村の風習と結婚とレベッカの思い
「さて、監査役の件だけど俺たちとは距離がある人に頼む必要があるんだ。」
草太は朝食後、リビングでレベッカとサブリナに説明をした。
ここでサブリナが手を挙げた。
「ソウタさん、距離がある人というのはあまり親しくない人、ということですか?それはどうしてですか?」
「これはヨンソンさんから教えてもらったんだけど、客観的に理事の俺や副理事のレベッカがACシルクを私利私欲に使ってないかチェックするのが仕事なんだ。だから、あまりに親しかったらそのチェックが機能しなくなる可能性がある。それが企業としては信用を得られないらしい。」
ここでレベッカも説明をする。
「サブリナ、監査役は慎重に選ぶ必要があるの。
だからこそ、あなたもこの前参加した、いつかのBBQでの人脈作りが生きてくる、ということなのよ。」
「ソウタさんも先輩もすごいです!勉強になります!」
「そんなことないよ!」
サブリナに褒められ少しデレた草太であったが、レベッカがジッと草太を見つめてくる。
レベッカの唇がゆっくりと動く。
―う・わ・き?―
草太は咳払いをした。
「実は……すでにナムを通じて『スノリマ商会』のサンディさんとアポイントメントを取っているんだ。夕方で約束をしているから3人で行こう。」
3人、というワードにサブリナは驚いた。
「私も良いんですか?」
そこにレベッカはサブリナにこう返した。
「あなたは、ACシルクの起業メンバーよ。もう戦いは始まってるの」
そうして草太、レベッカとサブリナは夕方前に『スノリマ商会』を訪れることになった。
―夕方5時前―
3人は村の中心部にある『スノリマ商会』の正門前に立った。
レンガ造りで作られた重厚な雰囲気を醸し出している建物だ。
草太は「ごめん被ります」と声をかけた。
すると、1人の若い男が門を開けた。
男は草太に向け、鋭い眼光を向ける。
その時、草太は何かにはっと気づき、腰を低くして男に向けて口を開いた。
「……お控えなすって。」
すると、若い男はなおも眼光鋭く口を開く。
「そちらからお控えなすって。」
「いえ。それでは筋が通りません。お兄さんからお控えなすって。」
「再三のお言葉、ありがとうさんでござんす。では逆意とは存じますが、手前、これにて控えさしていただきます。」
さらに草太は腰を低くして、眼光も男と同様、もしくはそれ以上に鋭くする。
「さっそくお控え下さってありがとうさんでござんす。
では、手前より発します。
陰ながらの仁義、失礼でござんす。
手前、生国は関東と発します。関東は東京の品川。姓は戸河内、名を草太と申します。
稼業駆け出しの未熟者ゆえ、お見知りの上、万端よろしくお願い申します。」
そうして若い男も返す。
「丁寧なるお言葉、ありがとうでござんす。
手前、スノリマ商会の若い者。名はフィルジルと申します。
さ、頭をお上げになすって。」
その言葉にピクリ、と、草太は僅かに反応する。
「いえ、それでは仁義が通りません。お先にお上げなすって。」
するとフィルジルもピクリ、と反応した。
「それでは、ご一緒に。」
「「ありがとうございます。」」
2人は同時に頭を上げた。
「……先輩、今のは何ですか?」サブリナはわけが全く分からずレベッカに声を掛けるが、レベッカも「私も全く意味が分からないわ。」と額から汗を流しつつ、戸惑うのみであった。
草太は何事もなかったかのように「さぁ、入ろう」と2人に声をかけ、スノリマ商会のレンが作りの建物に入った。
3人は2階の客間に案内をされ、革張りのソファに座った。
「……ソウタさん、緊張します。」と不安がるサブリナ。
そんなサブリナに草太は「大丈夫」とだけ、返した。
すると、コンコンとドアがノックされサンディとアレッシアが入ってきた。
「ソウタくん、レベッカさん、BBQ大会以来だね。お久しぶり。」
「お久しぶりです。それから私とレベッカの隣におりますのは、営業として雇うことになりましたサブリナです。この子もBBQに参加しておりました。」
「グランコ山オレンジ農園の次女のサブリナです。よろしくお願いします。」
「はい、よろしく。しかしソウタくん。若い美女二人に囲まれて起業だなんて羨ましいなぁ」
「はは。これからは男性もどんどん入っていただくつもりです。男子サッカークラブですしね。」
レベッカはこのやり取りだけで、すでに草太とサンディとの間で微妙な駆け引きが始まっていることを実感した。
サンディの『美女二人に囲まれて羨ましい』の発言に草太はうまくかわした格好だ。
おそらく、サンディの真意は『初期メンバーの部下が女だけで大丈夫か?』という疑問にある、とレベッカは見抜いたのだ。
草太がサンディに口を開く。
「それでサンディさん、今回お願いをしたいのは事前にお伝えいたしております通り、監査役の方をご紹介いただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「それなんだけどね、紹介できなくはないけれど、ちょっと言いにくいのだけれど、少し懸念点があってだね。」
「懸念点ですか……。それはどこにお持ちでしょうか?改善のためにも、ぜひ教えてください。」
サンディは実に自分からは言いにくそうに、妻のアレッシアをちらりと見た。
するとアレッシアが草太に向け、言い放った。
「単刀直入に言うけど、恋人との起業ってどうかしら?私、レベッカさんには言ったことがあるけど、それでは若い世代は説得できても、交渉相手の年代が上がれば上がるほどビジネス上での説得力はなくなっていくわよ?
ソウタさんはこれからスポンサー企業を探すことになると思うけど、例えば、ウチのスノリマ商会では最終判断は夫のサンディではなく、会長である義父、つまり夫の実父がするの。
夫は実の長男だけど、村の実権はこの世代が握ってる。
ソウタさんは異国の首都ご出身と聞いているけど、都会とこのシルク村の差をまだ理解できていないのではないかしら?」
(……なるほど。そう来たか。)
草太もうすうすは気づいていた。このアウロラ王国上下水道にみられる生活インフラや交通手段は魔法の力で社会を動かしているようだが、人々の考えや社会の風習は日本では明治時代レベルであると。
(であれば当然、レベッカと結婚して出直せと言うことだな……)
隣に座っているレベッカに目を向けると、レベッカは顔を下に向けていた。
草太はまず、アレッシアに感謝を伝えることにした。
「奥様。ご警告、痛み入ります。ありがとうございます。
確かに私はこの村に来て半年もたっておりません。
そのため、シルク村の風習にいち早く適応できるよう一層の努力をいたします。」
「そうね。おせっかいだけど、早めに結婚するべきだわ。あとは、夫が話を続けます。」
急に話を振られたサンディは草太に顔を向けなおす。
「まあ、今すぐ結婚したほうがいいよ、と言うわけではないからさ。
それで監査役のことだね、ソウタ君もレベッカさんもサブリナさんもすごく若いから監査役には村民、とりわけ村の実権を握っている中年世代以上の信用を持っている人物が好ましい。
去年までスノリマ商会の役員だった人物を紹介しようと思うけど、いいかな。55歳で君とは親子ほどの年齢差があるから、人選としては適任だと思うよ。」
そうして草太たちは一週間後、レヴィ―という人物をスノリマ商会から紹介を受ける運びとなった。
帰り道、3人は一緒にナンシー宅へ帰ったがその道中レベッカは表情こそ平静を保っていたが内面は非常に高揚していた。
(ついに村の有力者がソウタに結婚の忠告をしたわ。早く外堀を埋めないとね……)
思わず「ふふふ」と笑うレベッカ。
「どうしたんですか?先輩?」
「サッカークラブ作り、面白くなってきたわね。」
草太はそんな二人を見て、「レヴィーさん、どんな人物か今から心配だよ」と嘆息したのであった。




