↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十一歳の女当主は天下を急がない~戦より先に田を拓き、四十五歳で征夷大将軍となるまで~  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
503/541

勝者の法・使者

二十七家が新しい軍役と裁判の基準を求めた。榊原澄景は43歳となっていた。京の御所門には潮で白くなった船板があり、働く者の手が動いていた。十一歳で当主印を受け取った日から三十余年、彼女が見る順番は変わらない。兵の数より飲み水、城の名より帰る家、祝言より明日の配給だった。


榊原家だけに最終決定権を集める案が出る。評定では正しさが二つに割れた。戦を終わらせるための厳罰と、次の戦を生まぬための赦し。どちらにも犠牲がある。冬乃は米と銭を、宗兵衛は帰還できる兵を、慈円は身寄りのない死者を数えた。澄景は誰か一人の善意に国を預けず、判断の期限と見直す日を木札へ書かせた。


彼女は国主自身を縛る期限と異議申立てを法に入れると決めた。冬乃へ役目を渡すとき、中止できる条件も読み上げた。命令に従うだけの者では、遠い浜や谷の異変を救えない。現場で変えた者は理由を残し、その理由を後から皆で裁く。それが三十四年をかけて得た、支配ではない統治の形だった。


夕刻、京の御所門の炊事場で旧敵の家族と榊原の足軽が同じ薪を割った。忘れた傷はない。帰らぬ者の席も埋まらない。それでも子供の椀へ入れる粥の量に、父親がどの旗の下で戦ったかは書かれなかった。澄景は死者帳へ最後の戦没者を書き、余白を残して筆を置いた。余白が続くことを願える国に、ようやく辿り着いた。


夜、冬乃が灯心を整える横で、澄景は「役目を血筋だけへ渡せば乱世も受け継がれる」と記した。これは勝者の教訓ではない。間違え、退き、失った者の覚え書きだ。外から水音か波音が届き、見張りの足音は穏やかだった。天下とは一人が高みに立つことではなく、遠い村の失敗を別の村が直せる仕組みなのだと、澄景は知っていた。国が続くとは、完成しない仕事を次の手へ渡せることだった。


(次話へ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。