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鑑定士ロイの伝わりにくい溺愛  作者: 阿井りいあ


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40 鑑定士ロイは諦めない


 どのくらいそうしていただろうか。

 どちらからともなく体を離した二人は、互いを愛おしげに見つめ合う。


 そして……。


「よし! すっきりしました!」

「え?」

「ありがとうございます、ロイさん。これで私はもう大丈夫です」


 急にパッと手を離したメラニアが急に明るくそう言い放った。


 なんだか雲行きが怪しい。

 いましがた自分たちは愛を告げ合い、相思相愛になったのではなかったか。


 つまり、恋人になれたのではなかったか。


 だというのに、メラニアの態度はまるで友人のそれだ。


「お互い、本音をぶつけられましたよね。思い合っているってわかっただけで私は十分幸せです」

「あの」

「あ、心配しないでください。私はロイさんやデルロイ様のことを邪魔しませんから」

「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?」


 いまだ混乱中のロイは一度メラニアの言葉を切ると、両肩を掴んで問い質す。

 メラニアは少し目を伏せると諦めたような笑みを浮かべ、それでいて明るい声で告げた。


「だってロイさん……デルロイ様は、いずれどこかの貴族のお姫様とご結婚なさるのでしょう? でも大丈夫。この思い出があれば私、祝福できます。本当です」


 メラニアは、貴族がどういうものかをちゃんと理解していた。

 ロイはぐっと言葉に詰まり、すぐには反論を口にできずにいる。


「私の人生で一番幸せな思い出をありがとうございます。気まずくならないように気をつけますから、できればこのまま働かせてもらえると助かるのですが……」


 完全に諦めた様子のメラニアに対し、ロイはどこから何を伝えればいいのかわからなくなってきた。


 たしかに普通の貴族ならそうなるだろう。特にロイは公爵家の末息子であるし、妻となる女性の家柄はかなり重視される。


 しかし、ロイは規格外の存在だ。暴れん坊の「血紅の公子」なのである。

 当然、うるさく言う者はいくらでも出てくるだろうが、全てを力でねじ伏せられる実力も実績もあるのだ。


 最大の壁は父であるスカイラー公爵だが、それさえもロイはなんとかできると考えていた。

 やっと思いが通じ合ったメラニアと結ばれるためなら、この男はなんだってやる。


「だめ、ですか? 無理ならせめて新しい仕事を探すまで……」

「無理じゃありません! そうではなく……」

「よかった! では、これからも変わらず(・・・・)よろしくお願いしますね、ロイさん!」


 話はこれで終わり、とばかりに両手を軽く打ち鳴らすメラニアに、ロイはわなわな震える。

 当然、これからも変わらずだなんてロイが了承できるはずもなかった。


「嫌ですっ! 僕はメラニアさん以外の女性と結婚なんてしませんから!」

「わがままを言ってはダメですよ、ロイさん。貴族の義務があるのでしょう?」

「そんなものは殴り飛ばします」

「もう。駄々っ子みたいなことを言って」


 実際、今の状況は駄々をこねる子どもと宥める母親のようだ。

 客観的に見なくてもロイも自分が無茶を言っている自覚はあるのだが、メラニアだってわからず屋だと思っていた。


(これが思いを告げあった直後の男女の姿か……? いや、絶対に違うっ!)


 なおも説得してくるメラニアに対し、ロイは必死で言葉を紡ぐ。


「現実的に考えて平民と公爵家の貴族様が結ばれるなんてあり得ないでしょう? そんな夢物語、信じられませんし」

「っ、それもなんとかします!」

「あ、駆け落ちとかはなしですよ。危険なことも誰かに迷惑をかけることも一切なしです」

「うっ」


 しかしメラニアはなかなかに手ごわい。あまりにも現実主義だ。

 しかもロイがデルロイだと知った今、危険なことを平気でする人だとしっかり認識してしまっている。


「万が一ロイさんが本気なら、なんとかなる目途がたってから言ってください。現実味を帯びた計画だったら……」

「! だったら?」


 しかし、メラニアもほんの少しだけ希望を持ってくれているようだった。


「ロイさんのことを信じて、いい子で待ってます」


 ほんのり頬を染めて告げるメラニアが可愛すぎる。

 ロイは我慢できずガバッとメラニアを抱きしめた。


「必ず! 必ずなんとかしてみせます!!」

「きゃっ、わ、わかりました! わかりましたから……あっ、ルカくんが帰ってきたみたい! ロ、ロイさんっ、は、離れてくださいっ、ルカくんが見てますからぁっ!」


 じたばたと暴れるメラニアだったが、怪力スキルがないロイであってもびくともしない。


 そんな折、ドアの隙間からそっと様子を窺っていたルカがメラニアに見つかってしまい、申し訳なさそうな顔を浮かべていた。


「まだ帰るのが早かったみたいですね、すみません。出直して……」

「ルカくん、おかえりなさい! 買い物ありがとう! ほら、ロイさん! 荷物の片付けを手伝ってくださいっ」

「つれないな、僕の恋人は」

「か、仮ですから! まだ!」

「思い合っているのに!? ああ、神様はどこまで僕に試練を与えるのだろう……! このままメラニアさんとずっと愛を囁き合っていたいのにっ」

「も~~~っ! ルカくん、引き離すのを手伝って~!」

「だめだよ、ルカ。僕らの愛を邪魔しないでね」


 目の前で繰り広げられる光景に呆気にとられたルカは、どうしたらよいのかわからずしばし立ち尽くす。

 ただ、この二人のやり取りを見ているだけでなんとなく事情は察したようで。


 ルカはつかつかと二人に歩み寄ると、ロイをメラニアから引き離す手伝いをしながら淡々と口を開いた。


「ロイさん。レディーの嫌がることをしてはいけないといつも言っていますよね」

「くっ、ルカへの英才教育がこんなところで僕を邪魔するというのか……!」

「彼女に嫌われてもいいというのなら、ロイさんに協力します」

「オーケー、すぐに離れるよ。うぅ、メラニアさん……」


 メラニアを助ける選択をしたルカの行動はどうやら正解だったようだ。

 実のところ、主人に逆らうような選択になってはいないかとヒヤヒヤしていたが、ロイならわかってくれるという信頼があったからこそ。


 そんなルカの小さくも大きな変化に、ロイも嬉しそうに口角を上げている。


 加えてロイは今、過去最高に気分が良い。


 メラニアがロイの立場を気にしているだけで、気持ちはこちらに向いていることさえわかっていれば問題ない。

 あとは、残る障害を全て殴り飛ばしていけばいいだけ。ロイにとっては簡単なことだ。


 そうとわかれば今すべきことは、決まっている。


「よし、気持ちを切り替えていこう。やらねばならないことははっきりしたからね。まずは昼食を摂って、午後の仕事の準備だ!」


 パッといつも通りの笑みを浮かべて軽く手を広げながら宣言したロイを、メラニアとルカは目を丸くして見ている。

 それから数瞬の後、二人は目配せをし合って笑みを浮かべた。


「はい、わかりました!」

「承知いたしました」


 いつもと変わらぬ声が響き、骨董品店は平和な日常へと戻っていく。

 いつもと違うのは、ロイとメラニアが互いを一番に思い合うようになったこと。


 その変化はきっと、この先の日常を大きく変えていくのだろう。


これにて完結です!

お読みいただきありがとうございました!

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