サッカークラブを作る意義
俺はソフィアさんとレベッカの3人で酒場に赴いた。
ただ、俺は無職の身。金はない。
するとソフィアさんが「3人分払います。」とおっしゃっるので甘えることにした。
着いた酒場は先日ナムたちと来たばかりの店であった。
どうも地元では一番人気の店らしい。
中に入ると、さすがに昼よりは客が大勢入っている。
カウンターで接客をしているマスターが声をかけてきた。
「村長!お久しぶりです!」
え?村長?
俺はソフィアさんの顔を思わずみた。
「えぇ、話して無くてごめんなさい。私、シルク村の村長なの」
ここでレベッカが少しフォローした。
「ソフィアさんはもう40年も村長をしてるのよ。すごくない?」
40年?ソフィアさんはどう見ても俺より少し年上の女性にしか見えない。さすがエルフだ。
「そんなにすごくないわよ。代々世襲で私の家が村長をしているだけ。本当は兄が村長をするはずだったんだけど、ある日突然、『俺は旅人になる!』と言って村に帰ってこなくなったの。
今思えば、この村に束縛されるのが嫌だったんでしょうね」
少ししんみりしたところで、ビールとフライドポテトがやってきた。
ビールは相変わらず苦手だが、フライドポテトは揚げたてでホクホクしていてうまかった。
そんな俺を見てレベッカが話を切り出した。
「それでソウタ、アンタ明日からどうするわけ?私はギルド受付嬢としての仕事があるから手伝えるのは夕方くらいよ」
「そうだな。選手の確保も必要だけど、まずはクラブハウスとグラウンドの確保が先決だと思うんだ。」
レベッカは目をきょとんとした。
「グラウンドはわかるけど、クラブハウスって何よ?」
「練習拠点となる施設だよ。
選手の更衣室だったり、食堂やマッサージルーム、筋トレ施設に会議室や風呂施設を備えたりするんだ」
「へ?そんなのどうやって作るのよ?」
すでにレベッカはビールを2杯飲み干しており、ほのかに顔が赤くなっている。
「今のはプロが使うようなクラブハウスだよ。
でも、せめて更衣室くらいは欲しいよね。
でもそんな都合のいい場所があるのかどうか……」
その時、後ろから男の声が聞こえてきた。
振り向くとナムとラルフがいた。
「よお!ソウタ!村長さんと……彼女さんか?」
レベッカはビールで赤くなった顔をさらに赤くして、思わず立ち上がった。
「ち、ちがうわよ!私たちは仕事仲間よ!」
「仕事?ソウタ、仕事を見つけたのか?」
俺は事の経緯を包み隠さずナムとラルフに話した。
ナムとラルフは腕を組んで俺の話を聞き入った。
ナムは俺に質問をしてきた。
「なぁ、ソウタ。怒らないで聞いて欲しい。
オレもサッカーはやるのも観るのも好きだが、あれは玉蹴りの遊びだ。それがどうしてこの村の3つ目の産業になるんだ?」
鋭い質問だ。
「スポーツには人の心を動かす力がある。
まずはACシルクをこの村の『顔』にするんだ。
すると、人々は自然とグラウンドに集まってくる。そうすると何が起きると思う?
たとえばシルク村の特産品であるタオルを使った商品を取り扱えばそれが売れるようになる。
魚を使った料理―たとえば白身魚のフライ―を売ることができれば、漁師や料理人も儲かる。
さらに対戦チームのサポーター……まぁファンだよ。
この人たちがくれば村の宿屋も儲かるし、観光だってしてくれるはず。
そうすれば村の内外から経済が回るって寸法だよ。」
レベッカは思わず感心した。
「え!?あんた、そこまで考えてたの?
……何よ。ちょっとかっこいいじゃん。」
ナムはそんなレベッカを見て「俺より先に彼女さんが驚くのか……」と呟くと、レベッカは「だから、ちがうって!」とあわてて否定する。
俺は話を続けた。
「まずは練習場を見つける必要があるんだけどなぁ、俺は土地勘がないし、なんか当てあるかな?」
俺は2人に質問をしてみると、ラルフが案を出してくれた。
「なぁ、村長さん。俺とナムの母校の小学校なんだけど……おととし閉校になったまま手つかずだろ?あそこなら校庭も、そこそこ広いし校舎を更衣室の代わりにすれば金はかからないと思う。」
ソフィアはコクリ、と首を縦に振り
「あの校舎、解体するのもお金がかかるし、解体するにしてはまだまだ使える建物なのでどうしようと思っていたところです。使えるなら有効活用していただきたいですね。」
レベッカは指を鳴らし「決まりね!」とはしゃいだ。
そうして俺は翌日、さっそく廃校となった小学校跡地に行くことに決めた。