第10話 猫を助けるために壁を壊した件9
「間に合ええええ!」
俺は身体を投げ出し、シェリーナとジュドーの間に割り込んだ。
そして、死を覚悟しながらも、ハンマーを振るシェリーナの両腕を掴む。
「ぐうううう!」
超高温となったシェリーナの手を掴んだことで、俺の手のひらからは煙が出る。
それでも、俺は手を離さない。
ここで止めなければ、シェリーナを守れない。
部下を守るのが上司の仕事だ。
「シェリーナ! 目を覚ませ!」
シェリーナは無表情だ。
意識があるのかも分からない。
「シェリーナ!」
「え? 課長?」
シェリーナが声を出すと、いつもの優しく穏やかな表情に戻っていた。
その細い腕から、魔力も消えている。
「ふう、シェリーナ」
「は、はい」
「双鎚を引いてくれるかな?」
「あ! す、すみません!」
ようやくシェリーナの腕から手を離すことができた。
両手の掌を見ると、皮が剥けて煙が出ている。
「掌が焦げちゃったよ。いつつ。これ、治るかな」
「課長! 申し訳ございません!」
勢いよく頭を下げるシェリーナ。
いつものように、ポニーテールが宙を舞う。
「大丈夫だから。ほら、頭を上げて」
俺は痛みを我慢しながら、シェリーナの肩にそっと手を置いた。
「うう、いつもいつもすみません」
「何を謝ってるんだ? 謝ることなんて何もないさ」
瞳に涙を浮かべているシェリーナ。
安心するように伝え、俺は部屋を見渡した。
「なるほどね。この死臭は猫か。ここで猫を惨殺していたというわけか」
状況から事情を察した。
俺の背後では、ジュドーが気を失い倒れている。
首筋に指を当てると、脈はあった。
「生きてるか。よかった」
左手首は消滅しているものの、血は流れていない。
瞬間的に傷口を焼いたようだ。
ジュドーの髪は半分近く抜け落ち、白髪に変色している。
そして、失禁どころでは済まないほど、体中から様々なものが流れ出ていた。
余程の恐怖だったのだろう。
だが、ジュドーが猫に与えた恐怖はそれ以上だ。
「さて、後は俺に任せて、君はメイド課に戻るんだ」
「で、でも……」
「大丈夫だよ。後始末は上司の仕事だ」
「わ、分かりました」
小さくお辞儀をしたシェリーナを見て、普段と違うことに気づいてしまった。
「シェリーナ! ちょ、ちょっと!」
「え? なんですか?」
「あの……、胸元が……」
「あ! み、見ないでください!」
「見てない! 見てない! 見てないからちゃんと隠して帰ってよ!」
「もちろんです」
顔を赤らめ、胸元を押さえながら階段へ向かったシェリーナ。
階段の前で立ち止まり、こちらを振り返る。
「あの、オリハルトさん。ありがとうございました!」
シェリーナがもう一度、元気よく頭を下げた。
胸元が見えるからやめてほしいのだが……。
「うん。早く行きなさい」
「はい!」
階段を登る軽快な足音が、徐々に小さくなっていく。
「さて、やるか」
俺は後処理を進めた。




