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外堀を埋められつつある件

シルク村村おこし室室長サミーラとの面会の翌々日水曜日の昼、レベッカは一人でシルク村役場を訪れた。

それはギルド受付嬢時代から個人的な親交があるソフィア村長と会うためだ。


村おこし室は3階にあるが、村長室は4階にある。

レベッカは(この村は少子高齢の片田舎なのに役場は立派なんだから!)と愚痴を思いつつ階段を上り、秘書室に入りまずは村長と面談をするための手続きを行った。

昨日のうちに秘書室に面談の申し入れを行っていたため、手続きはスムーズに進みすぐに秘書室の奥にある村長室に案内された。


レベッカがコンコンとドアをノックすると、「どうぞ」というソフィアの声がしたのでレベッカは扉を開けた。


そこには見た目はレベッカよりほんの少し年上くらい、しかし40年も村長をしているとんがった耳をしたエルフ族のソフィアが出迎えた。

「レベッカ。最近、あなたと一緒に酒場でソウタさんにサッカークラブの設立をお願いした時以来ね。」

「それ、5か月前も前のことなんですけど?最近とは言わないわ。」

「エルフ族からしたら5か月前なんて最近のことよ。あなたたち人間とは違って。」


来客用のソファーに座ったレベッカはサミーラとの面会の結果を話した。

・一般社団法人ACシルクは設立した。

・ソフィアから無料で小学校跡地をACシルクへ貸し出す指示は確かに村おこし室としては認識している。

・しかしそれは他法人に不公平という理由で即座に貸してもらえない。

・条件として、小学校跡地の指定管理者公募に応募し他法人に打ち勝つしかない


その話を聞き、ソフィアは眉を細めた。

「はい。実はそのことは私へも昨日のうちに報告が上がっています。あまり強権的に村おこし室を抑えることは村長としてはしたくないというのが本音です。独裁になってしまいますからね。」

「でも、このままだとACシルクはサッカークラブとして活動をする前に潰れてしまうわ。ろくに営業活動もできない。」

「そうですね。村長の立場としては一刻も早くプロサッカークラブとしての活動実績を積んでほしいところですけど、正規の手続きを経ないと将来問題になりますね。う~ん。」

ソフィアは人差し指を顎に添えて考えた。

「レベッカさん、村の議員さんとつながりはありますか?」

「はい。アルバート議員にも相談をしようかと思っていました。ギルド受付嬢時代のコネで。」

「アルバートさんでは弱いですね。与党議員ではありますけど、彼はまだ冒険者から政治家に転身したての30代若手の新人議員なので。」

思わず、レベッカは頭を抱え込んだ。

おととい、草太にコネを使うといった政治家がアルバートなのだ。

そんなレベッカにソフィアは一つの提案をした。

「こうしましょう。土曜日、与党のベテラン議員で議長のシモン議員と会食予定があります。その場にソウタさんといらしてください。」

「ありがとう、ソフィア!」


そうして土曜日になり、レベッカは草太とともに村で唯一の高級レストラン【ラ・ルーシュ】を訪れた。

草太は1週間後の新監督ナムの結婚式に向けて【仕立て屋ファランス】で仕立てた真新しいブラックスーツを着て、ネクタイは無難に紺色の無地を着た。

レベッカは赤色のワンピースに小ぶりなバッグを持っている。

(あぁ、ソウタと二人きりでこんなレストランで食事を楽しめるのはいつの日かしら)とレベッカは思ったが、そんな恋人の思いを知ってか知らずか、草太は「行こう」と声をかけ、ソフィアとシモンが来るより早くレストランに入った。


長方形のテーブルに草太とレベッカは腰を掛け、テーブルの真ん中で揺らめくロウソクの火を眺めた。

レベッカは(あぁ、いいわ。早くソウタとの外堀を埋めなくちゃ)と思い、草太の手に自身の手を添えた。

すると、草太も手を握り返してきた。

「はは。」「フフ。」二人は気恥ずかしくなり、笑いあった。


すると、レストランの扉が開き、ソフィアがやって来た。

「こんばんは。ソウタさんとレベッカ。」

草太は立ち上がり、「お久しぶりです。ソフィアさん。」と返事をする。

ソフィアは「エルフにとって5か月はつい最近のことですよ」と微笑みながら席に座った。


そして10分ほどしたところ、再びレストランの扉が開いた。

そこにはアウロラ王国の伝統衣装であるローブを着た一人の男性が入ってきた。

シモン議員である。

事前に草太は70代であることを聞いていたので、どのような老人かと思っていたが、背筋はまっすぐ伸び、まったく衰えを見せない精悍な目つきと豊満な白ひげを蓄えていた。


草太とレベッカはすぐに立ち上がり、名刺を出しながら挨拶をした。

「初めまして。シモン先生。私、一般社団法人ACシルクの理事、戸河内草太と申します。」

レベッカも名刺を差し出す。

「お会いできて光栄です。先生。私は副理事のレベッカと申します。」

シモンは二人の名刺を見つめた。

「ふむ。トゴウチ・ソウタさん……?もしかして、名前が分かれているのか?」

「はい。戸河内が姓で草太が名です。」

「ふむ。このアウロラ王国では王しか名前は分かれていないんだけどな。まぁ珍しいの。」

そこにソフィアが苦々しく口を開いた。

「シモン議長、実は私、彼に出会うまで『フルネーム』という言葉を知らなかったくらいです」


こうして4人の会食が始まった。

ソフィアとシモンは村の政治や来年の予算会計の話をするため、二人は日々の新聞で勉強した知識を頼りに話についていくのに苦労した。

そこで突然、シモンが草太に話を振ってきた。

「ところで君たちは、その、なんだ?サッカーで村おこしをしようと考えているんだって?」

その質問に草太は毅然と答えた。

「はい。そのため、小学校跡地の指定管理者公募に応募してそこを拠点に活動をさせていただきたいと考えております。」

「ふむ。アルバートからも聞いてるよ。少子化対策、大いに結構。この村はワシ等のようなジジイババアばかりになってしまっては困るからな。……実はな。」

シモンは声を小さくして草太とレベッカに話しかける。

「あの公募、君ら以外に応募している会社は無い。それはアルバートがおとといに、直々に村おこし室の室長から聞き出したことだから間違いはない。わしら与党としてはさっさと公募なんぞ期間を前倒しにして打ち切ってしまえ、と思っていたところだ。村おこし室にも仕事をさせんとな。」

レベッカは心の中で(チャンス!)と思った。競合相手がいないという事実情報を手にしたからだ。

しかし、草太はここで一つ、シモンに提案をした。

「シモン先生。一つ、提案があります。ぜひとも、公開プレゼンテーションの場を設けていただけたら、期間を前倒しにする口実になるかと考えます。」

「つまり、プレゼンの内容が良ければほかに競合もないしさっさと打ち切ってしまうということだな。まぁ、君らのプレゼンが本当に前倒しに値すれば、の前提はあるがな。考えておこう。」

「ありがとうございます。」


そうして翌週金曜日、草太とレベッカのもとに連絡が入り、村人に向けた公開プレゼンテーション日程の連絡が入った。

場所はなんと、小学校跡地の体育館である。


草太はレベッカに感謝を述べた。

「ありがとう、レベッカ。レベッカのおかげで公募の件が早く進んだよ。」

「いいのよ。明日はナム監督の結婚式だわ。私とソウタ、それにサブリナが呼ばれてるわね。」

「うん。ここもアピールの場だよ。ACシルクの存在を村の人たちに知ってもらうんだ。」

しかしレベッカは別のことを考え、わずかに口角を挙げた。

(ふふ。ナムの結婚式は私たちの外堀を埋めるチャンスでもあるわ。早く決断してね、ソウタ。)


そうして翌日土曜日、草太・レベッカ・サブリナの3人はナム監督の結婚式に参加をすべく居候先兼ACシルク事務所のナンシー宅を出発したのであった。

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