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インストラクターだ!

注:最初の説明文が長いです。

  言いたいことは、コロシアムの強度が高いこと。

  晃雅が全魔戦に乗り気ではないこと。

  それは、魔術なしで勝ちあがれば御尊四家に目をつけられると思ったから。

 

と、言いたいのはほとんどそれだけです。


読み飛ばしてくださっても構いません。


まぁ、読みにくいとはいえ、読んでいただければ嬉しいんですが…。



 全生徒出場制魔術戦闘大会。通称、全魔戦と呼ばれるこの大会は、広い学院の敷地の片隅に備え付けられているコロシアムで執り行われる。普段は魔術の実習にも使われるこのコロシアムの強度は非常に高く、魔術を孕んだ貴重な鉱石をふんだんに使ったうえ、その鉱石の原子同士の結合をより強固なものにすることにより、現在では魔術学的に不可能とされている伝説級の魔術でも破壊出来ないと謳われている。その真偽は定かではないが、歴代の天城寺家系の者が力試しに全力で放った魔術でさえも破壊不可だったことで、その驚異的なまでの耐久力を示している。


 そんなコロシアムで行われる全魔戦だが、実はすでに一週間前に迫っている。あの重大発表が言い渡された昨日まで、全魔戦が行われる事実さえ知らなかった一年生には些か不利に見えるかもしれないが、魔術は才能に依る所も大きい。同じく一年生である生徒の中でも、御尊四家(おんみことのよんけ)の一角、それも学院長の子息である東條 仁は、有力な優勝候補として知られていることから、魔術は才能に左右される事実を如実に表している。

 補足だが、他の優勝候補は、御尊四家の者で現在在学中の七年生・西藤 明菜 、二年生・南原 有流人(あると)、三年生・北川 雪音(ゆきね)もなどが名を連ねているとか。つまり、御尊四家という血筋は、それだけで期待され、それに応える実力を備えているのだ。

 そして、天城寺家の者は、それらすら圧倒的に凌駕する才能に溢れ、通常では認められていない飛び級を悉く成功させている規格外の家系である。


 しかし、悲しい例外も存在する。現在の天城寺家三男、永崎(・・) 晃雅である。魔術の才能がない彼は、優秀でも認められることはない。魔術師を越えるため、全魔戦でたくさんの者と戦いたいとも思ってはいるのだが、魔術を使えない彼が全魔戦で目立つことは好ましくないのだ。最悪、御尊四家に目をつけられ、今まで以上に居心地の悪い学院生活を送らなければならなくなってしまう。


 そのせいだろうか。晃雅は、課題をなくすために全力で修行を始めている海斗と共に学院の広場の一つ、その中でも人通りが最も少ないところまできているのだが、全くやる気を見せない。他にもついてきた咲良やゆあの方にも目もくれず、一人木陰で読書に勤しんでいる。いつか以外の全てのメンバーが全員集合しているが、晃雅には関係ないのだ。


「なぁ崎ちゃんよォ、一緒に修行しようぜ? 優勝すりゃ、課題免除だぞ!? 夢のようだ!!」

「そうだよ。課題は関係ないにしても、今回こそ魔術を使えるようにするチャンスじゃん。ちょっと、頑張ってみようよ」


 という海斗やゆあの申し出も片手を振って断り、本から目を離すことはなかった。晃雅としては、いつかも『一緒に修行しよう』という誘いには乗らなかったのだから、自分はここに来ているだけマシなのではないか、と思っているのだが、彼らにはそんなことは関係ないようだ。

 いるのなら一緒に修行しよう、それが彼らの言い分だった。……もちろん、渋る晃雅をここまで引っ張ってきたのも、彼らであったのだが。

 当然だが、いくら晃雅であろうとも、御尊四家に目を付けられるのは好ましくない。よって、この全魔戦で本気を出すつもりは毛頭ないし、彼らの修行に付き合う気もない。


 それでも。実は晃雅には大きな弱点があった。それは、強みにもなりうるものなのだが、今回は弱みとして働くらしい。


「晃雅っ♪ いっしょに修行、しよっ?」


 一見、常に泰然として余裕に構えているはずの晃雅にとって、最大の弱点にして最大の支え、上原 咲良である。

 いつの間にか晃雅の座り込む木陰に移動した彼女は、いつも通りにポニーテイルにしているブラウンの髪を揺らし、柔らかな微笑みを浮かべて、晃雅を覗き込む。何が嬉しいのか、喜びに繋がる感情全てを顔に浮かべたかのような、喜色満面の笑みであった。真白の頬にほんのりと差す朱が、どうにも魅力的だ。


 立ち上がる。誰が、とは言うまでもないだろう。幼馴染のその声にやられたのか、めんどくさそうなしかめっ面こそ崩さないものの、文句も言わずに立ち上がった彼は、口を開いて一言呟く。


「…………しょうがない。三十分だけ加わろう」


 この時、彼は想像もしていなかった。全魔戦が始まるまでの一週間、ずっと彼らと一緒に修行することになる、などとは。

 だが、それも当然かもしれない。修行を誘う側には、対晃雅で最高の威力を誇る最終兵器(リーサル・ウェポン)を持っているのだから。

 その最終兵器は、晃雅が修行に参加することを純粋に喜び、軽く跳ねて喜びを表現する。


「ホント? やった!! 一緒に頑張ろうねっ」

「三十分だけな」


 晃雅は確認するようにそう言い、海斗とゆあが待つ広場へ咲良と共に歩いていくのだった。





「遅いっ! 違うだろ、そこはゴーレムで……」

「ひえっ?! 崎ちゃんが怖いっ??!」

「なにを言ってるんだ!! 修行だぞ、シャンとしろっ!!」

「はいぃ!!」


 先ほどから怒鳴り、相当に乗り気で修行に参加している黒髪金瞳の少年こそ、つい一時間前は木陰で修行に参加するのを渋っていた彼である。名を、永崎 晃雅という。

 職業は、インストラクターだ。………失礼、魔術学院生だ。


「お前、ホントにさっきまで渋ってた崎ちゃんかよ?! 修行になると怖ぇよっ!!」

「違う、俺はインストラクターだ!」

「いやいや、おかしいから?!」


 軽口を叩き合いながら、二人は円を描くように動く。互いに互いを警戒し、今にも飛びかからんとする勢いだ。もちろん、これは模擬戦であり、互いにただのお遊びのような気持ちではあるが、周りに伝わる緊張感は決してかわいいものではなかった。

 それは、咲良やゆあからしても同じのようで、多少驚いた表情をしている。


「すごい……魔術を使ってないのに、魔術師と対等以上に戦えるなんて…」

「私は、晃雅が強いのは知ってたけど、吉井くんが結構ちゃんとしてるのが意外かなぁ」


 驚きの対象は違うようであったが。これで、二人の認識も少しは改まったことだろう。特にゆあの『魔術が絶対』という思想は未だ抜けきっていない。是非とも、“魔術師”以外の実力を認められるようになって欲しいものである。



「さぁ、咲良! 私たちも乱入しよっか!」

「あ、それいいね! よーし、じゃあ最初はダイヤモンド・ダスt「いやいや、それは危なすぎるよ?!」……ほぇ? そうかなぁ?」


 さり気なく危険な会話をしていたことを、晃雅たちは知る由もない。



「晃雅っ! 私たちも混ぜて!!」

「違う、俺はインストラクターだ!」

「もうそのネタはいいから?!」







 天凪市内のとあるビルの地下。夜もだいぶ更けて来た今、そこに十人ほどの人間が集まっている。怪しげな男女が多いこのメンバーの中、一人だけ場違いな少年がいた。彼は、なにやら苦しげな表情を浮かべてはいるが、別段なにかをされているようには見えない。ただ、冷たく、少年らしさの欠片もない彼は、どこか異様に映った。

 普段はとても少年らしく輝いているであろう瞳も、人を惹きつける笑みを浮かべるはずの表情も、今はただ只管に苦しげなだけだ。


 その彼は怪しげな男女を目の前に、何かのメモのようなモノに目を向けながら口を開く。


「ターゲットに接触してから、一ヶ月ほどが経ちましたが、現在は比較的良好な状態にあると言えます。この流れを保てるならば、ターゲットの意表を突くことは容易になることでしょう」


 苦しげな表情とは裏腹に、どこまでも感情の抜け落ちた、機械的とまで言える声音。ただ静かに、淡々と告げられる“ターゲット”に関しての現状報告は、なんの感情も込められずに続く。


「彼の魔力量は予想外に高く、その実力はそれよりさらに予想外の高さを誇っていましたが、その問題はどうとでもなるでしょう。実力を視認する機会に恵まれ、私の実力では到底敵わないと知った今でも、彼を手中に収める手立てはあります。要はタイミングです」


 これで報告は終わり、と言わんばかりにメモをポケットにしまった少年に、怪しいメンバーのうち、一人の男が訊ねる。


「ターゲットの魔力は、この先もまだ伸びる見込みはあるのか?」


 報告を終え、早々に帰ろうとしていた少年は、引き止められたことに若干顔をしかめながらも答える。


「はい。正直言って、彼の最大魔力上限は底なしです。暴発する恐れも今のところありませんし、最高のタイミングが来るのもまだ相当先のはずですから、さらに魔力が溜まる頃合いを待つべきでしょう。……では、私の報告は以上です。帰ってもよろしいでしょうか?」

「うむ、そうだな。あまりこちらにいて、向こうで怪しまれても困る。戻れ」

「はっ」


 息を吐き出すように返事をし、後ろを向いて歩き出す。



「これで膨大な魔力が、我ら“機関”のものとなる時期は近いっ!!」


 響き渡る哄笑。男性も女性も、何かにとり憑かれたかのように狂気を孕んだ笑い声を上げる。不気味だった。

 少年は、その不気味な哄笑を背に浴び、盛大に顔をしかめながらその場を去っていくのだった。



「あぁ…コイツらは、狂ってる」



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