新監督の結婚式と草太の驚愕
草太、レベッカとサブリナはACシルク初代監督に就任したナムの結婚式と披露宴に参加するため、村の中心部から外れたところにあるセルヴィ神殿を訪れた。
神殿の正門には立派な雌ライオンの紋様が描かれている。
このアウロラ王国のならわしでは、結婚式の男性ゲストは伝統衣装である深緑色のローブと決まっている。
草太はそのならわしに従い、ACシルクのスポンサー第一号である【仕立て屋ファランス】で仕立てた深緑色のローブを着ている。
それに対して女性ゲストは、花嫁と被る白色のドレスでなければ何でも良いという風習であるため、20歳であるレベッカは紺色を基調としたドレスを、15歳であるサブリナはピンクを基調としたフリルドレスを着用した。
サブリナは草太のローブ姿を見て、
「ソウタさん、もうすっかりアウロラのイケメンですね!似合ってます!」と褒めた。
美少女に褒められた草太は思わず顔がにやけ、「そうかなぁ?」と頭に手を当てた瞬間、ズン!と足に衝撃を受けた。
恋人であるレベッカが草太にわずかに目線を合わし、ヒールでグリグリと草太の靴を踏みつけている。
草太はコホン、と咳をし、「さぁ、そろそろ時間だ。」といい、指定された椅子に腰をかけた。
しばらくして、神官の男性がゲストたちの前に立ち、新郎新婦が入場しますと声をかけ、ゲストへ起立を促す。
そうして、神官が讃美歌を歌い出しゲストもそれに倣い讃美歌を歌い始める。
生粋のアウロラ人であるレベッカとサブリナは讃美歌を当然のように歌っているが、日本から異世界であるアウロラ王国に転生した草太はアウロラ王国の宗教を理解していないので口パクでやり過ごす。
そうしてすぐに新郎新婦が入場した。
ナムは漁師らしく真っ黒に日焼けした体に純白のローブを着ており、やや緊張している様子である。
花嫁は純白のドレスにウェディングベールを身につけている。
そうして新郎新婦がゲストの前に立つと神官が声をかけ、二人は向き合う。
神官はゲストに向けこのように告げた。
「これから、この神聖なるセルヴィ神殿にて、新郎ナムと新婦リー・イーチェンの結婚の儀を執り行います。」
その時、草太はわずかに違和感を覚えた。
(今まで会ってきたシルク村の人たちの名前の中で、ナムの奥さんの名前、何か違和感を感じるぞ)
しかし、そんなことを考えている草太を尻目に式は粛々と進み、新郎新婦の退場をもって終わった。
式が終わり草太はレベッカに話しかけた。
「ナムの奥さんの名前、アウロラ王国の名前っぽくなかったね。」
「う〜ん。言われればそうね。ちょっと長い名前だったわね」
あまりレベッカは気に留めてないようだ。
つづいて草太は男性ゲスト用着替え室でローブからスーツに着替えた。
ネクタイはこれまた仕立て屋ファランスの跡取りジョージが仕立てた、ACシルクのメインクラブカラーである青を主体にサブカラーであるピンクをドット柄でデザインされている。
その姿を見たサブリナは「ソウタさん!スーツ姿も素敵です!」と褒めてきたので一瞬にやけかけたが、わずかにレベッカの足が上がり今にも草太の靴を踏みそうだったので、「さ、今からはACシルクのアピールだ。参加者に僕たちを知ってもらおう。」と慌てて声を出した。
草太は手当たり次第に男性ゲストに声をかけた。
とある男性ゲストは
「へぇ!このシルク村にサッカークラブを?面白そうだね!あぁ、おととし廃校になったガンサ小学校を拠点に?」と興味を持ってくれた。
草太は「はい。来週の土曜日に体育館で公開説明会を行うのでお越しになってください。」と来場アピールも忘れない。
次に子連れの夫婦に話しかけた。
「パパ、ママ、僕見に行きたい!」
7歳くらいの男の子は目を輝かせながら母親の手を掴む。
若い男性や子どもからの評判は上々だ。
レベッカとサブリナも女性ゲスト達に話しかける。
しかし若い女性ゲストの反応はあまり芳しくない。
「サッカー?私あまりサッカー知らなくて……」
「ねぇ?男の人は好きなんだろうけど」
レベッカは(クラウディアさんとサブリナと、若い女性向けの営業戦略を考えないといけないわね)と今後の課題を見つけることができた。
そうこうしているうちに、お色直しをしたナムと花嫁が会場に入ってきた。
拍手が起こる会場。
もちろん草太達もACシルクのアピールを中断し拍手で迎える。
草太、レベッカ、サブリナの3人に用意されたテーブルに着席する。
ナムと花嫁は各テーブル中央に置かれたロウソク一本一本に火をつけていく。
そうしてナムと花嫁は草太たちが座るテーブルにやってきた。
「ナム、おめでとう」と草太は声をかけ、レベッカも「綺麗な奥様ね」と声をかける。
ナムは気恥ずかしそうに花嫁に紹介した。
「ありがとう。イーチェン、こちらトゴウチソウタさんで、俺が監督をするサッカークラブのオーナーだ。名前を呼ぶ時はソウタでいいらしい。
君と一緒だね。
隣にいるのは副理事でソウタの彼女のレベッカさん。
その奥にいるのは営業のサブリナさんだ。」
すると花嫁は一瞬ではあるが、眉間に皺を寄せた。
「トゴウチ・ソウタ……さん……?」
しかしすぐに花嫁は朗らかな笑顔になり、「みなさま、夫をよろしくお願いします。これからはイーチェンとお呼びください」と返事をした。
ナムとイーチェンが席を離れたことを確認し、レベッカが草太に小声で話しかけた。
「神官はリーイーチェンと言ってたわ。ナムがソウタと一緒って言ってたけど、どういうことかしら?」
「多分、名前が姓と名に分かれてる……ということじゃないかな?アウロラ王国では王様以外は普通、姓は無いんだよね?」
「なるほど、そういう事ね。」
レベッカはそれ以上は気にすることはなかった。
草太は引っかかりを覚えていたが、結婚式そのものは滞りなく終わった。
ゲストが会場を退席する際、ナムとイーチェンは1人ずつ挨拶をしてプレゼントを渡していた。
そうして草太たちの番になり、ナムが草太に声をかける。
「ソウタ、明日からよろしくな。」
「うん。こちらこそ。よろしく。」
そうして会場を出ようとした瞬間、イーチェンは草太に声をかけた。
「Thank you for coming to our wedding.
My name is Li Yichen. I’m from Taiwan.
What about you? Where are you from?」
思わず草太は固まり、イーチェンの顔を凝視した。
(なぜこの人は、異世界のアウロラ王国で『英語』で話しかけたんだ?この異世界では存在しない『英語』で話しかけられるだなんてあり得ない!しかも、台湾?)
ナムはイーチェンに「イーチェン、君は今、ソウタに何を言ったんだ?」と聞く。
「I'm from Japan,and……」
と草太が言ったところで、会場の人に「次が控えているから」とうながされ、会場を出された。
帰り道、レベッカは草太に尋ねた。
「ソウタ、イーチェンとの訳が分からないやり取り、私には何を話しているのか全く分からなかったのだけど、何だったの?」
「ナムの奥さん、もしかしたら俺と同じ……いや、今は来週の公開プレゼンテーションが大事だ。これ以上詮索するのは今はやめておこう」
そうして草太、レベッカ、サブリナの3人は居候先兼ACシルク事務所のナンシー宅へ帰宅したのであった。




