社交場BBQで女子に褒められたら彼女に制裁された件
BBQ会場では既に火起こしのチームと食材を用意するチームに別れていた。
「ソウタ、魚を捌いたことはあるか?」
ナムは草太に聞いてきたが、東京・品川生まれ品川育ちの草太は魚をさばいた経験がない。
小学生の頃、今は亡き祖父と釣船に乗ったことがある程度で、魚はスーパーで買うものであり、さらに切り身を買うものだと思っていた。
「いや……捌いたことがないんだ」
「そうか。シルク村で生きる男の必須スキルだから、覚えておいて損はないぞ。あ、レベッカはあちらの女性陣たちと野菜の用意をしてくれ」
レベッカは『あちらの女性陣たち』の方向に顔を向けたが、一瞬ためらった。
そこにはサブリナとマリーナも加わっていたからだ。
それでも、なぜ自分がためらう必要があるのか―
そう考え直したレベッカは
「ソウタ、また後でね」と声をかけ女性陣たちの輪に加わった。
ナムはカゴから一匹の魚を取り出した。
「これは今朝俺が獲ったばかりのスズキという魚だ。4匹ほど市場に売らず持ってきた」
釣りや魚料理に詳しくない草太でもスズキという魚事態は知っていた。
(そうか。異世界のこの村でもスズキはいるんだ)
ナムは続ける。
「今日はそんなに難しいことはしない。鱗を取ってヒレとエラと内臓を取って、飾り包丁をいれるだけだ。一匹手本を見せるから見ててくれ」
ナムは包丁一本で素早くスズキの鱗を取り、内臓とエラを取り除いた。
そして最後にヒレを取り除き、飾り包丁を入れて一匹仕上げた。
ナムは取り出した内臓やエラを海鳥たちに向かって放り投げる。
海鳥たちの内臓争奪戦が始まった。
(たぶん日本でやったら怒られるやつだ。でもここでは郷入っては郷に従えってやつかな)
「残り3匹。やってみるよ。」
一方その頃、レベッカは女性たちが野菜を切っているグループに入った。
とは言っても、野菜を切っているのは10代くらいの少女ばかりで(この中にサブリナもいる)、20代くらいの女性たちは会話に花を咲かせていた。
マリーナもオレンジ農園の娘として女性内での人脈作りを意識してか会話に加わっている。
レベッカの姿を確認したマリーナはレベッカに向けて手を振った。
「こちら、最近まで私の妹のサブリナが働いているシルク村ギルドで働いていたレベッカさん。
彼氏とサッカークラブを作るんですって」
レベッカは女性たちに頭を下げた。
「レベッカと申します。バンガ町出身の20歳です。今後とも宜しくお願いします」
女性たちはレベッカに注目して話を続ける。
「へえ?サッカー?男はあれ、好きよねぇ。何がいいのかわからないんだけど」
「私が首都にいた時、見に行ったことがあるけど選手はイケメンばかりよ。……小声で言うけど、この村の男達とは段違い」
「え?まじ?ちょっとレベッカさん、頑張って!」
その時、『スノリマ商会』サンディの妻であるアレッシアがビールを片手にやってきた。
「まじめな話、彼氏と起業するなら早めに結婚するべきね。まだ私たちのような20代相手なら恋人同士で起業という話も通用するけど、ビジネス相手の年齢が上がれば上がるほど、今の関係は通用しなくなるよ。この村の空気、シルク村に住むなら嫌でも思い知らされるよ。」
それからしばらくして、スズキと牛肉と野菜の準備が終わり、複数用意していたグリルで焼かれていく。
この異世界に草太おなじみの焼肉のタレは存在しない。
シンプルに塩とハーブでの味付けだ。
また、スズキにはレモン汁をかけている。
サンディはトングを常に持ち、牛肉を次々と焼いていく。
それも日本のBBQのような薄切り肉ではない。
1枚300gはありそうな厚い肉を豪勢に焼いていく。
本人が言うには「BBQで肉を焼くときこそが男の腕の見せ所」だそうだ。
ナムはそっと草太に耳打ちした。
「牛肉用のトングはずっと彼に持たせておけば良い。彼はトングを取られると不機嫌になるんだ。
ただ、魚と野菜の焼き加減には興味がないので、ソウタはスズキの焼き加減を見ててくれ」
ソウタはスズキをじっくりと焼き上げ、レベッカと共に頬張った。
シンプルな味付けであったが、身はホクホクとしていて上手い。
そうしているとサンディは草太を呼び寄せ
「草太とレベッカの肉が焼けたぞ!」と300gはありそうなステーキ肉をハサミで豪快に切り、皿に乗せた。
「うん!絶妙な火加減です!うまいです!」と草太が感想を漏らすとサンディは得意げな顔をした。
「俺は食うより肉を焼き続けながらビールを飲み、皆に配る時が一番楽しいんだ。」
すると、草太の皿に焼き椎茸とニンジンが乗せられた。
「どうぞ!ソウタさん!私が準備した椎茸とニンジンです!」
椎茸とニンジンをのせたのは、いつの間にか隣にいたサブリナだ。
「あ、ありがとう。いただくね。」
「いいえ、どういたしまして。でも、本当、レベッカ先輩の彼氏だけあってかっこいいですよね?冒険者ギルドの男たちにない知性?を感じます〜」
顔がニヤつく草太。その瞬間、ズン!と足に衝撃が走った。
レベッカがまたもやサンダルごと足を踏みつけたのだ。しかもグリグリと踏み続ける。
草太はレベッカの顔を見ると、かすかにレベッカの口が動く。
『う・わ・き?』そんな言葉の口の動き方のような気がした。
冷や汗が出る草太は思わず固まる。
レベッカはサブリナへけん制の言葉を投げかけた。
「でもサブリナ、あんたギルドの制服がかわいいから就職したんでしょ?
筋肉タイプの男が嫌なら、確かあんたに言い寄ってた新人冒険者いたでしょ。
なかなか可愛いタイプの魔道士だったからあの男にしときなさいよ」
「うーん。あの人、顔はいいんですけどなんか刺さるものがないっていうか、なんか違うんですよね。
あと、私は結婚してもシルク村離れるつもりは無いですし」
するとレベッカは草太の右腕に抱きつく。
「なら、結婚はあきらめなさい。あのタイプの男、シルク村にはいないし冒険者にも珍しいタイプなんだから」
そういうとレベッカは俺を引っ張り別のグリルに連れて行った。
「先輩、またギルドに遊びに来てくださいね」
と後ろからサブリナがレベッカが声を掛けるが、
(私をクビにしたフローラがいるのに誰が行こうと思うか)と思い無視をした。
☆☆☆
帰り道、草太とレベッカは手を繋いでナンシー宅へ向けて歩いていた。
「ソウタ、浮気しないでよね」
「う、浮気?そんなことしないよ」
「本当?やけにサブリナにデレデレしてたじゃない」
「本当だよ」
「なら証明して」
そう言うなり、レベッカは瞳を閉じて「ん……」と顔を草太に向ける。
草太は(ここ、外だぞ?)と思いつつ。辺りを見渡す。
幸い人はいなかった。
そうして草太は夕暮れの中、レベッカにキスをしたのであった。




