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ACシルク理事、初めての営業と彼女の嫉妬

ナムがACシルクの初代監督を受託した翌日の日曜日、草太はサブリナとともに初の営業周りをすることになった。

もちろん、転生前は学生だった草太にとって営業など初めてである。

サブリナもギルド受付嬢の仕事は経験があるが、営業の仕事は初めてだ。

とはいえ、アウロラ王国における一般的なビジネス作法は草太が働いている『ヨンソン司法書士事務所』のヨンソンが気を利かせてある程度二人に教えてくれていた。

サブリナは草太に向いて言う。

「なんだか緊張します。いくら顔見知りの武器屋だからって……」

「僕も営業初めてだからね。ただ、今回の目的は顔合わせだよ。いきなりスポンサーになって欲しいと頼むわけではないから。」

そう言いつつ、玄関で靴を履いているとレベッカがやってきた。

「二人とも、気を付けて。」

「うん。ありがとう。」と草太は返事をしたが、レベッカは草太にも聞こえるように、サブリナに囁く。


「今日行く武器屋は私もオーナーと知り合いだから。その意味、分かってね。」


草太からしたらそれはつまり、彼女はあくまでレベッカであり、サブリナはただの後輩あるいは妹ポジションなのよ、という牽制に見て取れた。


だが、サブリナはそこまでレベッカの言葉の裏を読んでいなかった。

サブリナは笑顔で返事をする。

「そんなの分かってますよ〜。先輩!顔をつぶすなってことですよね〜」


草太は背中に冷や汗をかきつつも、「行ってくるよ」と言い、ナンシーの家兼ACシルク事務所(予定)をあとにした。


村の冒険者ギルドすぐ近くに構える武器屋『ホーブ剣槍店』を訪れた。

店の中にはふくよかな体型の中年女性が立っていた。

「いらっしゃいませ……あ!サブリナちゃん!心配してたのよ!」

サブリナは頭をカーラに下げた。

「カーラさん、ご心配をおかけしました。」

「冒険者のお客さん達からは聞いたわ。あんな上司の元から去って当然よ」

「私の隣にいるこの方を紹介させてください。

レベッカ先輩と起業予定のトゴウチソウタさんです。」

草太はヨンソンから習った通り、この国のビジネス作法として右腕を差し出した。

「はじめまして。戸河内草太と申します。」

カーラは特に躊躇することなく、草太と快く握手に応じてくれた。

「はい。はじめまして。

でも、私はあなたのことを知ってるのよ。

レベッカちゃんの彼氏さんでしょう?」

草太はその言葉に驚いたが、構わずカーラは続ける。

「ギルド受付嬢のアイドル的存在だったレベッカちゃんとサブリナちゃんが立て続けに突然やめちゃって、しかもレベッカちゃんは、ある日突然村にやって来た『ソウタ』という男と交際してサッカークラブを作ろうとしてるって冒険者の間で話題の半分は持ちきりよ。あと半分の話題は二人を解雇においやったフローラ係長への恨みね」

草太は意外と自分の名前が村人や冒険者の間で広まっていたことに驚いた。

だが、警戒すべきはあくまで『よそ者』としてであることだろう。


草太は話題をそらすために店の商品を見渡した。

壁にはアニメでよく見るようなロングソード、サーベル、レイピア、槍などが所狭しと並べられ、変わった武器としては刃が付いたブーメランや鎖が付いた鎌まであった。


「沢山あるんですね」

「冒険者にとって、特にロングソードやサーベルは消耗品だからね。

ソウタさん、このナイフなんかどうだい?きれいな拵えでしょ?護身用に買う?」

「これはすごくきれいなナイフですね!でも、武器を持ち歩いた経験がありませんので……」

草太はカーラの気分を害さないよう、丁寧に断った。


「はぁ、最近の若い男は軟弱になったねぇ。『妖怪カウカの厄災』のころは冒険者でなくても、魔法が使えない市井の人たちは、家族や村を守るために貯金を崩して剣や槍を買い求めたものさ」

「『妖怪カウカの厄災』……ですか。」

草太はナムから聞いたことがあった。

十数年前、アウロラ王国のみならず、この異世界全体を襲った悪夢について。

カウカは世界全ての国を侵略しようとした妖怪だそうだ。

ナムからは、居候先でお世話になっているナンシーの夫や息子もアウロラ王国を守るために徴兵され、戦死したと聞かされていた。


そのことについて草太が思案していると、店の片隅で商品を見物していたサブリナがつぶやいた。

「なんかこの剣、他の剣とは違って曲がってますね……。鞘も黒くてシンプルと言うか、デザインが異質というか……」

その商品は店の片隅に埃をかぶりながら無造作に立てかけられていた。

「さすが、冒険者から人気だったサブリナちゃんだね。

それはノリマサって名前の刀という種類の武器だよ。どんな大商店にだってこんなデザインの武器はないよ。」

草太は思わずその刀に見入った。

刀自体は美術館でしか見たことがないが、拵えも鞘も鍔も明らかに日本刀の形状をしている。

手に取るとずっしりと刀の重みが伝わってくる。

鞘から少しだけ抜いてみたが、光り輝く刀身は見れば見るほど日本刀にしか見えなかった。

(カーラさんは明らかにノリマサと言った。漢字で書くと則政か?それとも他の漢字か?いずれにせよ、明らかに語呂が日本的だ。どうしてここ異世界に?シルク村に?)

カーラはまじまじと刀を見つめる草太に声をかけた。

「買うかい?本来なら150,000ルカだけど、値引いて100,000ルカで売るよ?そんな珍しい武器はだれも買わないのさ。」

「いえ……私は冒険者ではありませんし、残念ながら剣術の心得もありません。

私にとっての使い道は壁に飾るアンティークくらいです。

カーラさん、5,000ルカをお渡ししますので、私たちが作るサッカークラブが成功したら購入させてください。」

カーラは微笑みながら草太に言った。

「そうかい。なら今日からこのノリマサは予約品にするよ。だれも買いやしないし。」


草太とサブリナにとっては今回の営業訪問は顔を覚えてもらうための挨拶だ。

2人はあいさつを済ませホーブ剣槍店をあとにした。


(あぁ、喉が渇いた。ただの挨拶まわりとは言っても、人生初めての営業だったもんな。親父も若い頃は飛び込み営業してたって言うから、こんなもんじゃなかったんだろうなぁ。)

そう思った草太はサブリナとともに喫茶店に入った。


アイスティーを一口のみ、「ふぅ」と一息をつく。

「今日は疲れたなぁ。顔合わせだけでもこんなに疲れるなんて思わなかったよ」

「そうですね。でもソウタさんが一緒に来てくれてよかったです!やっぱり頼りになります!」

サブリナに褒められ草太はややニヤけつつ、ドーナツを口に運ぼうとした瞬間、背後から殺気を感じた。

振り向くとそこにはなぜかレベッカがいた。

レベッカは死んだ魚のような目で草太を見下ろしている。

「ねぇ?営業してるんじゃなかったの?なんでサブリナと喫茶店でお茶を飲んでいるの?どうして?説明しなさいよ。

ねぇ?私、ソウタのこと、信じてるのよ?」

草太は驚いて立ち上がった。

「え、営業が終わって休憩しているだけだよ。」

サブリナも慌ててレベッカに弁明する。

「そ、そうです!先輩!誓ってやましいことはありません!」

「本当にそうかしら?」

二人は必死に弁明をし、この日の営業を終えたのであった。

今回のエピソードで突然出てきた『カウカの厄災』についてですが、私の別作品『少年王子ペテルの冒険譚〜今日も街と友達を守ります!!』のあらすじにちょっとだけ出てきます。

この小説はあくまでサッカークラブ起業物語ですのであまり深く言及する予定はありません。

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