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よろしくな、親友っ!!



 国立天凪上位魔術学院。天城寺家が居を構える天凪市に造られたことがその名前の由来だ。

 通称“学院”。学院と名乗ることを許されるのは、ここだけであることから、全ての人々に“学院”と呼ばれている。

 世界で一番の権力を持つ天城寺家が創立したため、その教育水準は非常に高く、特に魔術学において、他の学校では足元にも及ばないほどの水準を誇っている。良い家柄の者にとっては、この学院を卒業することが一種のステータスともされるほどである。


 七年制である“学院”の入学資格は、至って単純。四月の入学式の際に十五歳以上になること。筆記試験をパスすること。最大魔力上限が規定以上であること。そして、一つの魔術を披露し、認められること。……それだけだ。

 実技が、魔術を一つ披露し、認められるだけで済むのには理由(わけ)がある。最大魔力上限が高い者は、総じて魔術師としての才覚に恵まれているのだ。そして、最大魔力上限を計ることは至極簡単。魔力測定水晶に触れるだけでいい。

 例年たくさんの受験者がいるこの“学院”が、このようなシステムで入試を行うのは、むしろ当然なのかもしれない。たくさんの実技で実力を測るのと比べ、水晶に触れるだけで実力を推測出来るのだから。

 その構えは壮麗であり、とても広い敷地を有する。どこかの王宮か、と言わんばかりに立派な学院本棟と、そのデザインに合った寮が、まるで離れのように渡り廊下で繋がっている。一~七年生までという膨大な数の生徒を抱え込むことの出来るその寮は、とても立派だ。さすが、家柄の良い者のステータスとされるだけのことはある、と納得出来る豪華さを誇っているのだ。



 そんな“学院”に立つ少年、“吉井 海斗”は、とある事実に驚愕していた。――まさかこれほどとは。


「ふっ、おもしれぇ。……この魔力量、マジハンパねぇな」


 彼は赤く染めた髪の下から覗く蒼い瞳を好奇の色に染め上げ、手にしたツールを見つめている。ツールとは魔術的補助機器のことであり、彼の呟きから察するに、ここでは魔力量を測るために使う機器のことを指すのだろう。


「ちょいと様子見に行きますか」


 海斗は一つ、ニヤリと笑みを残し、一番強い魔力の元へ向かうことにした。


 しばらく歩き、ツールが一番強い魔力を示している人間の方を見る。後ろから見える影は二つ。黒い髪の少年と、ブラウンのポニーテールの少女。少女の方も高い魔力を有しているとツールは示すが、海斗を驚愕させるのは黒髪の少年の方だ。現在ですら驚異的な魔力量を誇っているにも関わらず、まだまだ尋常でないスピードで増え続けている。はっきり言っておかし過ぎる。この分ならば、魔術学上有り得ないと言われている、膨大な魔力量の証である金の瞳を持っていても、なんらおかしくはない。普通ならあり得ない金の瞳でも、この魔力量ならあり得ると考えることは可能かもしれない。



 そんな“あり得ない”特徴を持つ少年は、隣に立つ自分の肩より少し上ぐらいの身長を持つ少女と共に、“学院”の一角の壁に張り出されているクラス発表の紙を見て、自身のクラスを確認していた。


「咲良。お前、何組だった?」

「えぇと……あ、A組みたいだよ。晃雅は?」

「あぁ、俺も同じみたいだな。運がいい」


 その容姿に見合った綺麗な微笑みをこぼし、咲良を見る。いつもは鋭い印象を受ける金色の瞳は、薄く細められている。


「ホント?! やった! 席も近いといいね」

「そうだな」


 実際は出席番号からして近い席などはありえないと分かっていたが、晃雅はとりあえず肯定の意を示す。魔術を使えず、同学年の者にも蔑まれてきた晃雅にとって、唯一親しい仲にある幼馴染が近い席になることは、嬉しいことに変わりないのだ。

 そんなことを考えながら、そろそろクラスの方に向かおうと咲良を促そうとした時、彼はふと後ろから近づく気配を感じ、振り返る。どうしたの? そう咲良が聞く前に、その気配の主が二人に話しかける。


「やぁやぁお二人さんっ! 同じクラスだったんだって? 話、聞こえたぜ。実は俺も同じA組だったりすんだよな。まぁ、よろしく頼むわ」


 赤く染めた髪。耳には派手なピアス。蒼い瞳を輝かせ、吉井 海斗がそこにいた。……つまり、魔術を使えない晃雅、その彼の魔力量が、海斗を驚愕させる膨大さを誇っているということだ。

 その彼は、晃雅が何かを答える前に、さらに言葉をつなげる。まるでマシンガントーク。自分の言いたいことを言うだけ言って、そのまま去ってしまうのではないかと思うほど、一気にまくし立ててゆく。


「んでさぁ、俺ってツールの制作が得意だったりするわけよ。ない才能は技術で補えってな。そんなんだから、自分で作ったツールをいっつも持ち歩いてたりするんだ。で、今使ってたのは魔力量を測るツールだったんだけど………あんた、すっげぇ魔力だな? しかもまだ増えてるし。暴発とか、しないワケ?」


 今度は、『早く話せよ』とでも言いたげな目で、彼の方を見る。どうやらこの少年、随分自分勝手な性質(たち)のようだ。

 だが、彼の疑問はもっともでもある。何故なら、魔術師にとって“暴発”とは一般常識だからだ。“暴発”――それは、自身が保有出来る魔力の最大量、つまり最大魔力上限に、回復していく“オド”が達し、三日ほど経った場合に起こる現象で、力が暴走して最終的には爆発してしまうことを指す。晃雅の、自身が持つ魔力である“オド”の増える速度が尋常ではないために、彼は晃雅が暴発してしまうのではないか、と思ったのだろう。だが、これは杞憂でしかない、というのが晃雅の持論だ。何故なら…。


「いや、まだ上限に向かって回復してる途中だ。俺の最大魔力上限はまだまだ先過ぎる。未だに上限まで達したこともないし、大丈夫だろう」


 そういうことであった。晃雅の最大魔力上限は、果てしない。よって、暴発もないだろう、ということなのだ。晃雅曰く、俺の最大魔力上限は無限だ、ということだ。自身の魔力状況については、自身が一番理解しているハズなので、これは案外正しい見解なのかもしれない。


「ほうほう、そーかそーか。なーんかおもしれぇな、お前っ! 余裕なとこが、なんか気に入った!」


 ニシシっと笑い、明らかな不良ルックのくせに邪気の無い瞳を向ける。海斗は、本当におもしろいと思い、その笑みを隠そうともしない。


「あっ、そういえばさぁ。やっべぇ魔力持ってて、でも魔術が使えねぇって噂の残念なイケメンって、もしかしなくてもあんたか? ……ありゃ、でもなんで魔術使えないのに、“魔術披露”の試験をパス出来たんだ?」


 相変わらず無邪気な表情で訊ねる海斗であったが、三人の間に流れる空気は確かに凍った。――せっかく晃雅に友達が出来ると思ったのに。咲良はそう落胆し、非難の目を海斗に向ける。

 そんな咲良がさらに不機嫌にならぬよう、晃雅は名前も知らない目の前の赤髪少年に、別れの言葉をかける。


「俺を笑いにきたか? やりたければやりゃいいけど、今は邪魔だ。後で陰口なりなんなりたたいといてくれ。じゃあな。……いや、魔術披露について一つだけ。俺は魔力量だけは高いから、魔術に対する抵抗力が強い。それで、面接官の簡易的な魔術を無効化したら合格出来た。……じゃあ、今度こそこれで。咲良、行こう」


 咲良を促し、彼は右足を踏み出す。……いや、踏み出そうとしたところで常時しかめっ面の顔をさらにしかめる。


「………なんの用だよ」


 海斗だ。彼は晃雅の行く道を塞ぐように動き、慌てて両手を挙げて抵抗の意志がないことをアピールし、弁明する。


「いやいや、誤解なんだって! そりゃあおもしれぇとは言ったし、思ってるけど、そういうんじゃねぇんだ! あんたみたいなヤツ、嫌いじゃねぇんだよ。無能って言われながらも、どっか自信を持ってるように見える。たぶん、魔術が使えなくても有能って言えるほど、すげぇヤツなんだろ? そういうヤツ、俺にとっちゃあ興味の対象になるわけよ。んで、友人として、お近づきなりたいワケ! どぅ~ゆ~あんだすたん?」


 友人? 晃雅は困惑する。今まで、こういう人物には会ったことがなかった。彼を取り巻く世界には、自分を疎ましく思い、蔑む人間と、自身と共に育ち、唯一味方でいてくれる咲良、その二種類しかいなかった。このように友人になろうとしてくる人間は、魔術を使えないと知った途端に離れていった。しかし、海斗は違った。彼は、魔術を使えないことを理解した上で、それを笑いものにするわけでもなく、ただ興味を惹かれて友人になろうと提案してきたのだ。それは、晃雅にとって初めてのことであった。


「……俺と、か?」

「そっ、あんただっつってんだろ? いいじゃん、友達が出来たって悪いことなんて別にねぇだろ? ……あっ、もしかして、そこの可愛いお嬢さんと一緒にいられる時間が少なくなるのが嫌だったか? すまねぇ、まさかそんなに惚れこんでいるとは思わないだぁっ!?」


 最後の言葉は掛け声の類ではなく、悲鳴である。要らんことを言ってのけようとした海斗に対し、晃雅が下した鉄拳による悲鳴なのだ。


「咲良は俺の幼馴染だ。誤解を招くようなこと言うんじゃねぇよ」

「誤解ぃ? さっきの二人での会話からして、そういう風には見えなかったけどなぁ? めっちゃ嬉しそうに“運がいい”とか言って微笑んでたじゃいだぁあっ??!」


 今度の言葉も掛け声ではなく、悲鳴である。先ほどよりも力を込め、凶悪な拳を海斗の頭に落としたのだ。


「さっきより痛いしっ! さっきより数百倍痛いしぃっ!! 大事なことだから二度言いましたよぉぉ??!」

「あのっ……晃雅をからかったあなたが悪いと思うよ…? それに、さっきの数百倍を頭にって、それが本当なら最早(もはや)死んでると思う…」


 先ほどまで海斗のテンションについていけず、口を挟まなかった咲良の抗議が入った。基本、彼女は晃雅側に着くので、現在の攻撃の対象は間違いなく海斗であったのだ。……もちろん、今の晃雅と咲良にとって、これはただの面白半分、冗談半分のようなものだ。その点、彼らはすでに海斗を友人として認めているとも言えるかもしれない。


「ががーん! こーんな可愛いお嬢さんにまで……っ!! あぁ、鬱だ、やべぇよコレ。つーわけで詫びとしてあんたは俺の親友な。これ、決まりだからよろしく。もちろん、お嬢さんともお近づきに……あわよくば俺と付き合いっだぁああああっい!!!」


 今までで最大級の叫び声。今度の制裁は、晃雅としても看過出来ないことに対するモノだったので、当然と言える結果だろう。


「調子に乗るなよ? 友人になるのは認めるけど、それは絶対にない」

「私としても、あなたはちょっと……」


 咲良の辛辣な言葉が、海斗のガラスハートに突き刺さる。


「ちっ、もういいしっ! 恋人にするのは諦めるしっ!! もうこれでフラれんの二十回目だし、慣れてるから別に気にしねぇぞっ!!!」


 それは色々と虚しい……そう言おうと思う晃雅であったが、これ以上のダメージを与えるとさすがに可哀想なので止めておく。この海斗だって、チャラくて不良ルックであるという点を除けば、人懐っこく、それなりにモテてもおかしくないのだ。それなのにモテないのは……ご愁傷様としか言えない。

 それに、晃雅も人に言える立場ではない。告白をした経験はないとはいえ、そしていくら容姿が整っているとはいえ、晃雅は魔術が使えない。よって、彼に恋人がいた時期はない。咲良はあくまでも幼馴染なのだ。……と、二人共が言い張るが、それが本当かは定かではない。

 晃雅や咲良が、そのように返答に困っている間に、海斗はいつの間にか復活し、大きく声を張る。


「さあっ! 今度こそっ!!」

「今度こそ、なんだ?」

「自己紹介、しなきゃだろ!! 友達なんだから、名前知らねぇとな?」


 もっともであった。彼らはこれだけにぎやかに話しておいて、まだ自己紹介も終えていない。……その暇もないくらいに、海斗はしゃべり続けていたのだから、当然と言える結果なのかもしれないが。


「あぁ、そういえば名乗ってなかったな。俺は、永崎 晃雅だ。よろしく」

「私は、上原 咲良だよ。よろしくね」


 晃雅はいつものしかめっ面をほとんど崩さず、しかし幾分か柔らかい表情で。咲良は軽く微笑みながら。彼らはそれぞれの名前を告げた。


「“こうが”と、“さくら”な。うん、りょ~かい! 俺ぁ、吉井 海斗だ! よろしくな、親友っ!!」


 不良ルックのくせに人懐っこい無邪気な笑みを浮かべ、彼はやはりニシシっと笑った。





「がぁっ! やっべぇ!! 早くしねぇと遅刻じゃね?!」

「入学早々遅刻とかふざけんなっ! お前のせいだぞ?!!」

「晃雅っ、そんなこと言ってる間にも走らないと!!」

「あっ! 忘れてた! メアド教えてよ!!」

「いやいや、吉井くん! 今はそんな暇じゃないから!?」



 ……………中々しまりのない三人組の誕生だった。




次回投稿は五月二十五日(水)を予定しています。

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