第22話 罪と罰の釣り合い1
今日のメイド課は全員派遣業務だ。
俺は自席で書類仕事を進める。
すると、アリッサさんが書類を持ってきた。
「オリハルト課長、緊急の依頼です」
「緊急ですか?」
「はい。第二街区のホテルからの依頼です」
「ホテル?」
「こちらが依頼書です」
アリッサさんから依頼書を受け取った。
メイド課の派遣は個人宅が多いが、企業からの依頼も受け付けている。
しかし、依頼自体はほとんどない。
企業が単発でメイドを依頼する意味がないからだ。
清掃などは自社の従業員が行ったり、清掃業者を雇うほうがコスト面からも現実的だろう。
「この日はパーティーが重なったことで、ホテルの従業員だけでは足りないそうです。しかも顧客からは、女性を用意するようにと注文が入っているそうです」
「女性? それって接待も含まれるってことですか?」
「そういうわけではありませんが、顧客は期待しているかもしれませんね」
「そうですか……。もしかして、自社の従業員を守るために、メイド課へ依頼してきた可能性も?」
「なきにしもあらず、ですね」
アリッサさんは左手で薄ピンク色の髪を耳にかけながら、右手に持つバインダーを見つめている。
バインダーに挟まっているのは、メイド課のスケジュール表だ。
「スケジュールを調整できるのは、レオリアちゃんです」
「レオリアですか。彼女で大丈夫でしょうか?」
「むしろ、彼女が適任でしょう」
「いや、その……。レオリアの仕事は完璧ですが……」
「だからですよ。ふふ」
優しい微笑みを見せるアリッサさん。
俺が懸念する事柄は、アリッサさんにとっては安心の材料のようだ。
レオリアはとても優秀なのだが、非効率を嫌う。
女性の接待を期待している客であれば、トラブルになりかねない。
もちろん、メイド課の業務は接待や接客ではないため、レオリアの行動は問題ないのだが、顧客との揉め事は避けたい。
「緊急依頼ですと料金は通常よりも割高ですが、その点は問題ありませんか?」
「はい。ご承諾いただいております」
「分かりました」
その後もアリッサさんと依頼について協議して、正式に受注を決定した。
――
「ただいま」
夕焼けを迎える頃、レオリアが派遣からメイド課に帰還した。
「レオリア、仕事の依頼が来たよ」
「ミーティングルームへ入ってる」
「ああ、ありがとう。俺もすぐに行くよ」
帰還したばかりのレオリアは、すぐにミーティングルームへ入った。
俺も書類を用意して席を立つ。
ミーティングルームに入ると、レオリアは姿勢よく着席して瞳を閉じていた。
まるで瞑想しているようだ。
レオリアは長袖のメイド服を着用している。
色は黒を基調としており、襟とカフス、スカート裾のフリルが白い。
白いエプロンは、胸からスカートの裾までと長いタイプだ。
スカートの長さは膝丈で、黒いタイツを履いている。
そして、膝下は黒い革製のロングブーツだ。
特徴的なロングブーツは、編み上げで特注品と聞いた。
レオリアの身長は俺とほぼ同じくらいで、女性としては高身長だ。
何より恐ろしく足が長い。
レオリアは、その長い足を最大限活用する。
つまり蹴りが得意だ。
メイドなのになぜ蹴りが得意なのか。
俺にはさっぱり分からない。
「疲れているところ申し訳ないね」
「問題ない」
切れ長の瞳がゆっくりと開く。
美しく輝く紅い瞳が、俺を捉えた。
レオリアは、メイド課で唯一俺と同い年だ。
窓から入る夕方の涼しい風で、レオリアの黒髪が優雅に揺れる。
光沢が非常に美しい黒髪は、まるで夜の清流のようだ。
前髪は眉下でまっすぐカットされている。
髪の色とは対象的な白い肌。
切れ長の紅い瞳、長いまつ毛、筋の通った鼻筋、薄い唇。
レオリアもまた恐ろしいほどの美人だ。
だからこそ、俺は今回の派遣で心配が尽きない。
「ホテルの給仕スタッフなんだ。大きなパーティーが入ってるようで、この日だけ人が足りないそうだ」
「なるほど。問題ない」
「先方のホテルが言うには、パーティーの顧客は女性の担当を要望している。つまり、女性の接待を希望しているようなんだ」
「その点も問題ない」
レオリアは表情を変えずに即答した。
その後、仕事の詳細を伝えると、レオリアはすぐに席を立つ。
「全て課長に任せる。では」
レオリアが俺に背を向け、ミーティングルームを出ていった。
「本当に用件人間なんだから……。まあ、レオリアなら仕事も完璧だし、容姿もこれ以上ない。トラブルさえ起こさなければいいけど」
レオリアは、何事も効率的に最短で用件を済ますため、異常なほど仕事が早い。
一を言えば十を理解するし、必要以上の会話を交わすこともない。
それゆえに、トラブルに発展することもある。
俺はレオリアが出ていった扉を見つめた。
「まあ、さすがに大丈夫か」
書類に視線を落とし、受領の書類にサインした。




