第二章︰ボケは剣より強し
ハルキ(心の声)
(この世界……全体的におかしい。魔法? 剣? 勇者? そんなのより──ツッコミだ。ボケが蔓延しすぎて、常識が死んでる!)
謎の声(頭の中に響く)
「――汝、選ばれし常識の使徒よ。『ツッコミ』という名の剣を掲げ、混沌を正せ。」
ハルキ
「うるせぇ!!」
突如、光に包まれるハルキ。
次の瞬間、彼の手には「ツッコミ職登録証」と書かれた木札が握られていた。
ハルキ
「……なにこれ。」
木札の裏には、ひとつの場所が示されていた。
“ツッコミギルド『常識の楯』──街はずれ、ピンクの建物が目印”
ハルキ
(こいつら、ギャグに対する罪悪感ってもんがねぇのか!?)
彼は歩き出した。
ここが異世界なら、俺が非常識をぶっ叩いてやる。
……ツッコミで。
陽が傾きかけた異世界の街。
建物の一つが、場違いなほど派手に輝いていた。
ピンク色の壁、やたらかわいいハートの看板。
その名も「ツッコミギルド・常識の楯」。
ハルキ
「いや、どう見てもキャバクラだろコレ!!」
建物の中からは、ハードなシンセ音とともに「ツッコミ最高!」という謎の合唱が聞こえてくる。
ハルキ
(……頼むから、これが“普通”だって言わないでくれよな)
扉を開けると、そこには──
――異世界、ツッコミ職ギルド・「常識の楯」。
ピンク色のクマの着ぐるみが机で事務作業している、謎の光景だった。
ハルキ
(ギルドって、もっと…こう、木の机と酒の臭いと、謎の依頼書が山積みの…みたいな雰囲気じゃないのか!?)
(なにこのピンク熊!? 目がうつろで怖いんだけど!?)
ピンク熊(淡々と)
「新規登録ですね。種族と職業、あと昨日の晩ご飯を教えてください。」
ハルキ
「え? いや、そこは“名前と年齢”じゃないの? あと晩ご飯いらなくない!?」
ピンク熊
「晩ご飯が魚だった方には魚族専用特典があります。」
ハルキ
「魚族!? 魚、食べたらアウトなの!? 共食い!? ってか俺、人間! 職業は……ツッコミ、らしい……。」
ピンク熊
「はい、確認しました。あなたは“世界最後の常識人”であり、ボケ耐性Sランク。おめでとうございます。」
ハルキ
「褒められてるのに全然嬉しくねぇ!」
*
数分後、ハルキはギルドの奥へと案内された。
案内人は、アデルという少女。
年の頃は14~15歳、見た目は清楚な修道女風だが……
アデル
「お兄さん、ツッコミ職ってすごいですよね! だって、ボケと戦って一発ギャグで世界を救うんですもん!」
ハルキ
「どんな誤解!? ギャグじゃなくてツッコミ! それにギャグで救うの、ボケ側の役目じゃないのか!?」
アデル(にこにこ)
「えへへ、お兄さん、ツッコミうまいですね~。私、そういう男の人……好きです!」
ハルキ
(なんかもう、俺の人生がボケに包囲されてる気がする……)
その後、アデルの案内で「ツッコミ試練場」へ。
そこでは、ツッコミ職の能力を磨くための模擬戦が行われていた。
が、その訓練相手が……どう見ても「全身タイツでフラメンコを踊るおじさん」だった。
ハルキ
「……これは、何の訓練?」
アデル
「“反射的ツッコミ反応”の鍛錬です!このおじさんの行動に即ツッコミできないと、世界が滅びます!」
ハルキ
「いやもう滅びていいよこの世界!」
そして始まる訓練。
だがその最中──
突如、ギルドの天井を破って、黒い渦が現れる。
その中心から現れたのは、“ボケ魔将軍・バカデカハット卿”。
帽子がデカい。それだけで既にツッコミ対象。
バカデカハット卿
「名を聞いて驚け! 我が名は──バカデカハット卿! 我が帽子こそ、ボケの象徴なり!」
ハルキ
「名前で説明しちゃったよ!? そして帽子でかすぎてドア通れないのお前だけだろ!!」
彼の出現に、アデルが震える。
アデル
「ハルキさん、彼はボケ魔王軍の幹部……ギルドを潰しに来たんです!」
ハルキ
「ちょっと待てよ!? 世界観、急に進行したな!? ボケってそんなに脅威なの!? そして何よりこの状況を俺が全部拾うのかよ!?」
次回――
第三章「帽子は語る、世界のボケを」
ツッコミが世界を救う。
そして、そのツッコミは──休む暇がない!