第12話 シェリーナの特殊依頼1
◇◇◇
ヴァルスト王国の首都ヴァルス。
中心地から離れた第六街区に建つ古城は、国家機関である『人材派遣局』が使用している。
様々な人材派遣を行っている中の一つに、メイド課がある。
所属のメイドたちは、依頼先で清掃、洗濯、炊事などの家事全般を行う。
そんなメイドたちには秘密があった。
◇◇◇
「行ってきます!」
シェリーナがメイド課を出発した。
今日は上級貴族の邸宅で、清掃業務だ。
この派遣は年に一回、シェリーナの指名で入る。
シェリーナにしかできない内容な上に、上級貴族ということで報酬は非常に高い。
メイド課の給与体系は基本給プラス出来高制だ。
シェリーナは、この一日で数ヶ月分の基本給と同等の報酬を得る。
「メイド派遣のシェリーナ・リアデルです」
「シェリーナ様、お待ちしておりました」
屋敷に到着すると、執事が出迎えた。
老齢の執事は黒い執事服をまとい、年齢を感じさせない美しい礼を披露する。
その所作に、シェリーナは思わず感嘆の声を上げた。
「執事長、私のことは呼び捨てでお願いいたします」
「ほほ、それはできかねます。シェリーナ様はメイドとはいえ、私から見ますと特別なお客様ですから」
「そ、そんな……」
この執事が、シェリーナに仕事を依頼している。
実はシェリーナの特殊能力を知る、数少ない人物だった。
二人は会話しながら中庭へ歩く。
「依頼の品はこちらになります」
「今年もたくさんありますね」
「そうなのです。年々物が増えてしまって。当主の買い物好きにも困ったものです」
中庭には、家具や雑貨などが並んでいた。
その数はゆうに百は超えるだろう。
「では、さっそく始めますね」
シェリーナは革製のトランクケースを開けた。
そこから二本のハンマーを取り出す。
それぞれ片手で持てるほどの一般的な大きさのハンマーだ。
ただし、ハンマーヘッドは通常のものより大きい。
シェリーナは、この二本のハンマーで挟んだものを消滅させることが可能だった。
消滅可能な物質は固体に限り、また大きさに制限もある。
消滅範囲はコントロール可能で、最小はハンマーの面積で、最大は挟み込んだ時の衝撃波が届く範囲だ。
「どちらから行いますか?」
「その小さな椅子から始めます」
シェリーナがハンマーを構えると、その正面に執事が椅子を置く。
「お願いいたします」
「はい! いきますね!」
左右の手に握ったハンマーを猛烈な速度で振りながら、椅子を挟み込んだ。
「っしょ!」
衝撃波が発生し、椅子が消滅。
だが無音だ。
ハンマーで挟み込んだ時だけ、音を相殺することが可能だった。
「相変わらず……凄い……」
執事が思わず本音を漏らす。
すぐに我に返り、それを隠すかのように深く頭を下げた。
「お見事でございます」
「ありがとうございます! どんどんいきますね!」
シェリーナは双鎚を操り、次々と不要品を消滅させていく。
シェリーナのこのスキルは他言無用となっており、執事長以外は誰も知らない。
契約には厳格な守秘義務が盛り込まれている。
――
依頼の品を半分ほど消滅させ、一旦ランチを取ることになった。
裏庭の白い古テーブルに座ると、屋敷のシェフが調理した料理が次々と運ばれてくる。
「わあ、凄いお料理!」
「今年も旬の素材をふんだんに使用しております。野菜、魚、肉とどれも最高級の素材でございます」
シェリーナは密かに、このコース料理を楽しみにしていた。
メイドとして料理は得意なシェリーナだが、一流シェフが作る料理とはレベルが違う。
毎年、その技術の高さに驚きながらも、自分でも取り入れようと勉強を兼ねていた。
「シェフはこの日のために、時間をかけて大量に仕込みをしますからね」
「すみません……」
「いえ、シェフは楽しみだと言っております。これほど食べてくださる方はおりませんので」
「お、お恥ずかしい……」
魔力の使用は非常に多くのエネルギーを消費する。
今回のように大量の消滅を行う場合は、通常の食事では賄えないエネルギー量が必要だ。
執事はそれを知っているため、七人分を用意している。
コース料理のため、一品につき七皿だ。
「ああ、本当に美味しいです」
シェリーナは心から味を楽しみ、当然のように完食した。
そして、午後の作業を開始。
常人より遥かに体力と魔力があるシェリーナでも、さすがに休み休みの作業となる。
残りも少なくなったところで、一台の小さなランプが置かれた。
「あれ? このランプって、魔力ランプですか?」
目の前の古びたランプは、魔力持ちが持つと光るランプだ。
少ない魔力で一晩は明かりを灯すという。
「左様でございます。しかし、当主には魔力がございませんので、不要になった物です。なぜ購入したのか……」
「あの、執事長。もし可能でしたら、このランプをいただいてもよろしいですか?」
「このランプをですか? 古いですよ?」
「凄くお洒落で可愛いです。消滅させるのはもったいないかなと思いまして……」
「ほほ、もちろん問題ございません。もし他にも欲しいものがあれば、仰ってください」
「はい、ありがとうございます」
シェリーナが頭を下げると、ポニーテールが宙を舞う。
「では、持ち運び用の箱をお持ちしますね」
「わざわざすみません。作業は進めておきます」
屋敷に戻る執事にもう一度頭を下げ、シェリーナは作業を続けた。
――
「ふう、やっと終わりました」
中庭に置かれた全ての品物を消滅させたシェリーナ。
そこへ執事が箱を抱えて戻ってきた。
「シェリーナ様、終わったようですね。ありがとうございます」
「とんでもないです。私としても、このご依頼はありがたいです。一日でこれほどの消滅を行うことはございませんので、魔力向上に繋がります」
魔力は使えば使うほど、基礎魔力を増やしていく。
体力と似ている。
「ランプはこちらの箱でお持ち帰りください」
「はい、ありがとうございます」
執事は革製の小さなトランクケースにランプを入れ、シェリーナに手渡した。
「ん? ところで……、中庭のテーブルセットは……」
「テーブルセット……」
「はい、白のテーブルセットでございます」
シェリーナの顔色がみるみる青ざめていく。




