ACシルク、試練の公開説明会(前編)
ついにこの日がやってきた。
廃校となったガンサ小学校の指定管理者公募に応募したACシルクの公開説明会である。
シルク村議長・シモンから、競合となる法人は無いためこの説明会次第では与党として応募締め切りを前倒しで締め切るという発言を草太とレベッカは聞き出している。
草太は体育館2階にある更衣室を利用した控室から体育館の入り口を見下ろした。
単独の若い男性、子どもを連れた家族層、高齢者層など、さまざまな村人たちが次々と体育館に入っていく。
思わず草太は隣で同じく外を見下ろすレベッカに声をかける。
「レベッカ、これはすごいことになってきたぞ。椅子200脚で足りるのか?」
「そうね。なんだか緊張してきたわ。」
そんな二人を見てクラウディアは声をかけた。
「理事、副理事。だからこそ我々は今日に向け模擬練習をしてきました。あとは本番だけです。」
すると、コンコンと扉がノックされ、地域経済振興対策課のフレデリクが入ってきた。
「みなさん、時間です。1階に降りてください。」
この時、サブリナは用意された一番後方右隅の椅子に座っていた。
時間が経つにつれ村人が体育館に入ってきて、用意された椅子のだいたい8割が埋まった。
ガヤガヤと周りで世間話が聞こえてくる。
そして、フレデリクを先頭に草太、レベッカ、クラウディア、ナムの順番で体育館1階の壇上に向かい、席に座った。
この時、ナムの友人たちである若い男性グループは拍手を送り口笛を吹く。
ナムは思わず苦笑いをして手を振った。
だが、その後ろでサブリナは見逃さなかった。
年配者の男性の一部はその行為について苦々しい表情を浮かべて見ていることに。
登壇席の左側に、別の机が置かれている。
シルク村役場のサミーラとフレデリクの席だ。
草太たちより先に座っていたサミーラは、ACシルクのメンバーが登壇席へ、フレデリクが役場席に座ったタイミングでサミーラは立ち上がった。
サミーラは小声でフレデリクに声をかける。
「議事録頼みましたよ。」
そうしてサミーラは村人たちに告げた。
「本日はお集まりいただきありがとうございす。シルク村地域経済振興対策課村経済復興室、通称村おこし室の室長、サミーラです。隣にいますのは地域経済振興対策課のフレデリク主査です。」
そこで、サミーラは今回の指定管理者の概要を説明した。
そして、一通りの概要説明が終わったあと、サミーラは登壇者席を見て、告げた。
「では、ACシルクさんより説明をお願いいたします。」
ついにサミーラからバトンが渡された。
まずはレベッカが立ち上がった。
「皆様。今日は貴重なお時間をこの説明会に割いていただき誠にありがとうございます。司会進行を行いますACシルク副理事のレベッカと申します。」
村人の席からはパチパチとまばらな拍手が上がった。
「では、まず理事であるトゴウチ・ソウタから皆様へ弊クラブの理念を説明いたします。」
草太は立ち上がり、説明を開始した。
「皆様。初めまして。理事の戸河内草太です。
まず初めに、皆様には想像していただきたい近い未来のシルク村があります。」
草太は壇上をゆっくりと歩きながらゆっくりと話す。当然原稿など持ってはいない。
「シルク村は近年、少子高齢化の波にのまれています。20年前からこの傾向はあったとシルク村の人口推移資料からは分かってはいることではありますが、15年前から5年ほど発生した『妖怪カウカの厄災』により、若い男性の殉職によりこの傾向は拍車がかかりました。
もちろん、この厄災は村だけではなく、アウロラ王国全体の問題です。
ですが問題は、首都圏やほかの大都市圏に比べシルク村は少子高齢のスピードが顕著だということです。」
静まり返る体育館。
草太は壇上の真ん中で、スピーチを続ける。
「男性も女性も、若い方々は次々とシルク村を離れてしまっています。シルク村の公式な資料によりますと1学年のうち3割は確実にシルク村を出ていきます。ひどい年だと一昨年は6割の方々が20歳になる前に村を離れました。」
その時、とある年配の村人から野次が飛んだ。
「この、よそ者が!やかましい!!」
ざわつく体育館。しかし構わず草太は続ける。
「その原因の一端はどこにあるでしょう?これは村の皆様の責任ではありません。ですが、村の構造に問題があります。
この村の産業は漁業とタオル産業に大きく依存しています。先祖代々漁業の家に生まれた方は漁業へ、それ以外の男性は冒険者へと流れています。
また、女性の主な就職先はタオル製造工場です。
ここで事実確認ですが、冒険者の報酬は税金から賄われているため、産業とは呼べません。」
サミーラは冷や汗が出た。
村人たちが思っても口にしなかったことを草太は堂々とスピーチしてしまっている。
しかし草太はそのことについては認識の上だ。
「男性も女性も将来が限定されすぎています。このような状況では首都圏や他の大都市圏へ就職や結婚で出ていってしまうのは必然です。
ですから私は皆さんに提案をします!新しい産業を作りましょう!」
村人たちの私語はどんどん大きくなる。
そうして草太は席に座った。
すると次の瞬間、若い男性グループからは歓声がわき上がった。
「よく言ってくれた!」
「そうだ!この村には新しい産業が必要なんだ!」
「俺だって命を張る冒険者になりたくてなったわけじゃないんだ!良いぞ!」
サミーラは慌てて立ち上がり「不規則発言はお控えください」と言うが、若い男性たちの歓声は止まらない。
サブリナは先ほど野次を飛ばした年配男性の周辺を見渡した。
明らかに苦々しく思っている。
ある老人は声を上げたが、若者の声にかき消されてしまっている。
声量で負けているのだ。
続いてレベッカはクラウディアを紹介した。
「弊クラブ営業部長のクラウディアより、シルク村への経済的な貢献について説明申し上げます。」
クラウディアは立ち上がり、草太とは違いそのまま直立不動で説明を開始した。
「まず、これは少し遠い未来の話にはなりますが、ACシルクがアウロラ王国の最上位リーグであるリーグ・アウロラ1に昇格した場合の説明をいたします。」
クラウディアは、1部リーグの平均観客数とアウェイサポーターの来場予測を示す。
「このように、飲食業、宿泊業をはじめとした観光業、さらに交通事業の発展も見込まれます。また、既存のタオル産業の発展ももちろんのこと、新しいアパレル産業への横展開も十分に可能です。また、これらの産業の発展により税収も大きく伸びることが予測できます。シルク村の人口3万人に対し、ほかの都市圏から最大9万人の顧客が発生するわけです。
しかも単発イベントではありません。」
観客席からは「夢物語だ!9万人泊まれる宿屋なんかあるか!」というやじが飛ぶ。
クラウディアは涼しい顔をしたまま、スピーチを続ける。
「9万人というのは延べ人数です。だいたい一試合につき3000から4000人という想定です。私が調べたところ、シルク村と周辺の自治体の宿屋でさばき切れる現実的な人数です。これで私のスピーチは終わりと致します。」
それと同時に、年配層の一部からは「騙されるな!」という声が上がるのと、若い男性層からは歓声。
そして家族連れの、特に子どもたちは何が起きているのか分からないという表情。
これらをすべてサブリナは観察している。
(この説明会、質疑応答で荒れるかも……)
そして次にナムの順番になった。
レベッカが紹介を行う。
「弊クラブの初代監督となります、ナム監督です。」
ナムは立ち上がり、挨拶を始めた。
「皆様。ナムと申します。よろしくお願いします。
私の目の前の席には何人も見知った顔がおりますが、私はこの村で生まれて育った漁師です。
すでにACシルクにはこのクラブに入りたいと手を挙げてくれた志が高い若者が18人います。
熱い戦いをお見せしますので、ぜひとも応援の程よろしくお願いします。」
ナムの紹介は無難に終えた。これは事前打ち合わせのとおりだ。
だが、会場に来ていたナムの知人たちは拍手で彼を称える。
そして、レベッカは進行を続けた。
「では、ここからは質疑応答の時間といたします」
体育館の空気がひりつく。
サブリナの手のひらからは手汗が止まらない。
彼女はハンカチを握りしめ、事態を見守ることにした。




