第24話 罪と罰の釣り合い3
レオリアは、エリザベータのメモに記載されていた場所へ向かう。
「トスコール商会。ここだな」
レオリアも、このトスコール商会の名前は知っている。
商会とは名ばかりで、その実態はマフィアだ。
レオリアは扉を開け、無造作に廊下を進む。
「ああ? メイド? なんでメイ……」
言いかけている途中で、男の身体が宙を舞った。
そして、鈍い音を立て、男は廊下に倒れ込む。
「ぐぶぶぶぶ」
頭部を廊下に打ちつけ、泡を吹いて気絶した男。
男の足は、人の関節としてあり得ない方向に曲がっている。
レオリアは、男の足に向かって下段回し蹴りを放っていた。
音に気付いた者たちが廊下に集まる。
「お、おい!」
「一人やられてるぞ!」
騒ぐ男ども。
しかし、レオリアは構わず廊下を進む。
「なんだてめー!」
「メイド?」
「あ! てめえは!」
叫ぶ三人の男に向かって、レオリアが高速の蹴りを放つ。
スカートがめくれた瞬間、相手はすでに倒れている。
男どもの腕または足の関節は、曲がってはいけない方向に曲がっていた。
「しゅ、襲撃だ!」
「どこのもんだ!」
「メイドだってよ!」
「はあ? 冗談だ……がっ!」
レオリアが廊下を進むと、男たちは次々と倒れていく。
死人は出ていないが、全員どこかしら骨折していた。
剣やナイフ、斧まで持ち出している者もいるが、レオリアには関係ない。
全員が等しく倒れていく。
レオリアは廊下の奥まで進み、ひときわ豪華な扉の前に立つ。
そして、躊躇なく扉を蹴破ると、突然ナイフが飛んできた。
レオリアは焦りもせず、ナイフを蹴り落とす。
「貴様が責任者か?」
部屋の奥にいたのは、パーティーで女性従業員を脅した男だ。
「あの時のメイドか。何しに来やがった?」
「貴様を殺しに来た」
「はあ? 何言ってんだ?」
「貴様は女性従業員に何をした?」
「は? まさか、女を触ったくらいで、メイドが襲撃に来たのか? なんじゃそりゃ。がははは」
襲撃の報告は聞いていたが、飛び出した部下たちは全員戻ってこない。
男はこの襲撃が、対抗マフィアか、名のある殺し屋だと覚悟を決めていた。
だが、実際は一人のメイドだ。
女には滅法強い。
それがクズたる由縁だ。
「まあいい。ここまで暴れちゃもう帰れねーぞ。責任取ってもらおう。その体でな!」
二本のナイフを握り、男はレオリアに襲いかかった。
すでに勝った気で、レオリアの身体をどう弄ぶか想像している。
その汚い表情が物語っていた。
「その足、たまんねーぜ!」
レオリアは冷静に構え、男が左手で持つナイフに向かって、右足の上段回し蹴りを放った。
その勢いを保ったまま身体を左へ回転させ、ジャンプしながら左足で後ろ回し蹴りを繰り出し、男の右手のナイフを蹴る。
「触ったくらいだと? 貴様らは彼女の尊厳を破壊したクズだ」
宙を舞った二本のナイフが同時に落下すると、木製の床に突き刺さった。
「う、嘘だろ……」
一瞬で武器を失ったマフィアのボス。
手は痺れ、額から冷たい汗が滴り落ちる。
「全身の骨を折ってやろう。彼女の心の痛みを思い知れ」
「ま、待て! 金をやるから! 詫び代だ! それでいいだろ!」
「痛みに悶え苦しめ。そして死ね」
レオリアの右足が動き始めた。
◇◇◇
俺はレオリアの派遣先だったホテルへ訪問していた。
レオリアのアフターフォローだ。
支配人からはとても高評価だったが、レオリアが担当したパーティーの給仕長は、どうも様子がおかしかった。
レオリアの態度を強く非難しており、あまりに無礼だと激昂。
俺は謝罪し、然るべき対応を取ることを約束した。
しかしホテルを出る直前で、一人の女性従業員が状況を説明してくれた。
レオリアは痴漢行為に対して、苦言を呈したとのことだ。
「レオリアは間違ってない」
とはいえ、俺には拭いきれない不安な点があった。
「まさかな。……いや、でもあのレオリアだ。危ないかもしれない」
女性従業員に痴漢行為を働いた相手は、中規模なマフィアだという。
レオリアのことだから、単身で乗り込むかもしれない。
――
俺は念のためにマフィアの事務所へ立ち寄った。
「ここがトスコール商会か」
赤レンガ造りの二階建てで、歴史を感じる建物だ。
マフィアの事務所に入るなんて緊張するが、確認だけして帰ればいい。
「よし、行くか」
扉に手をかけ中を覗くと、廊下に何人もの男たちが倒れていた。
「な、何だ?」
廊下に入ると、口から泡を吹いている者、腕や足があらぬ方向に曲がった者たちの姿があった。
「お、おいおい。これって……もしかして、レオリアの仕業か?」
全員意識を失っているが、辛うじて息はあるようだ。
男どもを避けながら廊下を進む。
「ん? 会話か?」
廊下の奥にある部屋の扉が開いている。
というより、破壊されていた。
そこから話し声が漏れている。
聞き覚えのある声だ。
「レオリアの声!」
俺は廊下を走り、急いで部屋に入った。
「レオリア!」
レオリアが男の前に立っていた。
どう見ても、攻撃体制に移ろうとしている。
「レオリア! 待つんだ!」
俺の言葉を無視して、レオリアは重心を左に寄せた。
そして、左足を軸として、右足が跳ね上がる。
「待て! レオリア!」
あまりにも速い蹴りが、あまりにも美しい弧を描く。
本来なら、この右上段回し蹴りで男の首は折れていたはずだ。
俺はとっさに男の前に立ち、腕を折りたたみながら、レオリアの蹴りを受け止めた。
「くっ!」
レオリアは構わず、左の上段回し蹴りを放つ。
常人であれば、両足が同時に左右から襲ってきたと思うだろう。
俺は即座に左腕を折り曲げ、蹴りを防いだ。
「ぐっ! な、なんという重い蹴りだ!」
左右の足で蹴りを放ったレオリアが動きを止めた。
「課長か。突然のことで止められなかった」
「いや、大丈夫だよ。あまりにも速くて、俺も受けることしかできなかったしね」
レオリアは、なぜか不満そうな表情を浮かべている。
「私の蹴りを受けて余裕か?」
「余裕なわけないだろ!」
「なぜ平然としている?」
「してないって。その証拠に……」
俺の腕は骨折していた。
痛みが腕から脳に響く。
立っているのも辛いほどの痛みだ。
俺はこれほどの蹴りを受けたことがない。
「ふむ、骨折か。そうだろうな」
俺の額から脂汗が滲む。
「レオリア、引くんだ。あとは俺がやっておくから」
「ダメだ。クズは殺す。人の尊厳を破壊したクズに生きてる価値はない」
正直に言うと、俺もレオリアの意見に賛同している。
倒れる男どもを見て、やりすぎとも思わない。
だからといって、殺していいわけではない。
「レオリア! 言うことを聞いてくれ!」
「どけ! 課長!」
レオリアは俺の側面に回り、蹴りの体勢に入った。
「死ね!」
俺にはもうこの蹴りを止める余力はない。




