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レベッカの怒り

クラウディアを雇用した翌日、草太とレベッカの2人は石造りの立派な建物であるシルク村村役場にやってきた。

思えば4か月前、村おこし室のサミーラに『小学校を借りたければ法人を作れ』と言われ、そこからヨンソン司法書士事務所に通い資金を集めヨンソンに書類を作ってもらい一般社団法人ACシルクを立ち上げた。


草太とレベッカは各々名刺を持っている。


-一般社団法人ACシルク 理事 トゴウチ・ソウタ-

-一般社団法人ACシルク 副理事 レベッカ-


これが二人の名刺だ。

(アウロラ王国では国民は一般的に姓を持たない)


「4か月ぶりに来たわね」とレベッカは村役場を見上げた。

「うん。そうだね。これで前回追い返された壁は乗り越えている。まだ何か言ってくるんだろうけど、腹を決めよう。」


2人は意気揚々と3階まで階段を上った。


4か月前と変わらず、プレートにはこのように書かれている。

【シルク村地域経済振興対策課村経済復興室(村おこし室)】

草太はドアをノックし扉を開けたらそこには、机に突っ伏して居眠りをしている嘱託職員オーウェンがいた。

草太は(変わっていないなぁ……)と思い呆れつつ、声をかけようとした瞬間、背後から声をかけられた。


「あら、以前いらしたサッカーの方々ですね。」

振り向いたらそこには一人の女性―シルク村地域経済振興対策課村経済復興室室長―サミーラがいた。


レベッカはわざとらしい笑みで「はい。その節は大変お世話になりました。」というものだから、草太は少し冷や汗を流しながら懐から名刺を出した。

「以前は名刺をお渡しできませんでした。改めて自己紹介させていただきます。

一般社団法人ACシルク理事の戸河内草太です。」

続いてレベッカも名刺をサミーラに渡した。

サミーラは名刺を受け取り、「改めまして、村おこし室室長のサミーラです」と返事をした。


「すみません。少し失礼します」と言いレベッカと草太の背後を通り事務机に突っ伏して居眠りをしているオーウェンの肩をゆすって起こす。


「オーウェンさん、オーウェンさん、いい加減にしてくださいね。」

するとオーウェンはめんどくさそうに起き上がり、「ふあぁ、客かのう。どれ、茶でも入れてくるわい。」と言い部屋を出て行った。


「どうぞ。おかけになってください。」

サミーラは草太とレベッカはソファーに座るよう促した。

サミーラは相変わらず淡々と事務的に2人の相手を行っている。

ならば、草太としても淡々と用件を伝えるまでだ。


草太はさっそく切り出した。

「4か月前に相談をさせていただいた、小学校跡地をサッカークラブとしてお貸しいただく件で参りました。

その時のサミーラさんのお言葉は法人登記をするようにとのことでした。今回、法人を新たに設立いたしましたので、改めてお伺いした次第です。」


すると、サミーラは一言、ふう、と息を吐き、草太とレベッカに声をかけた。

「はい。小学校跡地を年単位で貸し出すには法人である必要があります。それは前回もお伝えした通り変わっておりません。」

そこですかさずレベッカが口をはさんだ。

「ソフィア村長は私たちに無料で小学校跡地を貸し出すと約束をいただいています。」

ピリッと、サミーラとレベッカの間で静電気が走ったような雰囲気を醸し出していたが、そこにのんきにオーウェンが紅茶を運んできた。

「ほら。お茶を持ってきたぞい。前にも言ったが若者に金を使うんなら年金に…」とオーウェンは言いかけたが、その瞬間キッとサミーラとレベッカから怒気をはらんだ視線が向けられた。

思わずひるんだオーウェンは「最近の若いおなごは……。一服して来るかのう」といい、部屋を出て行った。


緊張した空気の中、草太は再びサミーラに声をかけた。

「つきましては、契約を役場と結びたいのですが、かかる書類をお渡しください。」

しかし、サミーラからの返事はやはり草太とレベッカの期待を裏切るものであった。

「確かに、村長からはACシルクさんに無料で貸し出すように話は来ています。しかしそれは正規の手続きを経た村長命令ではありません。」

レベッカは思わず「な!まだ何かあるわけ!?」と立ち上がる。

サミーラはあくまでも事務的に「ACシルクさんだけにコネで貸し出すのは不公平だと申し上げているのです。」と告げた。

草太はレベッカの肩に手を当て、「落ち着いてくれ。まだ貸してくれないといわれているわけじゃない」と諭す。


草太はサミーラに問う。

「サミーラさん、今あなたは『私たちだけ』に無料で貸し出すのは不公平というお言葉でした。もう腹の探り合いはやめましょう。つまり、小学校の指定管理者を公募するおつもりだということですね?」

その時、サミーラの事務的な目つきはなんとなくだが、緩やかになった気が草太にはした。

「その通り。ほかにも借りたい法人がいるかもしれません。もちろん、公募の末ACシルクさんが正式に指定管理者となれば私も『村おこし室室長』として規則にのっとった村おこしのための協力は惜しみません。」


草太は思わず考え込んだ。

(なるほど。公募に応募するとなれば、事業計画や収支計画のプレゼン、審査を経て他法人に打ち勝つ必要があるな。これは大変だ。)


「かしこまりました。サミーラさん。ではACシルクとして正式にその公募に応募させていただきます。」

こうして二人はシルク村役場を後に、ACシルク事務所兼居候先であるナンシー宅へ帰宅した。


その夜、ソファーに座ってレベッカと草太は今後の公募対応について話し合った。

レベッカは静かに口を開いた。

「ねぇ、ソウタ。このまま正攻法では手続きだけで1年はかかる気がしてきたわ。」

「まぁ、そうだね。いくらクラウディアさんが営業しようにも、グラウンドもないサッカークラブにスポンサードしてくれる企業が現れるとも思えない。」

「私、ギルド受付嬢時代のコネを使ってソフィアさんだけでなく、村の有力議員さんと接触を図るわ。正攻法だけだと、先にACシルクがつぶれると思うの。」

少し草太は考え込んだが、確かに正攻法だけではこの状況は突破できそうにない。

「レベッカ。わかった。あまり無茶はしないようにね。僕は正攻法の資料を作るよ。」


レベッカは内心、サミーラに対する強烈な怒りがわいていた。

(絶対あの女の思い通りになんかさせてやるもんですか)

こうして、レベッカのしたたかな『政治工作』が始まったのであった。

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