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「……青いな」「青いね」

ずいぶん、久しぶりな投稿となります。


ここまで遅れて、本当に申し訳ない(汗



一応、セカンドシーズン、天城寺編が開幕です。


とはいえ今回はしばらく見納めということもあって、海斗やいつか、ゆあと蓮を一気に登場させたつなぎ回なのですが;


出来も悪いですが、最後までお付き合いいただければ幸いです^^



 七月中盤。夏休みも近づいたこの時期、国立天凪上位魔術高等学院では例年、ダンジョンというものが一年生間でも解禁される。

 以前にも記述はしたが、学院では地下にたくさんの魔獣を実験目的で押し込めている。そこでは魔獣のレベル別、階毎に放し飼いにされており、パスを持っていれば自由に入ることが可能なのだ。さながら、訓練場のようなものである。

下位、中位、上位と、魔獣の強さによっていくつかの地下飼育場があるのだが、それぞれを総称してダンジョンと呼ぶのが、この学院の常だ。


 普段ならば、全魔戦が終わり、一息ついた頃にはダンジョンは解禁され、夏休み中に下位ダンジョンを攻略してしまう一年生も少なくないのだが、今回は解禁されない。魔獣の暴走があったからだ。特に、コロシアム中心部に現れた魔獣――アニマは、上位ダンジョンの中層でボスのような役割を持つ魔獣である。それが逃げ出した原因を解明するため、夏休みいっぱいはダンジョンが封鎖されるのだ。

 それに伴って、寮に残る生徒が今年は著しく少ない。ダンジョンに潜れないのならば、帰郷した方が有意義だ、というのが生徒たちの総意であった。


 帰郷派の生徒たちがいる中、晃雅と咲良もご多分に漏れず、帰郷組だった。つまり、天城寺家へ帰るのだ。咲良も共に、泊まりで。

 晃雅が、自分を受け入れない家族のもとへ帰るのには理由があるのだが、まぁそれについては置いておこう。



 今から記すのは、そんな帰郷組の晃雅たちと、そうでない者達の、放課後、晃雅と海斗の部屋で集まったときの雑談のようなものである。


「で、ほんっとーに崎ちゃんたちは家帰っちまうのか?」


 ロフト、自分のベッドの上でうつ伏せに寝転がる海斗の、残念そうな声。どうやら、彼は帰郷するつもりがないらしい。

 それも当然だ。みなさんの記憶にはあまり残ってはいないかもしれないが、彼には赤点七割の罰として与えられた課題がある。期末はなんとか赤点なしで乗り切ったものの、中間での課題は、未だ残っているのだ。……夏期休暇でも家に帰してもらえない、壮大な『居残り』である。


 閑話休題(それはともかく)


 少し残念そうな(あるいは、課題消化を手伝って欲しかったのかもしれない)海斗の声に、どこか気だるげな晃雅が応える。


「ああ。毎年、夏には家でやることがあるんだ」

「やること?」


 聞き返した海斗に応えたのは、晃雅ではなく咲良だった。


「それは、晃雅のぷらいべーとだから、訊いちゃダメだよ」


 隣で少し困った顔をした晃雅に、助け舟を出したかったのだろう。つまり、言いたくなかったのだ。

 それを、海斗も察した。『おぉ、そうか』と、曖昧な返事をして、黙る。……とはいえ、これで部屋が静かになるような彼らではなかった。


「そういえばさ、いつかくんと蓮ちゃんは、どうするの? お家、近いんだよね? あ、お泊りとかするの?」


 女子の中でも、幾分か高いトーンの声。綺麗なソプラノを発するのは、ゆあだ。

 既に七月も中盤、この頃には晃雅の『仲間内は名前で呼び合おうじゃないか計画』は成功を記録し、晃雅、咲良、海斗、いつか、ゆあ、蓮の六人は名前で呼び合う仲になっていた。


「そうだな、泊まりは大体、蓮次第だし……蓮はどうしたい?」

「ぼ、ボクは……別に泊まりたくはない」

「そうか。そういうわけだから、泊まりはなs「いや、ちょっと待って!!」……なんだよ」


 泊まりはナシ。そう、いつかが答えようとしたところで、蓮のストップがかかる。彼女がどうしたいかなど、一目瞭然であった。


「泊まりたくないんだろ? じゃあナシだ。まぁ、いとこで幼い頃からの仲とはいえ、男女でお泊りなんて、おかしいだろうしな。恋人じゃあるまいし」


 ……好意を向けられている張本人であるいつか以外には、という限定をしなければならないが。


「う、うぅー!!」


 蓮の口から、よくわからない唸り声がもれる。これには、晃雅も苦笑を禁じえず、また、見ていられない気分にもなり、助け舟を出してみることにした。


「咲良。幼馴染同士で泊まりなんて、普通だよな?」

「へ? あ、うん。毎年お泊りに行かせて貰ってるよね。ありがとっ」


 晃雅の意図が分からず、首をかしげながらも咲良はそう答えた。晃雅の計画通りである。

 咲良の礼に片手を挙げることで応え、晃雅は話を続ける。


「だから、蓮が泊まりにいっても別におかしくはないんじゃないか? というか、泊まるべきだ。むしろ泊まれ」


 最後には、随分強引であったが。これで、彼は自分の仕事は終わり、とばかりに持っていたコーヒーのカップを傾けた。心地よい香りと、程よい苦味が、口の中に広がる。


「コーヒー飲んで和んでるとこ悪いが、晃雅と咲良はほぼ付き合ってるようなもんだから。泊まりがおかしくないのは、そのせいだから」

「あ、その辺には俺も同意しちゃったりィ」

「うんうん。むしろ、自分たちが付き合ってないと思ってるのがおかしいほどに仲いいし」

「お、幼馴染同士であんなに仲いいなんて、羨ましすぎる。この前の全魔戦で晃雅が優勝した時なんか、は、はは、ハグっ! ハグ、しちゃってたし!!」


 全魔戦優勝が決まり、表彰式を終えた日。大拍手の表彰から帰ってきた晃雅に、咲良は勢いよく抱きついていたのだ。それを蓮はめざとく見つけ、自分も幼い頃からいつかと共にいるのに、ハグできていないことから、彼らをうらやんでいたのだ。


「ハグ? あぁ、したね。でも、おかしいところあるかな?」

「別に普通じゃないか? 幼馴染なら」


 ……無理があった。言うまでもなく、咲良は本気でおかしいところなどないと思っている。晃雅の場合は気付いてはいたが、蓮といつかを近づけるため、止むなくとぼけた。……いや、無理があるのには変わりないのだが。


 しかし。無理があるのには変わりなくとも、この流れに乗っかってしまう人物がいた。


「そ、そうだね、確かに普通だ! もう、普通でしかない! もはや、泊まらないと幼馴染とはいえない! 仕方ない、いつかの家に特別に泊まってやるよ! あぁ、ボクって幼馴染の鑑だなぁ!」


 蓮であった。彼女にとっては、好都合すぎる流れだったのだ。やはり、あからさますぎるものではあったが、彼女にしては素直になった方であろう。

 それでも、そのあからさまな好意に気づかない者はいるわけで。


「仕方ないとかいうなら、別に泊まらなくてもいいぞ」

「うぐっ!」


 そして気づかないのが、好意の対象者だということが根本的な問題なのだ。流れは元に戻り、状況も初期状態へと一気にリセットされた。


 しかし、完全にリセットしたのか、と問われれば、否と答えるべきであろう。何を思ったのか、いつかの考えが変わったのだ。


「けど、蓮。……手伝ってほしいことがあるから、毎日来てくれると助かる。その過程で泊まりになる日があっても、まぁそれは別にいい」


 いつかが気づいていないのは、なにも蓮の自身への好意だけではない。自分が、蓮に向けている好意すら、気づいていないのだ。

 それには、蓮との距離感、素直になれない彼女の性格、ゆあへの一目惚れ、など、色々な要因があるのだが、些か鈍感にすぎる。


「手伝いか……めんどくさいけど、構わないよ。まったく、昔からいつかはボクをお手伝いさんと勘違いしてるんじゃないの? どうせなら、住み込みのお手伝いさんやってやるから、給料出せよ」


 素直になれないヤツだな……それが、当事者たちを除く全員の総意であった。





「あ、そういえば、ゆあちゃんは東條のヤローとどっか行ったりすんの?」

「え、あ、えと、かも、しれない、よね、うん。というか、行く。昨日、誘われたし」

「……あぁぁあ! 僕の恋を壊さないでくれぇぇ!!」

「そういういつかがボクの恋を壊すなぁぁ!! いつかはボクと一緒にいろよ!!」

「つかてめぇら全員リア充予備軍か!! 爆発しろ!! 俺だけなんもねぇじゃねぇかよォ!!」


 海斗の声から始まった、それぞれの心の叫び。どれが誰のものかは、察していただきたい。


「なんだこの悲惨な状況は。今日は調子が悪いっていうのに、さらに頭が痛くなりそうだ」

「え、大丈夫?」

「まぁ、大したことない。……それより、この状態に名前をつけよう。ちょっとした記念に」

「うーん、青春?」

「……青いな」

「青いね」


 その凄惨たる状況を、一歩引いて眺めていた晃雅と咲良は、そんな年寄りじみたことを呟いていたとか。



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