強訴VS焼き討ち ファイ!
「いや、しませんよ」
「残念ですね」
第一等の応接室に主教猊下をお迎えして、まずは軽いご挨拶である。
こちらは局長、上司、私の面子。
普通はこんな面子でお迎えなど失礼と言うか、王城で然るべき身分の方とご挨拶となる所であるが。
あちらは第二王子殿下に近いため、勘付かれてはクソまずいため、どうやっても避けねばならない。
それを察してか、主教猊下も何も言わず、応対して下さっている。
「政務局長、久しぶりだねぇ」
「は、は、主教猊下に於いては御変わりなく、大変喜ばしい事かと存じます」
主教猊下の言に、緊張した面持ちで答えている。
「喜ばしいかどうかは迷う所なんだがね、こんな通達が来てしまっては」
と手紙を机の上に押し出して来た。
確認しても? と目をやると、頷かれたので中を読んでいく。
ばっちり第二王子殿下名義で出されている。
定型的な挨拶の後に、私達が見た草案がそのまま記載されていた。
後ろにも挨拶文が載っているが、省略していいだろう。
「これはどういう事なんだろうね」
「は、はい、これにつきましては……」
「第二王子殿下の暴走です」
「グレイスくん!」
「失礼しました、暴走ではなく先走りです」
「何も変わってない!」
「局長、こちらのごたごたは、あちらに取ってはどうでも良い事です。
今私達がすべきは、この誤解について主教猊下にご理解頂く事、私達の立ち位置を明確にする事です」
「それにしても言い方!」
「主教猊下とて背景はご理解頂いているからこそ、『私達で』の応対に応じて下さったのでしょう。
でなければ、僧兵連れて仲良く王城に殴り込みに行かれている筈ですから」
「何でそんな過激な事を平然と言えるのかなぁ!?」
それくらいの事をやってしまっているのだから、仕方ない。
どちらであっても、お互いの勢力圏に土足で踏み入るような真似をすれば、ただでは済まない。
後はもう命のやり取りしか残らんのだ、という状況も過去よく起きている。
ドノヴァン州のような事態を、教会も引き起こしても不思議ではない。
国家権力と宗教、政教の(勢力圏の)分離は基本原理なのだ。
と言っても宗教が国をまたいでいる(と言うか世界規模で活動している)ため、各国の法で取り締まるには不都合が発生して、現在そう落ち着いているのだが。
強訴じゃあ! と朝廷が取り囲まれようと。
焼き討ちじゃあ! と寺を焼かれても不思議ではないのである。
「ははは、確かにこんな城、燃やしちゃっても良いかなと思ったのも事実だけどねぇ」
「主教猊下!?」
「何、思うだけだよ、思うだけ、実行までは流石にしないかな、滅多に。
如何に教会の権威を蔑ろにされようと、まだ実行はされてはいないのだから、可愛い犬の遠吠えみたいなものさ」
言外に、やったらどうなるか分かってるんだろうな、と言っているのである。
そうなれば、私達の言える事はこれだけだ。
「政務局は、教会に対しては、本法案の適用がされない事をお約束します」
「そうかい、安心したよ」
「グレイスくん、勝手に何を」
「局長、教会はやられたらやり返す事を躊躇いません。
国が滅ぶか、そうでなくとも維持出来ない状態になりますよ」
こう言わなくては、そしてそうなるようにしなくては、国内外の教会が敵に回る。
そうなれば、教会に味方する国も出て来るだろう。
第二王子や議会に、気を使っている暇はない。
「だけど、議会が簡単に頷くとは限らないでしょ、都合が悪くなればこちらに色々となすりつけて来るんじゃ」
「それはそうでしょうね」
「なら」
勝手に約束したのは政務局だ、しかも我々の知らない所で、と。
議会を敵に回すのは得策ではないかも知れない、が。
「局長、教会を敵に回しますか」
「え、そうなのかい政務局長」
「め滅相もない、そんな畏れ多い事は!」
「ですよね、だから後は、議会を敵に回すか、議会に承認させるかです。
さて、この中で最も簡単なのは何でしょうか」
「はぁ……頷かせるしかない、って事だね」
「はい、後は議会を解散させるって手も有りますよ」
「それは私達の出来る事じゃないでしょ」
「そうでもないですが、そうしておきましょう」
「怖いなぁ」
通常の手段では確かに出来ないが、そうする手段は幾らでもある。
何せ目の前には、それが出来そうな伝手が御座すのだから。
だが、これに関しては余り心配しなくて良いだろう。
ここに来る前に話した内容を察した先輩方が、そうならないよう、関係各所を走り回っている筈だから。
そうなれば、私は先輩方の捏ねた餅を、主教猊下に差し出すだけ。
「さて、安心したし、それじゃそろそろお暇させて貰うよ」
「た、大したお構いも出来ず、申し訳ありません」
「いやいや、中々面白い、いや興味深い話を聞かせて貰ったんだ、楽しかったよ。
それじゃ、次に会うのを楽しみにしているよ」
楽しみにしている、を意訳すると、約束は守れよと言う事だ。
「はい、またお越し下さる事を、こちらも楽しみにしております」
それに対して、安心してお待ちくださいと返す。
こうして、主教猊下の件は、一旦落ち着いた。




