え?北町奉行と南町奉行を兼任?
で、できらぁ!(白目)
※エピソードタイトルは本文に関係ありません。
この世界に転生して、特に何事もなく大人になった。
転生者仲間の知り合いも幾人か出来たが、それも特に劇的な事はなく。
前世知識のある分、ほんの少しだけ有利さを得て、ほんの少しだけ頑張って職を得た。
私は今、王城に勤めている。
初めまして、こんにちは、ごきげんよう。
挨拶は何でも良いか。
私はグレイス・アルコット。
前世の名前? 何をしてたか? どんな人生だったか?
そう言うのは、情報として、何の意味もないから省く。
やれ不幸だった、やれ徳を積んでた、そういうの読んで面白いか? 私的には面白くない。
前世は省略されました。
これでOKだし、読者にも何の影響もないと思う。
私の職場は、主に行政に関わる、文官みたいな感じの事をやる政務局だ。
みたいとか言い方がふわふわしているが、大体厳密に仕分けされてるわけでもないので、そんな感じ。
たまに法律にも関わるし、商業にも土木にも農業にも関わる。
何でも屋ではあるが、一応は行政部門という看板で建前が出来ている。
行政に関する事なら何でもやる、それだけの事だ。
そうして、今日もその行政絡み(?)で、頭の痛い案件が舞い込んで来たのだった。
「はーい、注目!」
私達の上司が手を叩き、注目を集める。
ほぼ全員が半ば嫌そうな顔で、そちらを見る。
こう言う時は、碌な事がないと経験で皆分かっている。
「第二王子殿下が、また例の如く法案を提出してな」
「またですか」
「でも第二王子殿下の法案なら、いつも通り却下されるし良いんじゃないですか?」
「それがな、今回は通ってしまったんだ、まだ草案だがな」
「はぁ!?」
周囲がざわつく。
第二王子殿下は、博学で大変政治にも意欲的に取り組んでいらっしゃる。
それは間違いない。
ただ、先進的、先取主義、勇猛果敢と言うか、とにかく良いと思ったら独断専行に走りやすい。
それなりに学もあるので、ぱっと見良い感じに見えるし、聞こえもする。
周囲を納得させるだけの弁舌と、知識も持っておられる。
ただ、その影響やデメリットを多少軽んじる傾向が、強く見られると言うだけだ。
そんな殿下が、ゴーイングマイウェイってな具合に、推し進めて来た結果どうなったか。
それが今の皆の反応である。
ああ、宜なるかな、宜なるかな。
「それで、今回はどんな爆弾、じゃなく法案ですか?」
「うむ、土地や物の継承に関する一定額の課税法と言ってな。
簡易的な名称は相続税と呼ぶらしい」
「聞こえはまともですね」
「聞こえはな。
まぁ何だ、それに税収目当ての貴族や富裕層が、理解を示されてな。
慎重派は難色を示したが、即反論出来る材料もなく、殿下の速攻果断で通されてしまった」
そして、まだ草案段階ではあるが、と配られた法案の書かれた紙を読み進めて行くうちに、思わず声が出た。
「馬鹿なんですか」
「ん、どうした」
「……いえ、失礼しました」
「グレイス、この法律に関する問題点が予想出来るのか?」
上司に尋ねられ、答える。
「大まかに予想出来る結果を言えば、富や人、更には土地の、国外への流出が起きると思います」
「ふむ?」
「まず継承時の課税は、身近な例では、親が子に何かを譲る時などに発生します。
そして、それは生前継承だけではなく、死後継承もあります」
「そう言う事か」
理解したようだ。
生前の継承のみ、あるいは定期的など決められた範囲の課税であれば、百歩譲って納得される可能性も有る。
しかし、死に際しても課税するとなるとどうだろう。
死後に継承する場合、大抵は親の死に悲しんでいる最中だろう。
そんな所に、『死んだな、金を払え』と言っているのと同じなのだ。
(悲しんでいるかどうかについては、例外もあるだろうが)
死は丁重に扱われるべきもの、と言うのはこの世界でも一般的な認識だ。
なので、死んだ人の遺産を国が掠め取るのだと、思われてしまう。
これまでそんな事はなかったのにだ。
これは相当に外聞が悪い。
そして、それについて、合理的な説明も、斟酌もされていない。
継承時は速やかに支払うように、としかなっていない。
死者に配慮が全くない。
ただ無情に税を払えと言わんばかりの内容に、反発しないわけがない。
「それに死後だけでなく、頻繁に継承が行われる場合も、相当な負担になります。
商業でも、事例が幾つかあった筈です」
「そうだな、普通の継承に気を取られていたが、例外的なものは幾らでも存在する」
主眼は貴族の継承に関して、税を取る事だが、この法案の対象は貴族だけではない。
誰一人洩らす事なく、遍く法の下に平等に課税しようとしている。
流石殿下だ、よく考えていらっしゃる(勿論皮肉である)。
そしてこれが齎す影響を、全く考えていない。
「これについては、急ぎ連絡した方が良いだろうな」
「ああ、俺ちょっと行って来る」
周囲が騒がしく、何人かが駆け出して行った。
いや、多分手遅れだとは思うが。
あの英邁な第二王子殿下の事である。
法案が通った時点で、ひっくり返される事のないよう、関係各所には喧伝・通達済みだと思うのだ。
貴族だけではない、国内全ての主な勢力に。
まだ草案が通っただけなのに、そんな事をなさるとは流石殿下。
なお、その後は、国のお偉いさんが顔を突き合わせてあーだこーだと中身を検証するのが普通である。
そしてそんな予想を裏切らないかのように、凶報が飛び込んで来た。
「大変です! 国境のドノヴァン州が、王国とは縁を切り、皇国に所属するとの通知が!」
「ああ、遅かったですね」
ドノヴァン州の主家貴族ドノヴァン家は、確か当主が高齢でいつお亡くなりになるか分からない状態だった筈。
それを王家が知らない筈が無い。
そんな所に、無遠慮にこんなものを送り付ければ、お前んとこもうすぐ死ぬんだろ?
丁度良いから死んだら金払えよ、よろしくな。
と狙い撃ちで言っているようなものである。
ご家族のお怒りは、如何ばかりか。
そしてこれは国内法。
国が変われば、従う必要もない。
こんな不義理を働く国に、忠誠を尽くす必要もない。
これに関しては仕方ないので、次の懸念を挙げる。
「あ、後ですね」
「お前な、この空気で、よく平然と……」
「必要な事なので」
「……まぁ良い、それで他には?」
「更には、対象に例外がない事。
これは宗教、聖職者などに関しても、同様に扱うように見えてしまいます」
「そ、それは拙い! 貴族や平民を主眼に見ていたが、勘違いされかねない!」
「いえ、勘違いじゃないですね」
「急ぎ連絡と対策を!」
しようとした所に、予想したかのように次の凶報が届く。
「きょ、教会の主教猊下がご訪問されました! 新たな法案に関して諮問したいとの事!」
「あー、こっちもか」
「良いか、主教猊下が来られた事は、絶対に第二王子殿下に気取られるな!
それから急ぎ、草案の修正を指示しろ!
主教猊下は俺達で応対する、行くぞグレイス」
「え、私もですか?」
「当たり前だ、この法案の隅まで理解しているのは、お前のようだからな」
「はぁ、了解です」
兼任とか殺す気か(本音)




