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異世界彼女の手作り『弁当』が想像と違った件

小鳥のさえずりとともに草太は起床した。

職を失ったレベッカは昨日の夜から草太と同じくナンシーの家での居候を始めた。

そのため、今はレベッカとは同じナンシー宅の屋根の下、別々の部屋を借りている。

(……ちょっと今日は早く目が覚めすぎたな。まだナンシーさんも起きてないだろうな)

水が飲みたくなった草太は一階のリビングルームに入る。

ナンシーの家ではリビングとキッチンが一緒になったいわゆるLDK構造だ。

リビングの扉を開けると、そこにはエプロン姿のレベッカがいた。

初めて見るエプロン姿のレベッカに思わず草太は緊張した。

「やぁレベッカ。おはよう。」

「おはよう、ソウタ。……似合う?」

レベッカはエプロンの端をつまんでみせた。

「うん。可愛いよ。レベッカ」

「ありがとう、草太。でもあまりに自然で、他の女にも言ってそうね」

草太とレベッカは、昨晩お互いの気持ちを確かめ合い、恋人同士になっていた。

「そんなことないよ。俺にはレベッカだけだよ」

「もう。上手いんだから」

草太とレベッカの目と目が向き合う。

レベッカの手が草太の手を握る。

「ソウタ……」

だが、その時――

ガラッとリビングの扉が開き、ナンシーが新聞を片手に入ってきた。

「「お、おはようございます」」

2人はサッと手を引っ込めた。

「あら、おはよう。2人とも若いのに朝が早いのね」

レベッカはぎこちない動作で「い、今からコーヒーと朝食を用意しますね」と台所に向き合った。


レベッカは3人分のコーヒーとパンを用意した。

パンにはナッツバターをたっぷりとつける。

相変わらずこの世界のパンは、パサパサとして美味しくない。日本人の草太には米が恋しい。 

しかし草太はレベッカが用意したパンは特別な味を感じた。


朝食を食べ終えた草太は自室に戻り、安物のジャケットを羽織る。

『ヨンソン司法書士事務所』へ出勤する準備だ。

草太の手取りは150,000ルカ。だがその金額にACシルク設立のために天引きされる登記諸費用は含まれていない。

最低3か月働いたら、法人登記に向けて各種手続きを行ってもらう約束だ。

その間に草太は司法書士助手として働きながら村の人達とコネクションを作る必要がある。


出勤の準備を終えリビングに戻るとナンシーさんは朝の散歩に出かけていた。

レベッカへ「行ってくるよ」と声をかける。

するとレベッカは茶色の紙袋を持ってきた。

「はい。私の手作り弁当よ。今日から外でお昼を食べたら駄目よ?お金ないんだから」

草太は母親以外の女性から手作り弁当をもらうことなんて20年の人生で初めてであり、気分が高揚した。

「ありがとう。うれしいよ」

玄関で靴を履く草太。

振り返るとレベッカが

「ん……」

といい、草太に向けて目を閉じた。

(異世界……というかアメリカあたりのドラマでありそうだな)

と思いつつキスをして、出勤した。


「おはようございます」

草太は『ヨンソン司法書士事務所』の扉を開け、ヨンソンに声をかけた。

ヨンソンは書類に万年筆を走らせながら「やあ、おはよう」と返事をした。

草太の仕事は事務所の掃除から始まる。

ホコリをはたき、床をモップで水拭きをし、最後にトイレ掃除を終えた。


そして、郵便受けから郵便物を取り出す。

クライアントや役所など、様々な差出人からの手紙や書類が届いている。

その中に奇妙な手紙を見つけた。

切手が張られておらず、差出人の欄にはレベッカとだけ書いてあった。


草太は「レベッカが?」と思いつつ、ヨンソンにその手紙を渡す。

ヨンソンは顎に手を当てながら(なんか怖いなぁ)と思いつつ、ペーパーナイフを取り出した。

「ヨンソンさん

いつもソウタがお世話になっております。

この度、私とソウタはお付き合いをすることになりました。

ひいては、週一でソウタを踊り子が踊っている酒場に連れて行っているそうですが、今後はそのような酒場には連れて行かないようにお願いします。

元ギルド受付嬢のコネで知っていますから。

レベッカより」


この手紙を読んだ瞬間、思わずヨンソンは立ち上がり草太に近づき肩に手を乗せた。


「ソウタ、その、何だ。1人の年長者として言っておくと、女性には注意したほうが良いよ」

「は、はぁ……。」


草太は何のことかわからず曖昧に返事をした。


午前中はシルク村役場に書類を受け取りに行ったりなど、クライアント業務は行わずに時間が過ぎた。

昼休憩になり、草太は茶色の紙袋を取り出した。

そんな草太にヨンソンが声をかけた。

「付き合ってるレベッカのお弁当かい?」

すると、草太は首をかしげ

「なんで付き合ってることご存じなんですか?」とたずねた。

「う。。いやぁ、勘だよ。

はは。今日は冴えているなぁ。

今までは近所の店でパスタが君のランチの定番だったろ?」

苦しい良いわけであったが、草太は

「そうですね。レベッカとは昨日から付き合っているんです」

とだけ言って、袋を開け始めた。


その『弁当』の内容に思わず草太は目を見開いた。


ハムとチーズを挟んだ質素なパンと、小さいリンゴ一個のみである。

(想像してたのと違う!)

袋の底には一通の手紙が入っていた。

『愛するソウタへ

私の手作りお弁当、味わって食べてね。

それから、ヨンソンさんに飲みに誘われても断って、まっすぐナンシーさんの家に帰るのよ。

レベッカより』

(え……?これが『手作り』弁当なの??)

するとヨンソンが近づいてきた。

「彼女の手作り弁当?良いねぇ。僕なんか、ほら、愛妻弁当はこれだよ?」と、小さなリンゴ2つを袋から取り出した。

今までランチは草太とヨンソンは、別々に昼食を食べていたから気づかなかったが、この異世界の基準ではパンにハムとチーズを挟んだだけでも立派な『手作り』弁当なのだ。


夕方になり、ヨンソンさんは事務所の鍵を閉めた。

いつもなら、酒場に誘ってくれたのだが、「妻が早く帰ってこいと言ってね……」と含みを持たした言葉とともに酒場には連れて行かなかった。


ナンシーの家に帰宅したソウタが玄関の扉を開けるとすぐにレベッカがやってきた。

「ソウタ、おかえり!」

「うん、ただいま」

すると、朝のようにレベッカは瞳を閉じて顔を草太に向けた。

草太はレベッカにキスをしてから、家に上がったのであった。

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