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母の再就職先はサッカークラブ

草太はレベッカとサブリナを食卓に囲んで今後の方針について語っていた。

草太としては『仕立屋ファランス』がACシルクのスポンサー第一号となったが、当然まだまだスポンサー企業が足らないしそろそろ選手集めも開始しなくてはならない。

それに練習会場兼試合会場となる小学校跡地を村役場の村おこし室から正式に借りなくてはならない。

草太は開口一番、このように切り出した。

「人が足りないね」

サブリナがそれに続ける。

「営業の私がまだスポンサーを取れてなくて申し訳ないです。」

そんなサブリナを草太は慰める。

「いや、まだサブリナは中学を出てから1年もたってない。僕の元いた日本では普通は高校生になっているところだよ。」

このアウロラ王国の義務教育は小学校まで。この世界ではサブリナは十分な教育を受けていることになるがそれでも、サブリナを指導してくれる経験豊富な営業人員は欲しい。

するとレベッカは提案をしてきた。

「新しい営業候補は監査役のレヴィーさんに紹介をお願いしてみましょうよ。それと同時に私と草太は村おこし室に今度こそ小学校跡地を借りる交渉をしないと」

草太は同意した。

「そうだね。さっそく村一番のスノリマ商会に頼る時が来たか……。」

草太はその日のうちにレヴィーへ新しい営業候補を紹介してくれないか依頼をした。

―3日後―

ナンシー宅兼ACシルク事務所にレヴィーと一人の女性がやってきた。

レヴィーはその女性とともにリビングのソファーに座り辺りを見渡した。

「ソウタくん、そう言えば監査役の私がこの事務所に来るのって初めてだね。」

草太は冷や汗をかきつつ

「今までお呼びする機会がなくてすみません」と応えた。

レベッカはレヴィーとレヴィーが連れてきた女性用に紅茶を差し出した。

その女性の見た目は20代後半から30代前半くらいか。背筋を伸ばし長い黒髪をゴムで束ねたその姿は凛とした大人の女性だ。

レヴィーはさっそく女性を紹介した。

「紹介するよ。クラウディアだ。」

その言葉と同時にクラウディアは差し出し、草太、レベッカそしてサブリナと順番に

「はじめまして。クラウディアです。」

と言い握手をした。

続けてレヴィーはクラウディアの経歴を話し始めた。

「彼女は高校を出て4年間ほどスノリマ商会で働いた。当時はカウカの厄災もあり、かなり国自体が難しい時期だったが、そんな国難の時期でも都会の商人たちとも若いながら一歩も引かない優秀な人材だった。だけど厄災が終わってすぐの23歳の時に事情があってスノリマ商会を退職したんだ。あれは惜しかったなぁ。これからだって時だったのに。」

するとクラウディアは口を挟んだ。

「まぁ、一言で言うと同僚と授かり婚をしたんです。」

(なかなか言いづらいことをズバッと言うなぁ)

草太とレベッカはそんな印象を抱いた。

レヴィーは苦笑しながらクラウディアにたずねた。

「今息子さん、何歳だったかな?」

「9歳になりました。そしてソウタさん、レベッカさん。

履歴書は不要と言われたので持ってきませんでしたが、私は今33歳です。」

「そう。それで息子さんも大きくなったし、彼女もまた働こうと思って私のところに連絡をしていたところ、ソウタくんから連絡があったということだよ。」

そしてまたクラウディアが補足した。

「平たく言えば、離婚したんです。だから働かななくてはならなくなりました。」

「ま、まぁ、この通りクラウディアは昔から言いづらいことをズバッと言ってくれるタイプでね。

実に営業向きなんだ。

本音を言うとスノリマ商会に戻ってほしかったんだが、元夫はまだスノリマ商会で働いているからね。正直なところ、商会では雇いにくかったんだ。」

草太はクラウディアに質問をした。

「クラウディアさん。質問が2つあります。」

「はい。なんなりと。」

「ACシルクはできたばかりの法人で、まだ選手すら集まっていないサッカークラブです。村一番の商会とは組織力がかなり劣りますが大丈夫ですか?」

「はい。その点は問題ありません。これから組織を大きくしていく仕事はやりがいがあります。

それとこれはご質問の趣旨と外れる個人的なことですが、息子にサッカークラブで働こうと思うと伝えたら大はしゃぎしてました。サッカー好きなので。」

(なるほど。9歳の息子さんがサッカーが好きなら、子ども向きの営業戦略とかも考えてくれそうだな)

まず草太はこの点を評価した。

続いて草太は最後の質問をした。

「クラウディアさんに期待することは営業だけではありません。いま、このクラブでは、私の隣に座っているサブリナが営業を担当しているのですが、中学をでて、半年ほどしかギルド受付嬢をしていない、まだ社会経験が未熟な若手です。このサブリナを鍛えていただきたい。」

「その点も事前にレヴィーさんからうかがっていました。スノリマ商会にいた時は2年目ですでに後輩の教育係もしていましたので、お任せください。」

草太はチラリとレベッカの顔を見ると、レベッカは顔を縦に振った。

「ありがとうございます。ぜひ、私たちとこのシルク村に新しい文化を作りましょう。さっそく明日からこの事務所に出勤してください。」

草太は改めて手を差し出すと、クラウディアは「よろしくお願いします」と言い、その手を握った。


こうして、ACシルクは新しい営業員としてクラウディアを迎えることになった。


そして次に、草太はサブリナに顔を向けた。

「それとサブリナ、君は夜間高校に通わないか?」

突然話をふられ、サブリナは思わず狼狽えた。

「え?私が高校にですか?親からは中学で十分だと言われました。」

「君のご両親はそう思っているのかもしれない。だだ、高校を卒業するメリットはあるよ。

君は実家のオレンジ農園とギルド受付嬢というシルク村で完結する世界しか知らない。ACシルクは首都や都会のクラブと戦うんだ。

戦うのは選手だけじゃない。高等教育は受けた方がいい。」

するとレベッカが一枚の封筒をサブリナに差し出した。

「これは、私立ホーブ高等学園夜間部の志願書よ。学費はレヴィーさんのご厚意で全額出していただけるわ。」

次にサブリナはレヴィーに顔を向けた。

「私もスノリマ商会の元取締役として叩き上げの優秀な営業員は何人も知っているけどね。学歴だって無いより、あることに越したことはないよ。」

そこにクラウディアも続けた。

「サブリナさん、いい?

チャンスは一度手放すと2度と来ない。

そもそもこの国で女が高校以上の学歴を手にするチャンスなんて滅多に無い。このチャンスを棒に振るなんて選択肢は考えられない。」

サブリナはレヴィーに向けて感謝をのべた。

「ありがとうございます。私、がんばります!」


レヴィーとクラウディアの二人を見送ったあと、草太はレベッカに向かっていった。

「さて。今後の新しい体制が決まったね。

営業はクラウディアさんメインで、サブリナは午前はクラウディアさんのもとで営業、午後は夜間学校だ。

僕たちは理事としての仕事をしなくちゃ。まずは小学校跡地を借りるための交渉だね。」

レベッカは思わずため息をついた。

「あの、サミーラとか言うまさに役人という感じの堅物の女ね。一筋縄ではいかない気がするわ」

そしてそのレベッカの予感は的中するのであった。

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