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アニメのお仕事・改  作者: 万卜人
#8 強襲の美術設定
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設定作業

 何だか、これ以上しつこく我を張るのが馬鹿らしくなり、市川は山田と机を並べ、設定作業に入った。

 新庄が執務室に〝声〟が寄越した動画用紙の束を保管しておいたので、それが作画用紙となった。




「どっちが表だ?」

 市川は紙を取り上げ、明かりに透かして見た。


 用紙の表と裏では、描き味に、微妙な差がある。表側は滑らかで、裏側はやや毛羽立っている。どちらが描きやすいかは、人それぞれであるが、市川は表側を好んでいる。

 鉛筆は、できたら三菱のユニ4Bが望ましい。市川は筆圧が高いので、HBなどの硬いやつでは、先がぽきぽき折れてしまう。

 本当だったら、作業中に音楽を鳴らしているのだが、今はプレイヤーもお気に入りのCDもないので、しんと静まり返った飛行船の客室で作業に取り組んでいる。


 以前、山田から聞いたが、やはり静寂の中で作業をするのは苦手とかで、山田はテレビの音を背景音としているのだそうだ。テレビの会話は中身がないから、かえって気が散らないのだという。


「山田さん、どんな線で行く?」

 山田に質問すると「そうだなあ」と両手を首の後ろに回し、天を仰いだ。

「今までがスチーム・パンクの世界観でやってきたから、がらりと内容を変えてはどうかな? 例えば、魔法が使える世界だったら」

「設定を変えるのか?」


 市川は吃驚した。そんな変更、監督との打ち合わせなしでやって、いいのだろうか?


「まあ、木戸さんがいないしな。それに、同じような世界観では、視聴者に飽きられる」

 山田はニヤリと笑い返した。山田の悪戯っぽい表情を見て、市川もノッってきた。


「そうか……もし、木戸さんが絵コンテをどこかで描いているなら、おれたちの設定をどう料理するか、楽しみだ!」

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