第六章「存在しないボケが笑っている」
──夜。ツッコミギルド「常識の楯」・作戦室。
地図に並ぶ赤い点。それは各地で確認された“高濃度ボケエネルギー”の発生地点。
そして、その中心にある一つの地点──“存在しない村”。
アデル
「ハルキさん、次の目的地は“ナニモナイ村”です!」
ハルキ
「名前からして情報ゼロなんだけど!? 村に“ない”って言っちゃってるじゃん!?」
ギルドマスター(ピンク熊)
「この村、地図にはあるのに誰も行ったことがない。しかも、そこから“ツッコミ不能”の波動が観測されている」
ハルキ
「“ツッコミ不能”ってなんだよ!? そんなの、この世界では最大級の脅威だろ!!」
アデル
「もしかして、“無言のボケ”が……」
ハルキ
「無言でボケるとか、最悪だよ!? ツッコむ相手すら見えないってどうすりゃいいんだよ!!」
*
──翌日。ナニモナイ村の前。
ハルキとアデルが立っていたが、そこには“何も”なかった。
アデル
「……何も、ないですね」
ハルキ
「マジでなにもねぇーーー!! ちょっと看板とか、空き地とか、せめて痕跡くれよ!!」
しかし次の瞬間、空間が“ズレる”。
ハルキの視界が、ギュンと引き伸ばされ──
“何かに見られている”感覚。
ハルキ
(なんだ……!? 空間が……妙に、静かだ……)
アデル
「来ます……! “概念型ボケ”です!!」
空間に、ぽつんと浮かび上がる“笑い声の記号”。
「w」
ハルキ
「うわっ!? 文字だけ!? ボケが抽象画になってんだけど!!」
そして、その“w”が空中で膨れ上がる。
「www」→「wwwwwwwwwwwwww」
アデル
「きゃっ!! 笑いの波動が脳に直接ッ……! 意識が、揺らされ……!」
ハルキ
「ダメだこりゃ!! こんなの、“存在”がボケてるだけじゃねぇ、世界そのものが“草”になりかけてる!!」
木札が青く光る。
謎の声(静かに)
「この敵に有効な技はただ一つ。“無言ツッコミ”──思考そのものをツッコミに変える力」
ハルキ
(まさかの、沈黙で戦えってのか!? でも──)
目を閉じ、深く息を吸う。
次の瞬間、ハルキの目が鋭く光る。
──思考の中のツッコミ、炸裂。
「“w”が多けりゃ笑いになると思うなよ!!
内容ゼロで笑わせようとすんな!!
中身をくれ、中身を!!」
その“念ツッコミ”が、“草”を焼き払うように空間に浸透していく。
空間がねじれ、そして──
ボケが“声”を発した。
???
「……お前、見えるのか」
ハルキ
「今はな。お前が“黙って笑わせた気”になった瞬間から、な」
ゆっくりと姿を現す影──
それは、人のようで人でない、“笑いの亡霊”。
かつて大量のボケを一人で担い、ツッコミ不在のまま過剰消費され、
存在が“ギャグそのもの”になった哀しき者。
???
「俺は……“ノータイトル”……。名前を得る前に、笑いで崩れた……」
ハルキ
「……笑いの犠牲者ってわけか。
でもな、“笑い”ってのは、ちゃんと“受け手”がいてこそなんだよ。
一人で完結するもんじゃねぇ」
静かに、手を掲げる。
ハルキ
「いくぞ──“共感型ツッコミ・ラストライン”!!」
空間を真っ二つに裂くようなツッコミが炸裂。
それは“無言の笑い”の芯を突き──
ノータイトル
「……ありがとう。やっと、“誰かに拾われた”気がする」
彼の姿が、風に溶けて消えていった。
ハルキ
(……なんだよ……意外と、哀しいじゃねぇか)
アデル(涙目)
「笑いって……こんなに、深かったんですね……」
ハルキ
「いやお前らがボケすぎなんだよ!!」
*
そして夜。ギルドに帰ったハルキの前に、一枚の封筒が届く。
──宛名は、「常識の使徒へ」。
差出人は、「ボケ魔王直属・最終兵器」。
次なる戦いの扉が、音を立てて開かれる──
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次回――
第七章「ツッコミ封印令」
世界に広がる、ボケの統制。
ツッコミが禁止された時、常識は沈黙する。