詰め返す。
「ぼ、ぼ、僕の……お、お嫁さん?」
たちまち、三村の顔が真赤になった。
隣で、山田が、くつくつと忍び笑いをしている。
市川は作画用紙に向き直り、さらさらとお姫様らしき姿を描いていった。
あれ?
ナゼだろう。どういうわけか、市川はお姫様の顔を、あの謎の女の顔にしていた。今まで何度かお目にかかった、すらりとした肢体の、意志の強そうな表情をした娘である。
消しゴムで顔を消し、別の顔を描こうとしたが、やはり市川の筆先は、あの娘の顔になってしまう。
ええい、ままよ!
何か訳があるのだろうが、市川は自分の勘を信じた。きっと、これから先の展開に、あの女は関わってくるんだ。それで、お姫様の顔があの娘の顔になってしまうんだ。
お姫様、大臣、王様、兵士、町の人々……。市川はいつものように、あっという間に描き上げた。市川の手は早い。
それを見て、山田は洋子を振り向き、呟いた。
「洋子ちゃん、色指定、しないとな」
洋子は山田の言葉に両手を広げた。
「色指定って、どうすんのよ? 道具がないわよ!」
山田は首を振った。
「君、色指定の番号でやれないか?」
アニメがコンピューター入力で制作されるようになって、色指定の方法も様変わりした。
普通なら、市川のキャラクター表をスキャナーで取り込み、パソコンの画面に呼び出して、スポイト・ツールで色を入力する。
パソコン導入以前の色指定は、取り引きしている絵の具会社のカラー・チャートに指定されている色番号を、キャラクター表に直に書いていって、指定したものである。
絵の具はすべて特別に調合されたもので、色の種類もせいぜい五、六十ほどしかない。それで、色指定は背景画の色と合うよう、また、フィルムの現像上がりを予想して指定したのだ。




