雑草だらけの校庭ととろけたチーズ
(な……これが小学校……だって?)
俺はゴクリ、と唾を飲み込んだ。
昨日の酒場での会議の翌日の昼、ナムとラルフに小学校跡地に連れてきてもらっていた。
まずは校舎について。
粗末な木製2階建ての校舎であった。
まるで明治時代のような木製の校舎は、悠然と草太の前にそびえ立つ。
みたところ、ガラスは1枚も割れていなさそうだ。
外から教室を見渡せば当時の机や児童が書いたと思われる水彩画が飾られたままであった。
まだ小学校校舎は掃除さえすれば使えそうだった。
だが問題は――グラウンドだ。
至る所に草太の腰ほどの高さがある草が一面中に広がっている。
この異世界にもブランコはあるらしいが、そのブランコはサビがひどく今にも鉄鎖は崩れ落ちそうだ。
ラルフは辺りをキョロキョロ見渡した。
「うん。廃校して2年とはいえ、我が母校の姿は泣けてきたわ。」
ナムはブランコを指さした。
「あのブランコ、低学年くらいの頃にお前と場所取りでケンカしたことあるな。」
「あぁ、あったあった。確かお前、当時の初恋の女の子に譲ってやりたかったんだよな。誰だっけかな?」
「ラルフ、よく覚えてるな。サンドラだ。でもサンドラも19の頃に都会の男と結婚してもうシルク村には居ないがな。」
2人は子どもの頃の思い出話に花を咲かせ始めたようだ。
草太は2人の年齢知らなかった。
「ところで、二人とも今いくつなの?」
「あぁ、俺もラルフも23歳だ。」
それを聞いた瞬間、(若い!)と思った。
普段の落ち着き具合から20代後半かと思っていた。
やはり学生の自分と漁師として働いている彼らとの違いだろうか。
「ところでナム、ラルフ。俺あんまりこのシルク村やアウロラ王国についてあんまり知らないんだけど、教えてくれないか?」
するとナムとラルフはこの村と国について大まかに教えてくれた。
―ラルフ村―
人口はだいたい3万人。
10年前は3.5万人だったことから、この村の過疎化は強烈に進行していると良いだろう。
主要産業は漁業とタオル生産。そして、あまりメジャーではないが山間部ではオレンジ農家もいるらしい。
あと、意外なことにこの村には水道が引かれている。
仕組みは機械仕掛けではなく、魔法でなんとかしているらしい。
―アウロラ王国―
人口はだいたい2000万人。
王国とは言っても、王様は政治をおこなわず、選挙に当選した政治家が政治をしているらしい。
ここは意外と日本と似ていて驚いた。
経済レベルはこの異世界の中で大体10位くらい。
そのため経済規模だけを見れば先進国と言ってもいい。
この説明をナムがした時、ラウルが話しかけた。
「ソウタ。やはりこの村にサッカークラブなんて作っても弱小チームしかできないんじゃないか?」
だが草太は否定した。
「俺の母国は1.2億人いるけど、そのなかで6万人規模の街のクラブが何度も国内タイトルを取って、それどころか世界2位になったクラブがあるんだ。決して夢物語じゃない。
一番大事なのは熱意だよ」
「まぁ、ソウタの熱意は否定しないが……」といい、ナムは草が生い茂るグラウンドを見つめた。
この異世界には草刈機や芝刈り機のたぐいはない。
そしてわずか3人で校庭一面に生えた草を刈るなんて不可能だ。
ここは一計を考えるしかない。
その日の晩、ナンシーさんが用意した食卓にはアサリとエビをふんだんに使ったパエリヤのような料理を用意してくれた。
そしてパエリヤにはとろけたチーズがかかっており、食欲を誘った。
「今日もありがとうございます」
「いいんだよ。ソウタがいるから息子や夫がいた時を思い出して漁師の楽しさを思い出してるんだ」
そう言うとナンシーさんは目をつぶり両手を合わせて神に祈りを捧げ始めた。
ナンシーさんの祈りは大体1分程かかる。
俺はなんとなくパエリアにかかっているチーズを眺めていた。
(チーズがあるということは、この世界にも酪農家がいるんだな。
この村に酪農家がいるのだろうか?それとも他の村や町で生産されたものだろうか……?
主要産業は漁業とタオル生産。ごく僅かにオレンジ農家と聞いているが……。)
祈り終えたナンシーさんに俺は尋ねた。
「ナンシーさん、このチーズはこの村で作られたものですか?」
「そうだよ。このチーズは私の従姉妹が趣味でヤギの乳から作ったものさ」
ヤギ……!
俺は思わず席を立ち、ナンシーさんにお願いをした。
「ナンシーさん!従姉妹の方を紹介してください!」
ナンシーさんは一瞬ポカンとしたようだった。
「ソウタ、私の従姉妹は今年で68歳だよ。この前うちに来た、レベッカちゃんにしておきなさい」
一瞬レベッカの笑顔が頭をよぎったが、俺はすぐにナンシーさんが言っていることの意味がわかった。
「あ、いえ、そういう意味じゃないです……。」
兎にも角にも、雑草対策がアイディアが浮かんだ俺はナンシーさんの従姉妹を紹介してもらえることになった。