ACシルク公開説明会ミーティング
ーナムの結婚式の翌々日である月曜日の午前10時ー
草太、レベッカ、サブリナの居候先兼ACシルク事務所のナンシー宅には監査役レヴィー以外のメンバーが食卓を囲んで集まっていた。
ACシルク理事・戸河内草太
ACシルク副理事・レベッカ
ACシルク営業部長・クラウディア
ACシルク営業・サブリナ
ACシルク初代監督・ナム
草太は話題を切り出す。
「さて、みんなでこうして集まってもらったのは他でもない、土曜日の昼3時から行われる村人に向けたプレゼン、つまり公開説明会についてだよ。
まず、みんなの役割を話すけど、司会はレベッカ。進行役を頼む。
次に僕がクラブ理念を説明して、クラウディアさんがクラブがもたらす村への利益を説明して欲しい。そしてナム、監督である君にはこのクラブに対する情熱を語って欲しい。」
そこでサブリナが草太にものすごい剣幕で尋ねる。
「ソウタさん!なぜ私には役割がないんですか?」
「サブリナ。君はまだ15歳で営業員としては超がつくほどの若手だ。そして午後は夜間高校にも通っている。半分はACシルクの営業員ではあるけど、半分は高校生だ。」
しかし、普段は草太に従順なサブリナにしては珍しく食い下がる。
「私はACシルクの創業メンバーです!土曜日だから高校だって休みです!村の人の前に立たせてください!」
わずかな沈黙の後、レベッカが口を挟んだ。
「サブリナ。今回の公開説明会では村人全員がACシルクに賛成しているわけではなくて、反対の立場の人も来る。
そんな人たちが説明席に座るソウタ達に何を言ってくるかわかる?
想像もつかない罵声が飛んでくる可能性だってなくはない、ということがわからない?」
「先輩!私にだって覚悟はあります!」
この言葉にレベッカは立ち上がりサブリナを見下ろし、強い言葉をサブリナに浴びせる。
「今日に限ってどうして、ソウタの気持ちが分からないの!?」
思わずサブリナも立ち上がり、目線をレベッカから外さずに、しかし目に涙を浮かべて答えた。
「分かりません!」
草太はサブリナに「聞いて欲しい…」と声をかけようとした瞬間、クラウディアが「よろしいでしょうか」と草太に話しかけた。
「理事。サブリナさんを守ろうとする気持ちは理解できます。
ですがそれでは、サブリナさんは納得しません。
彼女は、私がACシルクの一員になる前まではたった一人の営業だったんです。」
「それは分かってます。でも、だからと言ってサブリナを前に出すわけにはいきません。」
そこでクラウディアはサブリナに一瞬目をやり、再び目線を草太に向けた。
「私はサブリナさんの上司として提案があります。彼女には説明者席には座らせない。そこは同意です。しかし別の役割を与えたいです。それは二つ。
一つ目は、後方から村人の反応を観察して欲しいのです。どのような属性が反対し、あるいは賛成をするか。その特徴を感じ取って欲しいということです。」
草太は頷いた。
「なるほど。それなら、僕としても問題ありません。
クラウディアさん、二つ目を教えてください。」
「これはサブリナへの役割と言うよりかは、理事も含め私たち説明席に座る理事、私、監督への課題提起です。私たちの『責任者』としての姿をサブリナさんに教えることです。
私たちは『責任者』としての姿を見せるからサブリナさんはその姿から、何かを得る。
それが何かは彼女本人にしか分からないでしょう。ですが、それが彼女の二つ目の役割です。」
ここでさらにナムが口を挟んだ。
「ソウタ、サッカーではベテランがクラブに入ったばかりの若手に対し、苦しい時間帯に言葉ではなく背中を見せる場面がある。
それで若手は成長することだってある。
サブリナさんに役割を全く与えないのではなくて、クラウディアさんの言う通り後方から村人や俺たちを観察する役割を与えたら良いんじゃないか?
サブリナさん、これなら納得する?」
サブリナはわずかに首を縦に振って席に座った。
立ち上がっていたレベッカも同様に席に座る。
草太はクラウディアとナムに答えた。
「分かったよ。サブリナには後方から勉強する役割を与えるよ。」
続けて草太は会議を続けた。
「クラブが村にもたらす経済的利益については事前にクラウディアさんに考えてもらってたけど、クラウディアさん、進捗はどうでしょうか?」
「はい。その説明についてはこの資料にまとめました。」
クラウディアは資料を全員に配布した。
そこにはクラブが一部リーグに昇格した場合の税収予測やその他の波及効果について分析されていた。
「なるほど。結構未来のことではあるけども、リーグ・アウロラ1の平均観客数は16,000人弱。そのうちアウェイサポーターが3割ほどだったして、年19試合がホーム試合。やっぱり数字を見ると観光業とくに飲食や宿屋の恩恵が人口三万人のシルク村にとってはインパクトがありますね。」
レベッカもクラウディアの資料には思わず感心した。
「さすが、スノリマ商会で鍛えられた営業のプロですね。」
「買い被りすぎです。サブリナさんにも将来、この程度の資料作成や予測はできるようになってもらいます。」
サブリナは思わず苦笑いをした。
「え、えっと。まずは高校の勉強頑張ります!」
草太は微笑んで「そうだね。そのうちに僕が故郷の大学で学んでた経営学も教えるからね」というと、サブリナは笑うしかなかった。
そして次に草太はナムに話しかけた。
「ナム。選手集めを手伝ってもらえないだろうか?
監督の君にこんなことを頼むとはお門違いだとは理解している。でも今はとにかく人手も金もない状況なんだ。」
するとナムは若干ニヤリとして答えた。
「俺が監督に就任してからこのひと月の間、何もしていなかったわけじゃない。
本業の漁師の仕事の合間に、昔の草サッカー仲間やそのつてで近辺の村や街の指導者達と話して、ACシルクに興味を持っている選手をリストアップしてきたぞ。」
草太は思わず立ち上がった。
「すごいよ!ナム!いや、監督!」
「まぁ、18人はそろえたが、GKがリストアップできなかった。
だから、まだギリギリ試合はできないけどな。」
「いや、18人もの選手がいるだけで村の人たちへの説得力は段違いだよ。」
さらにはナムは話を続けた。
「それだけじゃないぞ。これを見てくれ。」
ナムは一枚の紙をカバンから取り出し、食卓の上に置いた。
紙を覗き込む一同。
「アウロラ王国サッカー協会3級指導者ライセンスだ。」
サブリナはナムに向けて素直に「ナムさん、凄いです!」と称賛した。
草太も「このひと月の間にここまでしてくれるだなんて、結婚式も控えてたのに大変だったろ?」と驚嘆の声を上げる。
「そこは、イーチェンも目を瞑ってくれてたからな。」
ーそうして時間は過ぎ、公開説明会の前日である金曜日となった。ー
シルク村村おこし室のサミーラから、会場の設営に人手が足らないとの理由で準備の応援を頼まれた草太はレベッカと共に会場である元ガンサ小学校体育館を訪れた。
体育館の前ではサミーラがホウキを持って掃除をしていた。
草太はサミーラに声をかけた。
「サミーラさん、明日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。なにぶん人手が足らなくて、もう掃除も私自身でする始末です。」
すると体育館から一人の若い男性が出てきた。
「こちらは、フレデリクです。私の直属の部下ではありませんが、地域経済振興対策課の一員として議事録を取ります。ソウタさん、フレデリクと一緒に椅子と机の準備をお願いします。村人用の椅子は全部で200脚ありますから覚悟してください。」
草太はその数に苦笑いしながら椅子を準備する。
(明日はこのうち、どれだけ埋まるかな。でも、クラウディアさんもナムもあれだけ準備してくれたんだ。俺がしっかりしないとな)
そうして、草太達は運命の公開説明会が行われる土曜日を迎えたのであった。




