初めてのスポンサー契約
午前中にクラブカラーが決定し、昼食後に何気なく草太は庭の花を見ていると、急に大切なことを思い出した。
「しまった!3週間後には、監督を引き受けてくれたナムの結婚式じゃないか!何も用意してないぞ……!」
その言葉にレベッカは驚く。
「え!?ひょっとしたら服とか買ってないの?」
サブリナも草太に言い放つ。
「私も先輩も、式用のドレスは買ってますよ!」
草太は頭を抱えた。
「どうしよう。俺、この国の習わしとかまだまだ覚えきれてないぞ。どんな服を着たら良いんだ?」
レベッカは嘆息した。
「この国の結婚式招待客の正装と言えば、男性は深緑色のローブよ。披露宴は最近、スーツで参加する人も多くなってるけど、それは都会だけね。
とりあえず急ぎで仕立て屋に行っきて!」
こうして草太はレベッカに教えられた村の中心部にある仕立て屋に向かうことになった。
この店はレンガ造りで作られており看板には『仕立て屋ファランス』と書かれていた。
ドアを開けると、そこには白髪の頑固そうな男性が立っていた。
「いらっしゃい。何をお求めかな?若いの。」
どこか横柄な態度に少し不信感を抱きつつ、草太は目的を告げた。
「結婚式と披露宴に招待されているのでその服を買いに来ました。ローブが正装なんですよ……ね?」
するとその男性は二つ返事を返した。
「正装のローブだな。2週間もあれば大丈夫だ。披露宴もそのローブで出れば問題ない。ワシに任せておけば大丈夫。」
相変わらず横柄だが、職人気質も感じる。
さらに草太は話を続けた。
「それでですね、披露宴用の服装ですが、スーツにしたいんです。」
するとその職人の眉がピクリ、と動いた。
「あぁん?スーツ?
最近の若いもんは何で伝統のローブよりスーツを着たがるかね?」
すると店の奥から若い男性の声がした。
「親父、ローブばかりにこだわってたら駄目だって言ってるだろ」
その若い男性は草太に話しかけてきた。
「すみません。親父は昔気質の職人でして、息子の私が言うのもなんですが、接客は向いてないんです。」
すると親父と呼ばれた男性はまた文句を言う。
「ジョージ、お前、父親に向かって偉くなったな。」
だが、ジョージは構わず話を続ける。
「お客さん、どんなスーツを披露宴用にお望みですか?スーツは私が作りますよ。」
「ブラックスーツをお願いします。そしてネクタイですが、青とピンクの組み合わせでお願いします。」
その一言に、ジョージの父親がさらに声を大にする。
「ふざけるな!男が青のネクタイはともかく、ピンクをいれるだと?」
「親父、このままだとお客さん逃げちゃうから、裏で正装ローブの作成に取り掛かってくれないか?」
「もう俺は知らん!」
ジョージの父親は怒った様子で店の奥に行った。
草太は事情を説明すると、ジョージは興味津々に話を聞く。
「このシルク村にサッカークラブですか!?
クラブカラーが青を主体としてアクセントにピンクを!?
それは面白い!」
二人の会話はどんどん弾む。
ジョージは村の不満を口にする。
「いやぁ、この村の娯楽と言えば、酒屋しかなくて、暇なときに釣りに行くくらいしかないんですが、あまり釣りも好きではなくて……。サッカークラブができたら、ぜひ見に行きますよ!」
「ぜひ見に来てください!選手集めはこれからですけど、今はスポンサー回りを始めたところなんです。」
そこでふと、草太は頭に思い描いた。
営業のチャンスでは……?
「ジョージさん、ACシルクのスポンサー第一号になりませんか?ユニフォームに『仕立て屋ファランス』と名前を入れますよ!」
「それ面白いですね!おーい!親父!来てくれ!」
すると店の奥から先ほどの職人が出てきた。
「親父!この村にサッカークラブができるんだと!」
「サッカークラブ?そんなもんがこのシルク村にできるのか?」
「俺たち、スポンサー第一号になれるんだと!選手のユニフォームやスーツを作って新時代の仕立て屋をアピールしようぜ!」
「また伝統に反することを……!もうワシは知らん!勝手に契約しとけ!」
こうして、草太のローブとスーツ(ネクタイ含む)の仕立て代金はスポンサー契約の一部としてその場で草太は手書きで契約書まで作った。
ジョージは満足げな顔をした。
「いやぁ、新しい商売のチャンスが来たと思います!スポンサー第一号として期待してますよ。」
こうして草太は『仕立屋ファランス』との即席の契約書を片手にナンシー宅へ戻った。
そのことを報告すると、レベッカの顔に青筋が入った。
「ソウタ!今日は休みだって言ったでしょ!
何、営業してんのよ!しかもスポンサー契約も交わすだなんて!」
しかしサブリナはレベッカと対照的に「いきなりスポンサーを取ってくるなんてすごいです!」と褒める。
「レベッカ。悪い。でもまぁ、午前中は休んだんだから、許して、お願い!」
「午前中だってクラブカラーを決める会議をしたじゃない……」
納得はしないレベッカではあったが、それ以上は責めなかった。
こうして、記念すべきACシルクのスポンサー契約が結ばれたのであった。




