社団法人『ACシルク』正式発足!
元スノリマ商会取締役のレヴィーがACシルクの監査役就任を受託した翌々日、『ヨンソン司法書士事務所』に草太、レベッカそしてサブリナが朝の9時から集まった。
ヨンソンはレヴィーの魔法印が押された就任承諾書を見て、開口一番彼らに告げた。
「レヴィーさんとは、なかなかな大物を監査役に就けたね。営業活動はぐっと楽になるはずだよ。」
草太はヨンソンに答える。
「はい。レヴィーさんは村一番の商会であるスノリマ商会元取締役としてのコネと影響力がありますからね。この表現はあまり良くないですが、最大限に使わせてもらいます。」
そこにサブリナが聞いた。
「そんなにすごい人なんですか?よく分からないんですけど……。」
ヨンソンがその疑問に答えた。
「都会なら話は変わるかもしれないけど、この狭いシルク村において地元のつながりは大切だよ。
理事と副理事のソウタくんとサブリナさんはこのシルク村の出身ではない。そして君はシルク村出身ではあるが15歳と若すぎる。
スタートアップの勢いは大切だけど、村社会の壁を突破するにはやはり地元有力者の顔は欠かせないから。」
サブリナは分かったのか分かってないのかよく分からない表情で「そうですかぁ」とつぶやいた。
ヨンソンは立ち上がって草太に告げた。
「これで書類は全て整ったよ。さっそく法務局に行くかい?」
「はい。今から行ってきます。ヨンソンさん、今までありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
「そうだね。君はまだこの事務所で当面のあいだ事務員として働く間柄でもあるし、それとは別にACシルク理事として、今後もうちと契約してくれるとありがたいな」
草太とレベッカは立ち上がり、ヨンソンと握手をした。
サブリナは慌てて2人に続き立ち上がり、ヨンソンと握手をしてヨンソン司法書士事務所をあとにした。
向かうはもちろん、村役場に併設されている法務局である。
村役場は相変わらず石造りの立派な建物である。
役場の前でレベッカは思わずつぶやいた。
「小学校跡地を借りたければ法人を作れと言われて4ヶ月になろうとしてる。
ソウタ、ほんとにおめでとう。」
「レベッカ。僕からもお礼を言うよ。君無しではとっくの昔に挫折していた。」
そこにサブリナが割り込んできた。
「先輩もソウタさんも私のこと忘れてますね!」
レベッカはサブリナに「忘れてないわ。いつも営業ありがとう。」といえば、草太は「これからも期待してるよ。」とねぎらった。
法務局での手続きは非常に淡々と進んだ。
書類ミスもなく、手続きは30分もせずに終わった。
法務局の担当者が
「記念に登記簿抄本を発行して帰りますか?」と尋ねてきたので、草太は抄本を発行してもらい法務局を後に居候先件ACシルクの事務所であるナンシー宅に帰った。
帰ったときはまだ12時をわずかに回ったくらいであったが、リビングに入るとナンシーがエプロンを身に着け、様々な料理を次々とテーブルにおいているところであった。
ナンシーは3人を見るなり、声をかけた。
「会社はできたのかい?」
草太は満面の笑みで答えた。
「はい!できました!」と述べ、登記簿抄本を見せる。
商号の欄に『ACシルク』と明記されている。
思わず涙が出るナンシー。
「みんな頑張ったねぇ。65にもなると涙も弱くて仕方ないよ」
そうして4人は、ランチパーティーを楽しんだ。
ランチパーティーを楽しんだ後、ナンシーは用事があると言い、家を出ていった。
レベッカは皿を洗い、草太はレベッカが洗った皿をふきんで拭きつつ次に何をするべきか優先順位を考えていた。
「レベッカ、次はそろそろ選手集めを開始しないといけないけど、その前に村おこし室に行って今度こそ小学校を借りて……でも荒れたグランウド問題を解決するのにさすがにヤギに雑草を食べさせる作戦は時間がかかりすぎるし……スポンサーも探さないと……。うーん。悩むなぁ」
するとレベッカは草太が全く予想していなかったことを言った。
「……まずはヨンソンさんの司法書士事務所を辞めて。」
草太はなぜレベッカが突然司法書士事務所のバイトを辞めるように言い出したのか、理解できなかった。
「レベッカ。何を言っているんだい?
今司法書士事務所を辞めると僕たちやサブリナの居候費が払えないよ」
レベッカはテーブルに向けてバン!と両手を叩いた。
その音に机を拭いていたサブリナも気づく。
レベッカは顔を俯いたまま叫ぶ。
「だってソウタ!あなたこの前もフラフラだったじゃない!
夕方まで司法書士の助手をして、それから夜までサブリナと営業!もう法人登記もできたんだから、ヨンソンさんへの契約料金は全額払いきったんでしょ!」
レベッカの言っていることは正しい。
起業のための書類作成をヨンソンに依頼した際、手持ち金がなかった草太は事務所で働きながら契約料金を給料から天引きする契約で働いていた。
そして、すでに契約料金は払いきっているため、ヨンソンはACシルク設立のための書類を全て用意してくれた。
今月分の給料からは天引きされることはなくなるから、手取りは当然増える。
しかし、最近の草太は目にクマが常に出来ており、先週はレベッカの前で倒れかけた。
思わず草太は黙り込んだ。
レベッカは目に涙を浮かべながら草太を見つめた。
「今はサブリナはギルド受付嬢時代のコネで挨拶まわりをしている状態。スポンサー料を取ってくるのとはわけが違うわ。
常にサブリナのフォローをする必要もある。
ソウタ、お願い。
ソウタの健康のためにも、クラブのためにも、私とサブリナのためにも事務所を辞めて!
……お願いよ!」
思わず両手で顔覆い泣き出すレベッカ。
サブリナはレベッカを抱きしめながら草太に言う。
「ソウタさん、私からもお願いします。先輩のためにも、司法書士事務所を辞めてください。」
草太はしばらく考え込み、結論を出した。
草太としては、確かに体力面での限界は感じつつあったし、現在の体制で営業をサブリナ一人に任せるのは不安を感じていた。
「……分かった。明日、ヨンソンさんに辞表を出すよ。」
この言葉を聞いたレベッカはよろよろと草太に近づき、抱きついてきた。
「今まで私とサブリナのために身を粉にしてお金を稼いできたソウタにこんな事を言って……ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
草太も謝った。
「僕こそ、レベッカの気持ちに気づいていなかった。悪かった。」
翌日、草太はヨンソンに辞表を提出した。
事情を聞いたヨンソンは、辞表を受け取った。
「ソウタくん、良い彼女を持ったね。大切にしないと駄目だよ?」
草太はヨンソンの助言に同意した。
「僕にはもったいなさすぎるほどの恋人です。ヨンソンさん、今までお世話になりました。」
そして2人は握手を交わし、草太はヨンソン司法書士事務所での最後の給料を受け取ったのであった。




