第13話 シェリーナの特殊依頼2
「もしかして?」
「たたたた大変申し訳ございません!」
即座に深く頭を下げるシェリーナ。
いつものようにポニーテールが宙を舞う。
そう、シェリーナは作業の最後にテーブルセットを消滅させていた。
「私がお伝えしなかったことが原因でございます。お気になさらず」
「申し訳ございません!」
「頭を上げてください。あのテーブルも古くなってきたので、新しいものと交換しようと思っていたのです。ほほ」
これは執事の気遣いだ。
あのテーブルセットは年代物の貴重なものだった。
シェリーナの白く美しい顔は、完全に血の気を失っている。
今にも倒れそうなほどだ。
「シェリーナ様、本当にお気になさらず」
「そ、そうは言っても……」
「こう言っては失礼ですが、仕事にミスはつきものです。完璧な人間などおりませぬ」
「しかし、私たちメイドは完璧な仕事を求められております……」
ミスはしたが、シェリーナの責任感の強さに好意を持っている執事。
こういう性格だからこそ、執事はシェリーナの仕事に対する姿勢を評価して、毎年依頼していた。
執事としては、なんとかフォローしたい。
「ではこうしましょう。来年以降も必ず私どもの依頼を受けていただきます。これでいかがですか?」
「え? あの……よろしいのですか?」
「もちろんでございます」
「ありがとうございます。ぜひとも、よろしくお願いいたします」
「ほほ、良かったです。シェリーナ様の消滅は特別ですからね。今後ともよろしくお願いいたします」
仕事先でミスをして、依頼主に慰められてしまったシェリーナ。
瞳に涙を浮かべながら、感謝と謝罪を繰り返した。
――
全ての業務を終え、シェリーナは早足で古城へ戻る。
予定よりも遅くなったことで、すでに日没を迎えていた。
右手に仕事用のトランクケース、左手にランプが入ったトランクケースを手に持ち、街道を早足で進む。
しかし、その表情は暗い。
メイド課に戻ると、オリハルトが課長席に座っていた。
就業時間を超えていたため、他のメンバーは全員帰宅している。
「おかえり、シェリーナ。遅かったね。どうだった?」
「それが……」
シェリーナは、正直にオリハルトへ報告した。
「そ、そうか……。でも、先方は問題ないと仰ってくださったんだよね?」
「はい……。そうです」
「正直に報告してくれて嬉しいよ。あとはこっちでやっておくからさ。顧客へのアフターフォローも責任者の仕事だからね。俺に任せて。ははは」
「で、でも……」
「気にしないで。もちろん反省は必要だけど、失敗に囚われちゃダメだよ」
「はい。本当に申し訳ございませんでした」
シェリーナは瞳に涙を浮かべながら、深く、深く頭を下げた。
そのままの姿勢で動かない。
「ちょ、ちょっと、シェリーナ! 頭を上げてよ!」
「私、オリハルトさんに迷惑かけてばかりだ。ごめんなさい。ごめんなさい」
シェリーナの声は震えていた。
鼻声を通り越して、完全に泣いていることが分かる。
絞り出したこの言葉は、シェリーナの本音だ。
「シェリーナ。君の強みは一生懸命さと、誠実さと、勤勉さと、責任感の強さと……。まだまだたくさんありすぎて困るほどだよ。はは」
オリハルトは、できる限りの明るい声でシェリーナを励ました。
しかし、まだ頭を下げているシェリーナ。
「シェリーナ、頭を上げて。君は優秀なメイドだよ? メイド課は君がいて助かってるんだ。本当にありがとう」
「でも、みなさんにご迷惑をおかけしてばかりで……」
「そんなことないさ。みんな君が好きだし、俺も上司として君の仕事ぶりには常に感謝しているよ」
ゆっくりと頭を上げたシェリーナ。
赤く腫れた目で、オリハルトの顔をまっすぐ見つめている。
「シェリーナ、ミスの責任は上司が取る。そのための管理職なんだ。君はこれまで通り……。あ、いや、少しだけ気をつけてもらって、仕事を続けてほしい」
「私はクビになりませんか?」
「クビ? なるわけないだろう。君はうちにとって、欠かすことのできない大切なメンバーさ」
オリハルトは席を立ち、シェリーナの肩に手を乗せた。
「今日はもう帰宅しなさい」
「いえ、始末書を今日中に書きたいので」
「明日でいいよ?」
「課長は帰らないんですか?」
「うん。まだ仕事が残っていてね」
「オリハルトさんもいらっしゃいますし、今日中に書きます。慣れてますから。ふふ」
少しだけ笑みを見せたシェリーナに、オリハルトは安心した。
シェリーナは自席に座り、引き出しから始末書を取り出す。
そして、持ち帰ったランプの取っ手を握り、魔力を込めた。
「そのランプはどうしたんだい?」
「いただいたんです」
「そうか。かっこいいランプだね」
「かっこいい? 可愛いですよね?」
「かっこよくない?」
「可愛いです!」
「えー、そうかなー」
お互いの主張を変えない二人だが、声質は明るく、楽しんでいるようだった。
廊下にまで漏れる声。
扉の外では、メイド課のメンバーたちが部屋の様子を探っていた。
「あの様子なら、シェリーナちゃんは大丈夫そうですね」
「そうね。思いの外、オリハルト君が上手くやってくれたわ」
「だから言ったじゃないですか。オリハルト課長は優秀だって。ふふ」
アリッサが口を押さえて小さく笑いながら、女神のような笑みをエリザベータに向けた。
「でも、シェリーナの肩に手を置いた点は許せないわね。キモすぎる」
「そこは大目に見てあげてください。ふふ」
リリアがエリザベータの袖を引っ張る。
「ねえ、エリちゃん。私、お腹減っちゃったんだけど」
「そうね。じゃあ、私たちはディナーへ行きましょうか」
「エリちゃんの奢りでしょ? こんな時間まで待機させたんだから」
「いいわよ。好きな物を食べなさい」
「やったね!」
メイド課のメンバーたちは、古城を後にした。
全員笑顔を浮かべながら。




