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ギルド逃亡の少女、ACシルクの仲間に加わる

法人印の登録を終えた草太とレベッカは2人で手をつなぎながら『ヨンソン司法書士事務所』へ戻った。

事務所ではヨンソンが書類に万年筆を走らせていた。

「お帰り。もうだいたいの書類は作り終えたよ。あとは委任状の仕上げがまだ残ってるけどね」

草太は首を縦に振りヨンソンに返事をした。

「はい。監査役をお願いしないといけません。

それでなんですけど、ヨンソンさん。監査役に就任していただけませんか?」

「残念だけど、僕は司法書士としてクライアントとは適切な距離を取りたい主義なんだ。監査役は司法書士としてソウタくんや、レベッカの内部に足を踏み込みすぎていると思ってるんだよ」

草太は顎に手を添えながら考えた。

20歳である草太とレベッカにとって42歳のベテラン司法書士であるヨンソンが監査役に就任することは安心感があった。

しかし、断られた以上別の人物を探し出さなければならない。

「かしこまりました。ヨンソンさん、無茶なお願いをしました。」

「気にすることはないよ。あとは監査の人選くらいだから、ゆっくりと探しておいで。」

草太とレベッカは『ヨンソン司法書士事務所』を後にした。

2人は近くの喫茶店により、紅茶とケーキを注文した。

レベッカがケーキにフォークを突き刺しつつぼやく。

「監査ねぇ……私たちとは距離がある人に頼むって、ソウタ、なかなか難しいわね」

「うん。だからこそ、この前のBBQに行った経験が生きると思うんだ。

スノリマ商会のサンディさんやソラタオル製作所のブルーノさんと繋がりができてる。

その人たちに紹介してもらう手がある。2人は地元の有力者だし、村の理解を得るという点でも有利なはずだよ」

「サンディさん……」

その時レベッカは、BBQ会場にてサンディの妻であるアレッシアから言われた言葉を思い出した。


【まじめな話、彼氏と起業するなら早めに結婚するべきね。まだ私たちのような20代相手なら恋人同士で起業という話も通用するけど、ビジネス相手の年齢が上がれば上がるほど、今の関係は通用しなくなるよ。この村の空気、シルク村に住むなら嫌でも思い知らされるよ。】


(私はソウタのことを愛してる。でも、恋人同士では駄目なの?会社のために結婚をしてもいいものなの?

でももう私も20歳、シルク村では適齢期なのよね……。)

「ねぇ、ソウタ、聞いて。この前サンディさんの奥さんから言われたんだけど……」

その時、カラン、という音ともに喫茶店の扉が開いた。

何気に目をそちらに向けると、若い女性が一人フラフラとした足取りで入ってきた。

始めは逆光で誰かよくわからなかったが、よく見るとその人物はサブリナであった。

サブリナはギルド受付嬢の制服を着たままであり、机に突っ伏した。

喫茶店の店員が声をかけても反応しない。

草太がレベッカに声をかける。

「あの娘、レベッカの後輩のサブリナだよね?」

「ギルド受付嬢時代のね。ちょっと話しかけるわ」

レベッカはサブリナが座る机に近寄り、「サブリナ」と声をかけた。しかし反応がない。

レベッカは声をかけながら肩を揺すった。

すると、サブリナは顔を上げ、レベッカの顔を見た。

「……レベッカ先輩?」

サブリナの目は真っ赤に腫れ上がっていた。

そしてサブリナはレベッカを認識するなり、大声で泣き始めた。

突然の事態にレベッカも草太も驚いた。

レベッカはサブリナに話しかける。

「どうしたのよ?突然。しかも受付嬢の制服のまま。この時間はまだ勤務時間中よ?何があったの?」

「先輩……ごめんなさい。ごめんなさい。」

サブリナの泣き声は止まらない。

草太はレベッカに声をかけた。

「レベッカ、ナンシーさんの家に移ろう。ここでは店の迷惑だよ。」

「そうね……」

草太は店の会計を支払いつつ、レベッカはサブリナをなだめる。


そうして3人は店を出た。

居候先であるナンシー宅へ向かっている間もサブリナは「先輩、ごめんなさい」との言葉を繰り返し、泣いていた。


家に入るとナンシーが出てきたが、3人の様子を見るなり何も言わず紅茶の用意を始めた。

リビングのテーブルに腰を掛ける3人の前に、紅茶とクッキーが用意された。

「ありがとうございます。ナンシーさん。」

「いいのよ。ソウタ。私は部屋にいるわね。」

そう言い、ナンシーは自室へ入った。


レベッカはサブリナに話しかける。

「ねぇ、何があったの?話せる?」

「キャサリン先輩から聞いたんです。

レベッカ先輩、ギルド受付嬢は自主退職じゃなくて、フローラ係長からクビにされてたこと知りませんでした。しかも原因は、私が安易に先輩が結婚するかもって係長がいる前で言ったばかりに……ごめんなさい」

「もうその話は終わったことよ。でも、それだけじゃないんでしょ?」

サブリナの目からは大粒の涙がポロポロと溢れ出した。

「先輩がいなくなった日から少しずつ、係長の私に対する態度が変わってきました。先輩がしていた仕事を説明なしに丸投げされて……質問をしても無視をするか、怒鳴るんです。

今日もギルドで冒険者さんたちの前で書類の束を投げつけられながら怒鳴られて……

でも、職員はだれも話しかけてくれないんです。まるで私を無視するかのように……」

草太は手が震えた。

「中学を卒業したばかりの女の子相手に……!

どう考えてもパワハラじゃないか……!」

サブリナは顔を俯いたまま話を続けた。

「パワハラというものは知りませんが、私、いても立ってもいられずギルドから逃げ出してしまったんです……もうクビだと思います。」

さらにサブリナは続けた。

「先輩、どうしたら良いですか?もう分からなくて」

「サブリナ、今夜はこの家の私の部屋に泊まりなさい。服は私のを貸してあげるわ。てか、もうシャワーを浴びて寝なさい」


その夜、草太の部屋にて、草太とレベッカは、サブリナについて話し合った。

「なぁ、レベッカ。サブリナをうちで雇うと思うんだけど、どうだろう?」

「それは……理事であるソウタに任せるわ。でも、給料払えるの?」

「当分の間は難しいな。籍だけ在籍という形にしても良いかもしれない。幸いサブリナには実家があるんだし」

「ソウタ、女に優しすぎよ?恋人として心配なんですけど。」

「そんなことないよ。俺が愛してるのはレベッカだけだよ。」

「ふふふ。嬉しい。」


―翌朝―

レベッカとナンシーが用意した朝食を4人で食べている時に草太がサブリナに話しかけた。

「サブリナ、聞いていると思うんだけど、レベッカと一緒にサッカークラブを作るんだ。」

「はい……知っています。」

「君さえよければ、うちで営業として働かないか?」

サブリナは驚いた。

「良いんですか?こんな……受付嬢の仕事を放り出した私なんか……」

「俺は君が本来持っている前向きな姿勢を評価しているんだ。受付嬢としての接客スキルと事務スキルも生きるはずだよ。

それに、君の上司がやっていたことは、俺の母国だと絶対パワハラだよ。逃げて正解だ」

レベッカも草太に続いた。

「このアウロラ王国にパワハラなんて言葉はなくて、昨日ソウタに教えてもらったわ。

取り敢えずサブリナを傷つけたギルドという組織から離れてうちに来なさい。退職届なんて郵便で十分よ」

サブリナは両手で顔を隠し、泣きながら

「ありがとうございます。これからお世話になります。」と2人に述べた。


こうしてサブリナはACシルクの営業として内定した。


草太は草太で、(さて。監査役問題を進めないと)と、頭を切り替えたのであった。

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