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俺の仲間を甘く見ない方がいい



 晃雅と別れた海斗は、その五分程度あとに咲良のもとに辿り着いた。息も絶え絶え、相当に疲れていることがみてとれる。文字通り、全速力だったのだろう。


「吉井くん! 無事でよかった!!」


 真っ先に、咲良が声をかける。しかし海斗はその声を無視して、ゆあに声をかける。ゆあの電話によって得られるはずの東條 仁の救援は、今の晃雅たちにとって必要不可欠なのだ。


「ゆあちゃん! 東條に電話かけて俺に代わってくれ!!」

「え、なに、どうしたの?!」

「晃雅たちがあの魔獣と戦ってる! 救援が欲しいんだ!!」

「晃雅が?!」


 これまた、真っ先に反応を示したのは咲良。晃雅の身を一番に案じているのは彼女だ。


「俺らが助けにいくのは無理だ。足手まといだし、ヤツらと観客席の間には防護シールドが張られてる。晃雅とか御尊四家みたいに、桁外れの魔力がなきゃ入ることも出来ねェ」


 しかし、何も晃雅の身を案じているのは、なにも咲良だけではない。

 海斗の先のような言葉に、いつかはにやりと笑う。


「なら、入らなければいいのさ。蓮、手伝ってくれ」

「うん、ボクに任せなっ」


 いつかは懐からたくさんの札を取り出し、蓮に渡してゆく。蓮は、それを心得たように並べていった。


「その札陣は……そっか! それなら晃雅を助けられる!」


 その様子を見た咲良は、自分に出来ることを見出したのだろう。自身が使える魔術の中で、最も強力な魔術の詠唱を始めた。

三人が動き始め、その頃にゆあは仁のアドレスを呼び出していた。コール済みの携帯電話を、海斗に手渡す。


 それぞれが思うように動き、連携し、晃雅のために、仲間のために動く。それが彼らだった。


『よう、東條 仁! コロシアム中心に高位魔獣発生だ! 晃雅と明菜さん、北川先輩の救援を頼む!』


 仁に繋がった電話越し、海斗は短く助けを求めた。

 その間に、魔獣側の瞳が一際大きくキラリと光る。どうやら、戦況はあまり芳しくないらしい。


『ん……めんどうごとは、すぐ片付けてやらぁ』


 頼もしい声――それと同時に、コロシアム中心の魔獣近く、小さな炎が灯る。その炎の中心には、ゆらめく金髪少年の姿があった。





 雪音に氷の剣を託された晃雅は、そのスピードを活かし、魔獣の禍々しい瞳からの光線をかいくぐり、魔獣の後ろ側へ回った。

 この魔獣の裏側には、小さな突起がある。それを伝って、晃雅は魔獣の顔を目指すようだ。


 跳躍によって、繭に包まれた体の上――すなわち、顔を狙うのはいい手とは言えない。瞳からの攻撃が主体のこの魔獣のこと、背を伝って顔を狙う方が、安全で確実だからだ。

 しかし、その安全性、確実性も『もし瞳からの攻撃以外の攻撃手段がなければ』の話である。もちろん晃雅にしてもその可能性は危険視し、十二分に気をつけていたはずだった。


「晃雅くん横に飛んで!!」


 ……それでも、明菜の指示によって魔獣の身体から身を投げ、その先の地面をごろごろと転がり続けることになったのは、それが少し特殊な攻撃だった故かもしれない。

 その特殊性すらも、予測しようとしていた晃雅が対応出来なかったのは……。


「こいつの相手は俺がやるんだよぉ! 『無能者』は引っ込んでろぉ!」


 それが、自分がかばったはずの有流人からの攻撃だったからだろう。


「ちぃっ…!」


 小さく舌打ちを洩らしつつも、晃雅は転がる姿勢からさらに両手を使って跳び、瞳からの光線を避けて魔獣側へ進む。有流人には構っていられない。


「晃雅くんはそのままでいいよ! 雪ちゃんは今の詠唱を変更! 南原くんの動きを止めて!」

「俺の邪魔をするなよぉぉ!!」


 魔獣の攻撃ですでに血まみれの有流人は、手に持った笛を旋律もなにもないデタラメなメロディで吹き始める。それは、一つの詠唱の形だった。

 有流人が立つ場所から、地面が円形に侵食されてゆく。深い紫、そしてその紫は、グラデーションのように黒くなってゆく。腐敗していっているのだろう。


 魔獣はなんとか晃雅が引き付けているものの、ヤツの瞳からの攻撃は、晃雅を捕らえかける。晃雅がやられるのは時間の問題であり、有流人を早く止めなければ、危ない。


「……《永久凍土(アイスフィールド)》」


 それを察した雪音は、先ほどの明菜の指示通り、魔術を発動させる。有流人の魔術が侵食していく大地を囲むように、純白の領域が現れ、黒と白がせめぎあう。


「北川も俺の敵になるの? なら君も俺が粛清してあげるよぉ! 死ぃねぇぁあ」


 有流人の持つ笛が砕け散る。代わりに、大型の笛――ホルンが現れた。彼によって奏でられるその低い音は、有流人の魔力を孕むことにより、死をも招く苦しみを与える狂気の音色となる。


 魔獣には当然のように効かず、晃雅、雪音、明菜の三人の動きが鈍る。苦悶に変わり、晃雅は瞳からの光線に直撃、コロシアムの壁に吹き飛ばされた。明菜は、その晃雅に回復の魔術をかけるので精一杯だ。


 音というものは恐ろしく、遮るのは至難の業だ。彼の特殊性は、魔獣を抱える今では、とても厄介だった。


「……《荒れ狂う雪の舞(スノウ)》」


 この状況を変えるのは、雪音のこの呟き一つ。術を避ける事が出来ないのなら、術自体を止めるしかない。凍てつく風が吹き(すさ)び、ホルンを氷結させ、音を止めた。


 これで状況の混乱は、一旦の休止を得る。有流人自身も《スノウ》の影響を受け、無事ではなく、雪音は先程までの『音』からの解放で膝をついている。

 晃雅は言わずもがな、壁に叩きつけられた状況で虫の息、明菜は苦しみながらも晃雅の回復に専念するしかなかった。


 休止――それでも、この場にいる最たる害悪が、この休止を保っていてくれるはずがないのは、自明の理だった。

 魔獣の瞳が、一際禍々しく光り始める。それに伴って周りは暗くなっていき、瞳にコロシアム内の光が集まっていくようだった。

 しかしその変容も、ごく僅かな違いでしかない。そしてそのわずかな変化に気がついたのは、壁に叩きつけられた状態で地に蹲る、晃雅のみだった。


 魔獣の瞳が、キラリと光った。これが、この場にいる者全てを消し去るのだろう。そう、晃雅はぼやけた頭で悟った。あと少し、あともう少しだけ待ってくれれば、明菜の回復魔術のおかげで動けるのに……そんな諦めに似た想いが、頭を()ぎった。














「遅れてやってくれば、ヒーローって言われちゃったりすんの?」


 小さく灯った炎。その中心には、輝く金髪。

 ――――東條 仁。

 終わりのギリギリで皆を救えるのは、彼のカリスマ性ゆえなのか。もしそうであったなら、彼は疎むだろう。『カリスマなんていらねー。めんどくせーもん』……そんな言葉が、聞こえてくるようだ。


「瞳を狙って!」


 明菜の指示に軽く手をあげ、彼は一言ポツリと呟く。


「《(えん)》」


 大きく、蒼い火柱が上がる。魔獣の瞳から飛び出した火柱。一つしかない瞳を、爆破させるように、それは激しく燃え盛った。


「今だ永崎っ!」


 火柱を上げた張本人、仁は、そう叫んだ。見えていたのだ、彼には。あと少しで動ける、と先ほど諦めかけていた晃雅が、この隙が出来たことで動き出したことを。


 晃雅は仁の言葉には応えず、昇りきった魔獣の肩の上で跳躍する。そして、氷の剣を瞳に突き刺した。

 先ほどまで炎で温度を上げられていた瞳は、雪音製の氷の剣によって急激に冷やされる。氷の剣は瞳に取り込まれるように埋まっていき、瞳周りを凍りつかせた。


「らぁぁ!!」


 そして。晃雅は、その凍った瞳を蹴り飛ばした。腰の回転を活かし、ダイナミックなフルスイング。凍てついた瞳は、それを覆う氷ごと砕け散り、魔獣を包む繭まで消え去った。身体も、その衝撃と共に倒れ臥す。芯を持ってその巨体を天へと向けていたはずの魔獣は、力が抜けてしまったようにちょうど地面から生える腹部辺りから折れていた。

 あまりの巨体ゆえに伝わる衝撃と轟音。それは、例えではなく、本当に大気を震わせた。


「おー、さすが永崎」

「やったね晃雅くん!」


 魔獣を倒したことで気が抜け、極限状態で動いたこともあってか、地に座り込んでしまった晃雅に、共に戦った三人が歩み寄る。


「明菜さんが回復してくれたおかげですよ」

「まったくその通りです。おだてられても、真に受けないよう気をつけなさい」


 コロシアム内でも、もちろん外でも、歓声があがった。魔獣を、倒すことが出来た。その喜びを、全員で共有しているのだ。最後に嫌味のような言葉を吐いた雪音でさえ、その表情は幾分か緩んでいる。


 ―――――だが。


「……《capo(カーポ)》」


 一人、納得していない者がいた。

 キィン、と鋭く高い音が響く。それが、安堵によって油断していた仁たちを術中にはめる。――音魔術。始まりの意を示す詠唱だった。


「あはは……俺の手柄になるはずだったのにぃ。君らが邪魔するのがイケナイんだよ? 分かるぅ?」


 有流人だった。魔獣と戦った全員が、彼の魔術によって魔術を封じられる。意識が有流人に向いていれば、御尊四家である彼らなら魔術を封じられることなどなかっただろう。

 しかし、現実は非情。血まみれで凍りつきかけている有流人でも、呟くだけで魔術は行使可能、そして、彼が優秀な魔術師であることには変わりないのだ。もちろん、晃雅でさえも、再び動くにはさらに幾分かの回復が必要だった。


 状況としては、極めて勝率が低いと言えるだろう。


「ひゃぁっはっはぁああ!! いいか? 死にたくなきゃ永崎 晃雅を退学にしろ! 東條家のお前なら可能だろ?!」


 まず、血まみれふらふらの状態で仁に歩み寄り、狂気の笑みを浮かべる。


「そして、今あったことはみぃぃんな忘れろぉ! アレは、俺が倒したんだ。俺は、学院の英雄なんだぁ!」


 肺にある空気を全て吐き出すかのような、豪快で狂気に満ちた笑い声が響く。この状況を簡単に一言で描写するならば、『壊れた』……その表現が適当だろう。


(あが)めろ! 俺を! 這い蹲れ! てめぇら全員なぁ!! 俺は御尊四家として出来損ないなんかじゃない!! 東條に負けたのは、あれは夢だ!! 俺こそが最強だぁぁ!!」


 叫び、そのせいでまた倒れかける。しかしそれでも、晃雅たちは危ない状況にある。彼は魔術が使える。明菜、雪音、仁は、魔術が使えない。そして、唯一の戦士である晃雅は、憔悴しきっている。たった、それだけの理由で。


 当然、全員が絶望的な表情をしているのだろう。そう思って、そんな光景を焼き付けたくて……自身の優位性を証明したくて、霞む視界を晃雅たちの方へ当てはめてみる。有流人の瞳に映る光景は……。


「……あまり、俺の仲間を甘く見ない方がいい」


 ニヤリと笑った、晃雅の姿だった。その視線の先には、四人の少年少女がいたとか。


「あぁ? 何を言って…」

『……《ダイヤモンド・ダスト!》』


 少しくぐもったような声。それが、有流人の頭上(・・)から聞こえた。慌てて上を見ると、歪んだ空間越しに手を向けられていることに気づく。


 頭上から足元まで、彼の身体に薄い氷の膜が張ってゆく。有流人の制服は特注なので、魔力を吸収する。が、それにも許容量はあるようだ。こうして、咲良の魔術が彼にダメージを与えているのだから間違いない。

 そして、指がパチリと鳴らされる。張り付いた氷が砕け、気絶した有流人が、そこにはいた。



『強欲なのはキライです、先輩! いえ、南川 有流人!』


 ゆあの声が、空間を渡って伝わる。先ほどまで空間越しにこちらを覗いていた咲良に代わってもらったようだ。


『と、とと、というか、すす、好きなのは……』

『わぁぁ聞きたくないぃ!!』

『え、ちょ、やめっ!!』

『うわぁ、ゆあ! 大丈夫?! す、杉山くんっ! ゆあの口を押さえちゃダメでしょっ!!』

『お、おい、いつかぁ! お前ゆあさんに何してんだよぉ! ボクだってそんな風に触ってm……』


 ぶちっ! そんな音と共に、繫がれた空間同士が切り離され、会話が途切れた。歯切れが悪いとはまさにこのことだろう。

 ちなみに、この声はかなり大きな音で伝わり、コロシアム内に響き渡っていたとか。こうして、晃雅を取り囲むメンバーは、ある種なごむような者たちだと知れ渡ったそうな。



「……はぁ、締まらないな、あいつらは。しかも、あからさまにいつかを好いてるヤツが増えてるし」


 晃雅の嘆息は絶えない。しかし、その嘆息はどこか幸せそうで。仲間が増えた喜びが滲んでいた。



ここまで戦闘モノを書き続け、この先の展開でも戦闘が多いシナリオ思い描いているところで言うのもなんですが……



やはり、自分に戦闘描写は向いていない!



はい、今回の全魔戦で、つくづく思いました。


やっと終わったぁ、って感じですよw


とりあえず戦闘は終わりましたが、全魔戦編、正確に言えば次回まであります。


よろしくお願いしますね!



……あぁ、この先の戦闘描写を書くのが怖い


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