第五章「比喩とツッコミは紙一重」
メタファー公爵がゆっくりと着地したその瞬間、周囲の空気が変わった。
気温が下がったわけでも、光が消えたわけでもない。
ただ、言葉が“重く”なった。
ハルキ
(な、なんだこの雰囲気……言葉に油でも塗ってるのか!?)
メタファー公爵は、深紅のスーツに細身の杖。
口元に微笑を浮かべながら、一歩ずつ近づいてくる。
メタファー公爵
「風が、無垢なる魂の鼓動を震わせている……さて、常識の使徒よ。我と踊ろうか、“言葉の迷宮”を」
ハルキ
「いきなりポエムかよ!! 会話が成立する気がしねぇ!!」
アデル(小声)
「ハルキさん、彼の能力……“メタファリズム”。比喩によって現実をゆがめる、超高難度ボケです!」
ハルキ
「比喩が現実を歪めたら、それもうファンタジーの範囲超えてんだよ!! てか“高難度ボケ”って言い方やめろ!!」
そして、メタファー公爵の指先が空をなぞる。
メタファー公爵
「“常識”とは、魂に縛られた鎖。ボケはその鎖を外す自由の刃。さあ、刃を向けよ。己の心に──」
すると、ハルキの足元の石畳が“語り出す”。
石畳
「僕たち……ずっと踏まれてきたんだ……でもね、本当は、空を歩きたかったんだ……」
ハルキ
「物に感情を与えんなぁぁぁぁ!!!」
一歩動くごとに、周囲の物体が感傷的になっていく。
花壇の花が涙を流し、看板が人生を語り、猫が「愛とはなにか」と語り出す。
ハルキ
「うわっ! 猫が哲学してる!! どこまで世界がボケに侵されてんだよ!!」
メタファー公爵は満足げに頷く。
メタファー公爵
「どうだ、常識の使徒よ。我が“詩的ボケ空間”……この世界では、お前の言葉すら比喩となる!」
アデル
「ハルキさん、気をつけて! 今ツッコむと、こっちまでポエマーになります!」
ハルキ
「ツッコミすら感染すんの!? 危険すぎるだろこの世界!!」
だが、ハルキの木札が、今までにない“赤”の光を放つ。
謎の声(深く、重く)
「――真なるツッコミを手に入れし者よ。解き放て。“ツッコミ・リフレクション”──ボケを返す、言葉の盾を」
ハルキ
「ついにカウンター技来たか……よし、俺も言葉で勝負する!!」
彼は一歩前に出る。
言葉がすでに、戦いの武器になっていることを悟ったのだ。
ハルキ
「“常識”はな、鎖なんかじゃねぇ。暴走する言葉を止める、命綱なんだよ!!」
すると、空間が振動する。
空気が切り替わり、エモスフィアの効果が少しずつ消えていく。
メタファー公爵
「……面白い。ならば、その命綱……切ってみせよう」
次の瞬間、彼は大量の比喩を連射する。
メタファー公爵
「怒りは焚き火の種、希望は砂上の楼閣、そして──お前の存在は“消しゴムに忘れられたカス”だ!!」
ハルキ
「比喩がいちいち刺さるわ!! けどな──返させてもらう!!」
ハルキ
「“お前の言葉、哲学風味なだけで中身スカスカだぞ!!”」
ツッコミ・リフレクション!!!
ボケが跳ね返り、公爵自身に突き刺さる!
メタファー公爵
「うぐっ……な、なるほど……これは……! “比喩返しの刑”……ッ!」
言葉に押しつぶされるように、彼は崩れ落ちる。
詩的な最期の台詞を残して──
メタファー公爵
「……ツッコミとは、語彙力の刃……覚えておこう……」
そして彼は、夕陽と共に消えた。
アデル
「すごい……ボケ四天王の一人を撃退しましたね!」
ハルキ
「これ、“世界を救う”っていうより、“世界から疲弊させられる”側じゃねぇのか……?」
しかし、ハルキはまだ知らなかった。
次に現れる“ボケ”が──
ただのギャグではなく、“存在”そのものを揺るがす異常存在だということを。
*
次回――
第六章「存在しないボケが笑っている」
次元を越えて迫る“無言のボケ”。
ツッコミの声が、世界の境界線を揺らす。