ヤギから始まったクラブ運営
「メエ〜、メエ〜」
草太はナンシーさんの従姉妹から『借りた』ヤギを3頭食べていた。
明るい日差しの中で何とものどかだ。
ギルド受付嬢仕事を休んだレベッカは俺の隣で腕を組みながらこの光景を見ている。
「確かにこの校庭一面に広がった雑草を人の手で刈り取るのはお金がかかるわよ?でも、ヤギ3頭に食べさせるなんて、時間どのくらいかかるのよ?」
レベッカは真っ当な質問をしてきた。
「いや、正直わからないよ。ヤギに草を食べさせるなんて経験無いし。でも多分3頭じゃ追いつかないよね」
「な……!呆れたわ。」
「今はそれでいいんだよ。とりあえず具体的に何かを始めたことが大切だと思ってる。」
レベッカははぁぁ、とため息をついた。
「とりあえず、村役場に行きましょうか。村長のソフィアさんから個人的な許可は貰ってるけど、役場と正式な貸与契約を結ぶ必要があるわ」
そう、今レベッカがギルド受付嬢の仕事を休んでまで来てくれたのはヤギを見るためではない。
村役場での手続きを進めるためだ。
俺達はさっそく村役場へと向かった。
村役場は小学校とは違い、石造りの立派な建物だった。
ただ、役場に訪れている人は年配の人しかいない。
しかし俺はとある不思議なことに、今更ながら疑問を抱いた。
役場のプレートにはこのように書かれている。
【シルク村村役場】
(何で俺はこの国の言葉が読めているんだ?
そう言えば、なんで俺はレベッカ達この世界の人と会話ができるんだ?)
俺はレベッカに日本語を意識して声をかけた。
『レベッカ、担当部署はどこだろう?』
するとレベッカは怪訝な顔をした。
「何奇声をあげてるのよ。あと、私の名前も発音が変なんだけど?」
俺は今度は日本語を意識せずにレベッカへ話しかける。
「レベッカ、担当部署はどこだろう?
……これは通じた?」
「……へ?死にかけた時の後遺症なの?
担当部署は村おこし室とソフィアさんから聞いてるけど、恥ずかしいから変な言動を起こさないでね」
そうして俺達は階段で3階まで登り小さな部屋の扉の前に立った。
プレートにはこのように書かれている。
【シルク村地域経済振興対策課村経済復興室(村おこし室)】
扉をノックしレベッカと一緒に入ると、その部屋には初老と思われる男性が一人で机に突っ伏して居眠りをしていた。
草太はその男性に声をかけた。
「あの、すみません。」
男性からは返事の代わりにいびきが聞こえてきた。
俺はもう少し大きな声で男性に声をかけた。
「あの!すみません!村長さんからの紹介で伺ったのですが!」
すると廊下から一人の30代くらいの女性が走ってきた。
「すみませーん。普段この部屋に来訪なんかないから嘱託職員に任せきりなんです。オーウェンさん、起きてくださいね」
オーウェンさんと声をかけられた初老の男性は寝ぼけながらその女性に声をかけた。
「お?お客さんかのぉ。よっこらしょ。お茶でも用意してくるかの……」
草太はこの塩対応に衝撃を受けた。
(こんな対応、品川区役所ではありえないぞ……。大丈夫なのか?)
そうして草太とレベッカはオーウェンが戻ってくるまでの間、椅子に座って女性職員と向き合うだけであった。