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5、貴族は非常に面倒臭い


 早速、ルカはデルロイ・スカイラーを狙った組織のことを調べ始めた。


 天眼を使えば簡単に事情がわかるのだが、ロイは無暗に人に対して天眼を使わない。

 その上、気に食わない人物を積極的に調べようとはしない部分があった。


 理由は単純明快。不愉快になるからだ。

 当然、ルカが行き詰まれば天眼も使うが、優秀な従者はそんなものに頼らずとも半日でロイが欲しがる情報をどこからともなく手に入れて来る。


 そういった面でも、絶対の信頼を向けてくるルカのことがロイも大事だった。


「と、いうわけで。先代コルヴィス公爵当主の妻アナベル様が、この町の管理権を得るためにデルロイ様を狙ったようですね」

「……面倒なことになった。念のため聞いておくけれど、我が愛しの姉上は無関係だね?」

「はい。先代が亡くなられた後、アナベル様は隠居したはずですが水面下で野心を燃やしていたようですね。現当主ウィルバート様はご存じないかと」

「まぁ、ウィルバート公が知っていたらこんな事件は起きていないだろうね。彼は姉上を安心して任せられる素晴らしい男性だから」


 ロイの二番目の姉ジュリアは数年前にコルヴィス公爵家に嫁いでおり、しばらく会えていないが情報はよく耳に入ってきていた。


 先代当主の妻アナベルの厄介な性格も聞き及んでおり、念のため警戒をしていたのだ。

 ジュリアに対しやれ「子どもはまだか」だの「息子を産まなければ意味がない」だのと圧力をかけるなど、普段から些細な嫌がらせや嫌味が多いという。


 その度に夫である当主ウィルバートが庇ってくれているらしいが、元来ほんわかとしたジュリアには特別いびられている自覚がないというので、聞いた時には思わずロイも笑ってしまったものだ。


 ウィルバートのいないところではもっと嫌がらせがあるかもしれないと思うと心配ではあるのだが、コルヴィス家の使用人たちはみながジュリアの味方だそうなので彼らを信じることにしている。


 なお当のジュリアからの手紙では「愛するウィルバートと一緒に暮らせるし、屋敷の人たちもとっても優しいわ。結婚して本当に良かった!」とあったので、本気で毎日幸せだと思っているらしい。

 彼女でなければコルヴィス家の嫁は務まらなかったかもしれない。


 それはさておき、以前から厄介な人物だと認識していたアナベルがとうとう度を越した行動をとった。

 ウィルバートやジュリアには悪いが、アナベルの罪を暴かなければならないというわけだ。


 むしろやっと追い出すことができそうでロイとしては喜ばしいことではあるのだが。


「下手をすればコルヴィス家と敵対関係になってしまう。少なくとも末っ子の僕にできることはほとんどないね。さすがに拳で解決するわけにもいかないお相手だ」

「アナベル様は女性ですしね」

「もちろん女性に振るう拳は持ち合わせていないけれども、それ以前に貴族というのは非常に面倒なのだよ、ルカ」


 いくらロイの実家が力を持ったスカイラー公爵家でも、同じ公爵家であるコルヴィス家にはおいそれと手を出せない。

 ましてや五人兄弟の末っ子であり、暴れん坊で血紅の公子という異名を持つデルロイが出て行けば、むしろ濡れ衣を着せられかねなかった。


「クレイグ兄上経由でジャネット姉上に話を通してもいいけれど……うん。やっぱりその連絡もひっくるめてライアン兄上に丸投げするとしよう」


 にっこりと良い笑顔で告げたロイに、ルカは苦笑を浮かべてしまう。


 近衛騎士を務める次兄クレイグなら、現王妃である長姉に伝えることができる。

 正義感に満ち溢れた彼女に話が伝われば簡単に問題解決に動いてくれるだろう。


 だが、ロイはできるだけ王家に関わりたくなかった。

 何を隠そう、幼い頃ロイを神童扱いし、大げさに褒めそやした元凶が前国王なのだ。


 悪気はなかったにせよ、そのせいで人間不信に陥ったロイとしては、どうしようもない暴れん坊だと思って触れずにいてくれたほうが都合が良い。自ら関わるなんてもっての外だ。


 よって、次兄のクレイグではなく長兄でもあり次期スカイラー公爵家当主でもあるライアンに頼むのが一番の近道だという結論だ。


 しかし。


「若様には同情を禁じ得ませんね。いつだってロイさんのしでかしたことの後始末をしていただいていますから」

「できた人だよね、ライアン兄上は。尊敬しているとも」


 普段からロイの尻拭いをする係となっているライアンはとても不憫だ。

 厳しい父とは違い、末っ子ロイに甘いライアンは文句を言いつつもなんだかんだと手を貸してくれるのだ。


 それに甘え、当たり前のように頼り切っているロイもまた根っからの末っ子気質である。


 鼻歌交じりで手紙をさらさらと書き始めたロイは、最後に軽く確認だけをして封筒に入れ、赤い封蝋を押す。

 ルカに手紙を託すと、ロイは肩をすくめながら愚痴を溢した。


「やれやれ、気に入らない相手を直接成敗できないというのは実にストレスが溜まるね」

「ついこの間、暴れたばかりでしょう」

「組織のボスはいなかったろう? 消化不良さ」


 基本的には力で相手をねじ伏せるロイにとって、同じ高位貴族は最も厄介な相手となる。


「さ、小難しいことは実家に任せて、僕はいつも通り骨董品店の営業に勤しむとしよう。ルカ、手紙は頼んだよ」


 とはいえ普段からあまり客の来ない店において、ロイの仕事はほとんどない。

 カウンター内にある背の高いスツールに腰かけてのんびりと読書を始めたロイを確認したルカは、承知いたしましたと軽く頭を下げると手紙を届けるべく店を後にした。


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