ACシルク設立記念日
次の日の夜、ソフィアがまた受付嬢と一緒にナンシーさんの家までやってきた。
受付嬢はレベッカという名前だそうだ。
ソフィアが俺にこの世界のサッカーについて説明してくれた。
まずはルールについて質問をしてみた。
地球のサッカーとほぼ同じだった。
「ルールについてはだいたいわかりました。流石にVARは無いんですね」
と俺がなんとなく言葉を滑らすと
「……なんですか?それは?」とソフィアから聞き返された。
俺は地球から転生したこと、地球ではサッカーは世界的な人気球技であること、VARとは得点に絡む際どいシーンで主審をフォローするシステムであることを説明した。
だが、レベッカは信じてくれなかった。
「あんた、異世界転生だなんて、死にかけた後遺症で夢と現実がごっちゃになってるんじゃないの?」
だが、ソフィアは全否定しなかった。
「私も異世界転生という話は信じられませんが、少なくとも私たちの国『アウロラ王国』でもスポーツとしては大人気ということは間違い有りません」と話した。
続いての疑問を口にした。
「ソフィアさん、どうしてこの村でクラブを作ろうと思ったのですか?」
「トゴウチソウタさん、このシルク村の主要産業は何かご存知ですか?」
「漁業……でしょうか。あ、あと、フルネームで呼んでいただかなくても、今後は草太でお願いします。」
「フルネーム……とは?まぁ、今後はソウタさんとお呼びしますね。
そして漁業で半分正解です。もう半分はタオルの生産です。
この村にはこの2つ以外の産業がなく、若い男性たちは刺激を求めて都会への流出が止まらないんです。
地域振興の一つの手段としてクラブの設立を思いついた……というわけです。」
少しレベッカが補足した。
「ちなみに冒険者は産業とは呼ばないわ。あれは古代の遺跡や迷宮に潜り込んでモンスターを狩る仕事であって、特に何か作り出しているわけではないし、報酬は税金からきてるのよ」
大体このシルク村の現状が見えてきた。
要は過疎化が止まらず、それを阻止するための手段の一つとして人を呼び込む、もしくは留めるための魅力を作り出したいらしい。
その手段の一つがサッカークラブ設立というわけだ。
日本でもN2とかN3にもそういう地方クラブは存在する。
俺は俄然やる気が湧いてきた。
「では、具体的な話に入りましょう。クラブ名は何という名前ですか?選手は?」
ソフィアは苦々しく答えた。
「実はそこが問題でして……。選手どころかクラブ名でさえ決まっていないのです。」
「そ、そうですか。本当にゼロから作るんですね。」
スマホのアプリゲームでプロサッカークラブを作るシミュレーションゲームはプレイしたことがあるが、まさかそれをリアルでやることになるとは……。
ソフィアが話しかけてきた。
「クラブ名ですが、何か良い案はありますか?」
俺は少し考え込んだ。
FCだと、日本でもよくあるクラブ名で少しオリジナル感を出したい。
そう考えていたら、不意にイタリアの赤いクラブが頭の中に浮かんだ。
「『ACシルク』はいかがでしょうか?言葉にするとシルクサッカー団となります。シンプルでかつシルク村の人たちの共有財産という意味合いがあります。」
レベッカは大いに賛同した。
「良いじゃない!ACシルク!村の共有財産ってところも今までにない考えだし。
今日の会議はここまで終わり!酒場に3人で飲みに行こうよ、ね、ソフィアさん!」
俺は思わずレベッカの年齢が気になった。
「あの、レベッカさん。レベッカさんはお酒のんでいい年齢なの?」
「へ……?このアウロラ王国では飲酒年齢について法律的な制限はないわよ?ちなみに年齢はあんたと同じ20歳。タメ口で大丈夫。」
こうして俺達は記念すべき第一回目の会議をナンシーさんの家で終えた。