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本当に、ありがとうございました!!

全魔戦編、最後です。


一応、キレイな形で終わらせたつもりですが、やはり上手くはかけませんね。


自分の未熟さを感じつつ、全魔戦編最終話、どうぞ。



 晃雅を含む優勝者組が、魔獣を倒した噂は、すぐに広まった。いや、倒したその瞬間には、全校生徒のほとんどが知っていた。それはそうだ、彼らはパニックになりながらも、晃雅たちと魔獣の戦いを観客席から目撃していたのだから。

 そんな噂は、当然のようにして教師陣まで伝わった。そして、噂が伝わり、その信憑性が確認された時点で、次のようなことが決定された。


 Aブロックコロシアムの地面陥没、魔獣管理のためのダンジョン崩壊を理由に、本戦の中止。それに伴い、コロシアム内で発生した魔獣を打倒した四名を優勝者とする。次いで、その妨害をした一名に罰を与え、その妨害工作を止めた五名の魔術科目の平常点に、貢献度に応じて加点する。


 以上が、学院側の通達であった。

 この通達がなされたのは、晃雅がいつかのいとこである伊坂 蓮が紹介されるというイベントがあった、本戦の翌日からさらに二日後のことであった。魔獣撃退の妨害をしたとはいえ、魔獣を倒そうという意思はあった有流人の扱いで最後まで議論があり長くなったらしい。また彼が御尊四家・南原の名を冠することも物議をかもしたようだが、まぁそれはいいだろう。


 そして今日、通達がなされたさらに翌日。つまり、本戦が執り行われた四日後である。その今日は、全校生徒がそろい、学院の大食堂に集められていた。一年生の入学式にも使われた、あの場所だ。

 そんな大食堂で、クラス別に座らされている晃雅たちの近くに寄ってくる人物が一人。Aクラスににいるのは晃雅、咲良、海斗の三人だ。そして、近づいてくるのはその担任。名を関本 千種という。

 その天然の紅い髪を揺らし、海斗のような無邪気な笑みでこっそりと晃雅の背後に忍び寄る。いつもの豪気で思い切りのいい雰囲気を出来る限り押さえ込むように、しかしその全てをニヤリとした無邪気な笑みに込めている。

 久しぶりの登場ではあるが、皆さんは覚えているだろうか?



「……もしかして、俺に気づかれないようにしているつもりですか?」


 ギクっ! そんな擬音が、ハスキーな女性の声で実際に紡がれた。


「自分でギクっとか! 千種ちゃん、めっちゃかわうぃーっす! 千種ちゃん、マジめっちゃかわうぃーっす!!」

「吉井くんはなんで同じことを二回言ったの?」

「大事なことだから二度言いまし「言わんでいい」……止めんなよ崎ちゃん」


 会話が一息ついたところで、三人で振り返る。その視界に映るは、艶やかな紅髪を持つ、薄い化粧を施した二十台中盤の女性。言わずもがな、担任教師の関本 千種だ。


「ま、アタシが美しい話はともかくとして」

「美しいとは誰も言ってませんがね」

「……ともかくとして!」


 怒鳴る。相変わらず、声の大きい教師であった。


「晃雅ッ! やったなアンタよぉ!! 全魔戦総合優勝なんて、マジ見直したぜ!」

「残念です先生。見直した、ということは、前は大したことないと思っていたんですね」

「え、千種先生、本当ですか? 晃雅はあんなに頑張ってたのに!」


 少し、からかうようにけしかけた晃雅に、その言葉を本気にして咲良がのる。……教師をからかうのはどうかと思うのだが、フレンドリーな彼女のこと、気にはしないだろう。


「ただ褒めてやっただけだろうが。まったく、アンタは相変わらずひねくれてやがる。少しは、咲良みたいな素直さを学んだらどうだ?」

「からかっただけじゃないですか。素直に、先生に褒めていただけるのは嬉しいですよ」

「……教師をからかうのはどうかと思うが、そこのところどうよ?」


 返事は、なかった。晃雅からも。咲良からも。いつもはうるさく喚き続ける、海斗すらも、応えなかった。


 数秒の時が流れ、やっと晃雅が口を開いて沈黙を破る。


「まぁ、冗談はともかくとして」

「どこからどこまでが冗談だ!?」

「先生に褒めていただくのが嬉しい、という一点のみです」

「そこ以外を冗談にしろよ!! 終いにはアタシ、泣いちゃうよ?!」


 本当に、ノリのいい教師である。もちろん、泣く気配など微塵もない。


「千種ちゃん、大丈夫! そんな千種ちゃんもかわうぃーっす!」

「別にアンタに褒められても、嬉しくないけど」

「……え、今は千種ちゃんがいじられる流れじゃなかったの?」

「いじられ役の座は、吉井くんの指定席だよ?」


 満面の笑みの一言。咲良のこの一言で、海斗は撃沈する。本当に、天然とは時として恐ろしいものである。海斗が撃沈した理由すら分かっていないのだから、なおさらだ。


「あれ? 吉井くんはなんでテーブルに突っ伏したまま動かなくなっちゃったの?」

「きっと、疲れているんだ。寝かせてやれ」

「ふぅん。晃雅のがたくさん働いたのにね」

「ああ、コイツは体力ないから、しょうがないんだ。東條に電話かけたことぐらいしか役に立ってないが、それだけでもコイツにしては上々だよ」


 二人のやりとりに、千種は海斗の立場を少し哀れむのだが、すぐに思い直す。


「あぁ、海斗はドMだからこれでいいのか」


 実に見当違いな思い直し方だった。さすがの海斗も、これには反論せざるを得ない。ガバッと姿勢を立て直し、一言。


「千種ちゃんに攻められるなら、それはそれでアりぃぐぎゃぁっ?!」

「もう一回寝てろ」


 いきなり海斗が机に突っ伏しなおしたと思えば、そんな彼に晃雅が声をかけた。この場の誰もが視認は出来なかったようだが、晃雅の裏拳が海斗の鳩尾を捉え、気絶させたらしい。

 ……その行為に出てしまったのも、仕方のないことかもしれない。誰だって、被虐することに悦びを覚える者だけが開いてしまう特殊な扉など、友人には開けて欲しくないと思うはずだ。


「さて、気を取り直して。その様子だと、先生は俺を褒めにきたわけじゃないですよね? なんの用事ですか?」


 気を取り直して、という言葉通り、晃雅はある程度真面目な様子で問いかけた。もう、軽いノリでふざけるつもりはないようだ。


「や、褒めにきたのも一つの用事なんだけどな? まぁ、もう一つの理由は、なんとなく分かるだろ? 今日のこの集まりについてだよ」


 全校生徒が一堂に会するこの大食堂。集められた理由は、すでに晃雅には見当がついていた。……表情(かお)をしかめたので、あまりいい理由ではないのだろうが。


「分かってますよ。心配は無用です」

「おう、それならいいんだ。咲良は分かってないようだから、あとでちゃんと説明しとけよ?」

「了解です」


 晃雅は一つ頷き、その様子に千種は一言『じゃ、そういうことだから』と残し、背を向ける。

 だんだんと遠ざかっていく彼女を見送っていると、最後に千種はもう一度振り向いた。


「海斗にも、ちゃんと起こして伝えておけよ?」


 え、ナニソレめんどくさい。それが、晃雅の正直な気持ちだった。





 大食堂奥。教師陣の席が一列に立ち並び、その中心には壮麗な装飾のなされた演説台が一つ。そこで、めんどくさがりの代表とでも言うべき人物――東條 (ひとし)が、これまためんどくさそうに、脇に立つ秘書・谷口 真樹を覗き見る。

 ……返されたのは、無言の威圧。どうやら、彼に逃げ道はないようだ。


 ゴホンっ! 一つ、咳払いをし、生徒の視線を集める。


『あー、テスっテスっ、マイクテスト。あぁー、本日は晴天なり』


 隣の真樹の腕が、霞むような速さで動く。学院長である斉の背中に、真樹の持っていたバインダーが勢いよく当てられた。

 ……魔術によって働くマイクだ、テストなど必要なかった。


『……失礼。さて、諸君』


 強引に、話し始める。くすくすと笑いが洩れているが、気にしないで進めるようだ。


『今日集まってもらった理由は他でもない。先日行われた全魔戦優勝者の表彰、及び魔獣撃退の協力者の表彰についてだ。複数……四人いるのだが、どれも優勝者なのでもちろん課題は免除だ』


 引きも何もなく、結論だけを述べてしまう。効率を重視した、というよりは、ただ単にめんどくさかっただけだろう。優勝者特典である課題免除も、ずいぶんあっさりと告げられた。


『と、そういうわけなので、該当すると思う者はこちらの演説台まで来なさい』


 そこは省略してはいけないところだろう、と真樹が睨みを入れるが、学院長はどこ吹く風。真樹とは逆の方を向き、口笛でも吹きそうな勢いだ。

 仕方なく、秘書である真樹がマイクを取り上げ、内心のイラつきを少しも見せない平坦な声で名前を読み上げていく。


『七年Bクラス、西藤 明菜!』


 はい、という小さいながらも覇気の篭もった返事のあと、明菜が立ち上がる。その彼女が演説台へ向かうまでの間に、真樹は名前の続きを呼んでいく。北川 雪音、東條 仁――と、そこまで呼んで、魔獣撃退の表彰者は次で最後だ。


『一年Aクラス、永崎 晃雅!』


 今までの生徒と同じく覇気のある返事をし(ただし、仁だけはめんどくさそうだったが)、席を立ち上がる。立った瞬間に、隣の海斗の額をぺチンと叩いておくのも忘れない。飛び起き、きょろきょろと辺りを見渡す海斗を尻目に、少しだけ笑みをこぼしながら、晃雅は演説台を目指す。


 誰もが口を開かず、歩いていく晃雅に視線を突き刺す。

 ……晃雅は、魔術が使えない。そのせいで、周りから見下されてきた。が、その彼が今、魔獣を倒した功労者として表彰されようとしている。しかも、学院の全校生徒が参加する、全魔戦の優勝者の一人でもあるのだ。

 視線を突き刺す生徒たちは、戸惑っている。本当は、晃雅が有能だったことに。それでも、認められない。魔術が使えない彼を。それがまた、彼らを戸惑わせた。


『次いで、魔獣撃退の協力者についてですが、こちらに関しては名前の読み上げだけで終了とさせていただきます』


 明菜、雪音、仁、晃雅が、演説台の前に並んだことを確認した真樹は、生徒たちの様子に気づきつつも、それを意に介することはなかった。先のように述べ、名前を読み上げて着々と表彰式を進行してゆく。

 咲良、いつか、海斗、ゆあ、蓮の五人だ。この五人のおかげで、有流人の暴走による被害は最小限に収められた。皆それぞれ、優勝者たちと同じように覇気のある返事をしたが、三人目の海斗だけは別、未だ状況を理解できておらず、『ハイ?!』と叫びながらガタンっと慌ただしく立ち上がっていた。その様子に、表彰者全員が軽く吹き出したとかそうでないとか。


『この五人のおかげで、全魔戦優勝者たちが魔獣を撃退するのがスムーズになりました。ありがとうございました』


 真樹がそう言うと、晃雅に視線を突き刺していた生徒たちもさすがに拍手を始める。その様子を、何故か学院長が満足そうに頷きながら見ていた。



 そして、本命の全魔戦優勝者、魔獣撃退功労者の表彰だ。どちらも被っているので、一緒に済ますというように告げ、先ほど名前を呼んだ順に賞状を渡してゆく。その度に聞こえる拍手は、どれも割れんばかりの大拍手だった。


 着々と賞状が渡されていき、最後の晃雅の番が近づいてくる。一つ前の仁の表彰が終わると、生徒たちの視線は再び晃雅に突き刺さった。

 彼らは、晃雅を認めるのか。……全魔戦Aブロック優勝時点では、晃雅を表面的でも認めていたのはおよそ半数程度。Aブロックコロシアム限定なので、全校生徒の八分の一ほどであろうか。

 それ以外の生徒は、どのように反応するのか。賞状が渡されることで、罵倒するのか。それとも、祝福の拍手を鳴らすのか。緊張の瞬間ではあったが、当人の晃雅だけは、ただ無表情にこの表彰をやり過ごしていた。


『次いで、魔獣にトドメを差した人物の表彰です。……永崎、晃雅っ!』


 しん……大食堂が、そんな音でも洩れるかのように静まり返る。晃雅が数歩、前へ出て、真樹から賞状を受け取る。そして、一歩下がって一礼。

 ここまでで、生徒たちからは何の反応もなかった。


 晃雅が顔を上げ、仁たちがひかえるところまで戻る。それでも、大食堂は静まり返ったまま。もう、誰も何も反応しないのか。そう思った矢先のこと。


「起立っ!!」


 誰かの声が響いた。荒々しくも、どこか頼れそうな、そして人懐っこいような、そんな声。予期せぬ反応に驚いた晃雅が振り返ると、赤髪ピアスの少年が、ニシシと笑みを浮かべていた。

 赤髪ピアスの少年――海斗の声に反応し、真っ先に咲良が、次いで、ゆあ、いつか、蓮まで立ち上がる。表彰のためにすでに立ち上がっていた明菜も、晃雅の方を向いていた。それにあわせ、嫌そうながらも雪音が、めんどくさそうに仁が、晃雅の方へ向く。


「ほら、全校生徒起立だって!」


 海斗の声、学院一年生の声だ。この学院で、一番年下の一年生、そんな彼の声だ。しかし、ぱらぱらと、次第に多量に、生徒たちが立ち上がり始める。


「魔獣を倒した御尊四家の皆さん、ありがとうございました。それでも、俺は一番、永崎 晃雅に感謝したい。これは、崎ちゃんと親友だからで、おもっきしワガママな感情だ! けど、魔術が使えないからって、感謝すらされないのは納得いかないわけな。だって崎ちゃんは、魔術が使えないのにも関わらず、身一つで魔獣に突っ込んで、周りと協力して魔獣を撃退したんだからさ! これは、あいつにしか出来ねぇことだ! だよな、みんな!!」


 そうだー! そんな声が、咲良たちからあがる。担任の千種からも声が上がったのに、海斗も少なからず驚く。


「だから、あえて言おう! 崎ちゃん、ありがとう! 本当に、ありがとうございました!!」


 一礼。あわせて、咲良たちも復唱するように『ありがとうございました!』と腰を折る。

 それを見た晃雅の『どんな羞恥プレイだ、コレは』などという呟きと共にこぼした、穏やかな笑みが、とても印象的だった。


 海斗、咲良、いつか、ゆあ、蓮。そして、明菜、嫌々ながら雪音、これまためんどくさそうに仁。その八人が深々と腰を折り、礼をする間に、千種はニヤリと笑みをこぼす。



 そして――。



 パンっ!!

 大きな音。手と手を合わせた、とても大きな音。それを何度も連結させて繫いでいく。それは少しずつ広がり、教師たち、学院一年生、と続く。最終的には、今までにないほどに大きな音で、割れんばかりというのもおこがましいほどの大拍手が起こった。


 拍手の中、晃雅が演説台から席へ帰っていると、近づいてくる人の気配を感じる。柔らかいブラウンのポニーテールが目立つ少女、咲良だ。

 そして彼女は、走ってきたままの勢いで、抱きついてきた。


「晃雅っ! やった、やったね!」

「ああ…! ああ!!」


 自然な形で、抱き返す。それが恥ずかしくないほどに、彼の心は『認められる』ということに大きな喜びを感じていたのだ。



 表面的かもしれない。それでも、晃雅は認められた。魔術が使えなくても、感謝された。



 ――その時、キラリと光った目の端の雫は、後日、誰が晃雅に訪ねても『涙』とは認められなかった。




前書きに書いたとおり、これで全魔戦編は終了、一区切りです。


ここ最近では小説の執筆スピードも落ち、キリもいいので、これ幸いとばかりに投稿を一端休憩させていただくことに致します。


そこまで長い休みにする予定ではないですが、投稿再会までお待ちいただける心優しい方、次回からもよろしくお願い致します。

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