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最強メイドは今日も力で事件を解決する  〜国家戦力級の暴走メイドに奔走する新人課長。実はこいつが一番ヤバい件〜  作者: 犬斗
第二章 シェリーナ・リアデル

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第11話 猫を助けるために壁を壊した件10

 処理を終えると、すでに日が暮れていた。


「ふう、すっかり遅くなっちゃったな」


 立ち並ぶ街灯が、石畳の街道を照らす。

 地平線からは、月が顔を出している。


 ジュドーに関しては、人材派遣局に連絡を入れた。

 上層部が動くので、この件はもうメイド課から離れる。

 状況の確認が終わり次第、騎士団に身柄を引き渡すことになるだろう。


 さらにジュドーの家の処理は、人材派遣局の清掃課が対応する。

 猫の虐殺なんてなかったかのように、綺麗になるはずだ。


 古城に戻ると、メイド課の扉から光が漏れていた。


「ん? 誰かいるのか?」


 就業時間はとっくに過ぎている。

 誰かが働いているのだろうか。


「あ、オリハルトさん、おかえりなさい!」


 声をかけてきたのはシェリーナだった。

 胸元が破れたメイド服から、私服に着替えている。


「シェリーナ、まだいたのかい?」

「はい。やっぱりご迷惑をおかけしましたので……」

「気にしなくていいのに」

「そんなわけには……。それと、リリアちゃんに残ってもらったんです」

「リリアに?」


 シェリーナの正面は、リリアの席だ。

 メイド服を着たリリアが、座席から俺に視線を向けていた。


「課長、お疲れ様」

「お疲れ様、リリア。こんな遅くまでどうしたんだ?」

「シェリーナちゃんに聞いたの。課長が怪我したって」


 メイド課に異動して一カ月が経過したものの、まだメイドたちとは打ち解けていない。

 それでも、シェリーナとリリアは好意的に接してくれる。


「私が診てあげてもいいよ?」

「え? いいのかい?」

「条件が二つあるけどね。でも、先に怪我を見せて」


 条件というものが気になるが、俺はリリアの前に立ち、言われた通り両手の掌を見せた。

 黒く焼け焦げており、指紋が見えないほど手の皮が破れている。


「うわー、痛そう。シェリーナちゃんの双鎚を掴んだんでしょ?」

「ああ、そうだよ」

「信じられない。よく掴めたね。普通なら腕が消えてるよ?」

「まあ、なんとかね。運がよかったんだ」

「ふーん。じゃあ、治癒魔法かけてあげるね」

「ありがとう。助かるよ」


 リリアはメイド課で唯一、魔法を操ることができる魔法使いだ。


 人は生まれながら魔力を持つ者がいる。

 魔力持ちと呼ばれる者たちだ。

 魔力の大小はあるものの、十人に一人は魔力持ちと言われており、それほど珍しくない。

 シェリーナも魔力持ちだ。


 その体内に宿る魔力の性質を変化させて、体外に放出することを魔法と呼ぶ。


 シェリーナはハンマーに魔力を込めているが、その性質は変化していない。

 常人よりも基礎魔力は遥かに多いそうだが、それでも魔法は使えないそうだ。


 いや、そもそも魔法使いの数は非常に少ない。

 そのため、魔法使いたちは魔法師団にスカウトされるという。


 リリアは相当な魔法の使い手だが、なぜかこのメイド課にいる。

 理由は俺も知らない。


 リリアが俺の掌に手をかざすと、徐々に傷が癒えていく。


「本当に凄いな」

「そう? こんなの普通だよ?」

「いやいや、治癒魔法を使える人を見たのはリリアが初めてだよ? もう驚いたのなんのって」

「なにそれ。人を化け物みたいに言わないでよ」


 リリアが不満そうな表情を浮かべ、頬を膨らます。

 メイド課で最も若いリリアは、表情が豊かで幼く見える。


「あはは。ごめんごめん。でも本当に凄いし感謝してるさ。ところで、条件というのは?」

「今度パフェを奢ってよ」

「パフェ? そんなものでいいのかい?」

「ただのパフェじゃないよ。フルーツ堂のスペシャルパフェだよ?」

「分かった。二つでもいいよ」

「やった! 三つ食べる!」

「はは。もちろんいいよ」


 リリアが満面の笑みを浮かべた。

 その笑顔はまるで少女のように、明るく純粋だった。


 魔法の使用は相当な魔力を消費する。

 魔力と体力は似ており、その源となるエネルギーの一つが糖分だ。

 そのため、リリアは常に甘い物を食べている。


「はい、終わったよ」

「ありがとう、リリア」


 掌を眺めると、さっきまでの大火傷が嘘のように消えていた。

 リリアの魔法は本当に凄い。

 これを病院で治そうとすれば、数カ月はかかるだろう。

 最悪、元に戻らないかもしれないほどの怪我だった。


「ニャー」


 自席に戻ると、机の上に一匹の猫が座っていた。


「ん? この猫は?」

「はい、あの家にいた三匹の猫のうち、一匹だけが逃げずに残っていたので、連れてきてしまいました。かわいそうだったので……」


 シェリーナが黒猫を見つめている。

 確かにかわいそうだが、ここは仕事場だ。


「でも、ここじゃ飼えないしなあ」

「もう一つの条件は、この猫を飼うことだよ」


 リリアが黒猫を抱きかかえた。


「え! い、いや、それはできないよ」

「もう治療しちゃったもん。契約は成立してるよ」

「そ、そうは言っても……」

「それにね、課長には教えてあげるけど、黒猫って魔女との相性がいいんだよ?」


 そういえば俺がメイド課に赴任する際、局長からリリアの感情に関して指示を受けていた。

 リリアの喜怒哀楽のうち、悲しみと怒りには気をつけるようにという内容だ。


 黒猫を優しく抱きかかえるリリアを見て、この黒猫がいればある程度は制御できると感じた。


「分かった。それも許可するよ。何かあったら俺が責任を取るから安心して」

「やったね! 新課長は話が分かる! 私はまだ祝福を授けてないから、この子にする!」


 リリアが黒猫の頭を優しく撫でる。


「じゃあ、シェリーナちゃん。この子に名前をつけてあげて」

「私でいいんですか?」

「もちろんだよ。その名前で祝福するね」

「じゃあ……『タルド』はどうですか?」

「いい名前だね。古い言葉で、甘いとか可愛いって意味ね」


 リリアが自分の右手を見つめると、白い光を帯び始めた。

 そして、その手で黒猫の頭に触れ、タルドと名前を告げながら呪文を唱えた。


「これでこの子は祝福されたよ」

「祝福って?」

「魔女は一匹の黒猫と契約することができるの。祝福を与える代わりに幸運をもらう。魔女にとって黒猫は幸運の象徴なんだ。そして、祝福された黒猫は病気をしなくなって、身体能力も数倍になるんだよ」

「そ、そんなことができるのか!?」

「うん。黒猫だけね」


 理屈は分からないが、リリアが言うのならそういうことだろう。

 考えるよりも、受け入れたほうが早いこともある。


「さて。じゃあ、夕飯へ行こうか。みんな好きなものを食べるといいよ。ご馳走する」

「いいんですか?」

「ああ、もちろんさ。シェリーナのお疲れ会と、リリアへのお礼と、タルドの歓迎会だ」

「わー! 嬉しいです!」


 素直に喜ぶシェリーナ。

 その隣で、リリアも手を叩いて喜んでくれていた。


「やったー! でも、パフェはまた別だよ?」

「もちろんさ。フルーツ堂はもう閉まってるからね」

「よく知ってるね。もしかして、課長もスイーツ好きなの?」

「実は……大好きなんだよ。ははは」

「そうなの! じゃあ美味しいお店をたくさん教えてあげるね!」

「本当かい? 嬉しいよ。ありがとう」


 リリアが満面の笑みを浮かべている。

 共通の話題があってよかった。

 リリアとは仲良くなれそうだ。


 俺は全員を見渡す。


「みんな、食べたいものは?」

「私はお肉です」

「私も今日はお肉の気分かな」

「ニャー!」


 シェリーナとリリアが答えると、タルドも右手を挙げて何かを伝えようとしていた。 


「ん? タルドは意味を分かってるのかい?」

「うん。祝福したから、人の言葉は大体分かるようになったはずだよ」

「そりゃ凄いな。じゃあ、タルド。メイド課にようこそ」

「ニャー!」

「食べたいものは魚かな?」

「ニャー!」


 思いがけず、メイド課に新しい仲間が加わった。

 エリザベータさんに怒られなければいいが……。


 まあ怒られても、俺が責任を取るから問題ない。


「さ、行こうか」


 俺たちはメイド課を後にして、繁華街へ向かった。

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